AFP=時事

写真拡大

 いよいよ令和の新時代を迎えた。改元フィーバーに沸いた日本社会だが、その反面で、政治権力者による皇室とその伝統の無視が平然と行われた。
 
 保守系オピニオン誌『月刊日本6月号』では、『「平成の天皇」論』(講談社現代新書)を上梓した毎日新聞編集委員兼論説委員の伊藤智永氏のインタビューを掲載。いかにして、「おことば」への政権の関与があったのかを詳らかにしている。

◆安倍首相の指示で「おことば」を添削

―― 伊藤さんは著書『「平成の天皇」論』(講談社現代新書)の中で、安倍政権と皇室のあつれきを生々しく描いています。特に安倍政権が平成28年8月8日の「おことば」に手を加えていた事実は衝撃的でした。

伊藤智永氏(以下、伊藤):もともと退位の意向は2014年の秋に宮内庁から安倍政権に伝えられていましたが、黙殺されていました。そこで上皇陛下は直接国民に訴えるしかないと考え、2015年の春には「お気持ち」の原案を用意しました。これは12月の誕生日会見で切り出すつもりでしたが、再び先送りにされました。

 結局、退位の意向は2016年7月13日にNHKのスクープで明らかになりました。安倍総理はこの時初めて「お気持ち」の原稿に目を通したといいます。その後、安倍首相は衛藤晟一首相補佐官に原稿を渡し、「おことば」を添削させました。「天皇のすべての行為には内閣の助言と承認を必要とする」のだから当然だという考えなのでしょう。

 衛藤氏は日本会議の重鎮です。NHKのスクープ後、日本会議は「退位反対」で安倍首相に猛然と働きかけていました。首相が衛藤氏に原稿チェックを任せたのも、特別待遇で日本会議の意向を反映させるから「あまり騒ぐな」というガス抜きのニュアンスに近かったようです。

 それから官邸と宮内庁の間でやりとりが行われ、原案に二箇所あった欧州の王室における生前退位の事例について触れた部分は、衛藤氏が「欧州の王室に倣う必要はない」という理由で削除を求め、上皇側も受け入れたそうです。衛藤氏は皇族の負担を懸念する箇所と摂政を否定した箇所も削除を求めましたが、これは上皇陛下の強い意向で残されました。

 それでも安倍政権は摂政を置いて退位を認めない方向で、上皇側を押し返そうとしていました。しかし、8月8日に上皇陛下が「お気持ち」を発表すると、世論の圧倒的な支持に押される形で退位容認に舵を切りました。

 その後、9月23日に「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」が設置され、生前退位に向けた議論が始まりました。しかし、有識者16人中6人は日本会議の関係者であり、官邸の関係者は「この『右寄り』の人選は、総理の指名だ」と話していました。

 安倍首相は、世論の大勢に従う現実主義と「保守」のバッジは付けておきたいイメージ戦略の両睨みだったのでしょう。退位の段取りは進めながら、日本会議の主張を前面に押し出すことで退位に反対する「保守」への配慮も印象づけた。これだけ異論もある中で退位を実現できるのは「保守」の私だからですよというアピールです。

◆「朝日の書いた通りには絶対にさせない」

―― 改元日程も安倍総理が独断で決めました。

伊藤:改元(退位・即位)の日程案は、2017年1月6日に初めて安倍首相、菅官房長官、杉田和博官房副長官の間で議論され、

2018年12月23日(天皇誕生日)
2019年1月1日(新年)
2019年4月1日(年度替わり)

の三案が用意されていました。

 宮内庁は「年度替わり案」を希望していましたが、安倍首相は「分かりやすい」という理由で「新年案」を推し、菅氏も賛成したことで会議はまとまりました。「元日の祭祀は簡略化すれば、即位だけ元日にすることもできる」という考えだったようです。