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もくじ

ー 新たなEV時代の到来
ー ボディサイズとプロポーション
ー ボディ、サスペンション、ホイール
ー バッテリーとパワートレイン
ー 商品性

新たなEV時代の到来

2021年に登場予定のダイソン製EVは、レンジローバークラスのボディサイズに、スリークなクロスオーバースタイルを組み合わせたプレミアムサルーンになると予想されているが、そのプロポーションは、この伝統的な英国製4×4モデルのみならず、既存のいかなる量産モデルとも異なるものになりそうだ。

先日公開された特許情報によって、この稀代の発明家、ジェームズ・ダイソンが考えるEVの主要なディテールが突如明らかにされており、特許内容からは、このクルマの極端に延長されたホイールベースと独特なクロスオーバースタイルのボディ、見たこともないほど巨大で薄いタイヤサイズ、さらには短いボディオーバーハングや、強く寝かされたウインドスクリーンといったものが見て取れる。

それでも、ダイソン社は秘密主義で有名であり、特許申請のイメージ(つまりはここに掲載しているイメージだ)が、新型EVのスタイリングそのものを示しているわけではなく、今回の特許情報の公開で明らかにされたデザインや設計のうち、実際に採用されるのはごく僅かに留まると話している。

長くその登場が噂されていたダイソン製EVの開発が公式に確認されたのは2017年後半のことだった。ジェームズ・ダイソンが25億ポンドもの私財を投じるこのEV計画は、これまでの2年間でより具体的なものとなっており、開発自体は、2016年9月、副社長としてダイソンに加わった、元アストン マーティンのイアン・ミナーズ主導で進められている。

今回公開された特許内容が示しているのは、大型モデルのデザインに関するまったく新しい発想であり、急速に近づきつつあるEV時代に向けたエンジニアリング方法に他ならない。

軽量化を進め空気抵抗を削減することで、パフォーマンスと航続距離の最大化を図るとともに、広大なキャビンスペースを確保し、特にダイソンが重視している快適な乗り心地を実現しようとしているのだ。

この新型EVの初期ロットは、現在ウィルトシャーに2億ポンドで建設中のダイソンの自動車部門本社で生産されることになるが、その後の量産は、創業者であるサー・ジェームズ・ダイソンが拠点としているシンガポールで行われる予定であり、英国版Autocarでは、この地でダイソン本人への独占インタビューに成功している。

ウィルトシャーの新拠点には、テスラやジャガー・ランドローバーといった自動車メーカーからの転職組も含め、総勢500人ものエンジニアを擁するEV専用テクニカルセンターがすでに完成しており、最終的には、M4号線の近く、2.1平方キロメートルの広さを誇るかつての英国空軍ハラビントン基地にある、戦時中格納庫として使用されていた6つの建物も転用することで、さらなる拡張が予定されている。

プロトタイプの生産施設は来月オープン予定であり、16kmの長さを持つテストコースも現在建設が進められている。

ボディサイズとプロポーション

公開された特許情報によれば、このクルマの全長は、スタンダードなレンジローバーと同じく5mほどになるようだが、ホイールベースは40cm以上も長い330cmに達しており、さらに、全高が約165cmと25cm以上低いにもかかわらず、最低地上高はレンジローバーの22cmを4〜6cmも上回っている。

ダイソンがこのクルマを農耕用車両にするつもりはないようだが、ランドローバーと比べても素晴らしい、アプローチ/ブレークオーバー/デパーチャーアングルを確保しており、ジェームズ・ダイソンは「さまざまな可能性が考えられます」と話している。

高いフロアと低いルーフの組み合わせは、フロア下に搭載されたワイドで長く、そして薄いバッテリーと、サルーンのようなシートレイアウトが可能にしたものであり、ダイソンでは「コマンド」ドライビングポジションと呼んでいる。

さらに、おそらく2基が搭載されるコンパクトな電気モーターと、極端に寝かせたフロントスクリーン、さらにはショートノーズによって、キャブフォーワードレイアウトを実現しており、全長の多くをキャビンスペースとして活用することに成功している。

特許資料では、7シーターの可能性も示唆しており、2列目と3列目シートでは、フロントシートよりも高く乗員を座らせることで、良好な見晴らしを確保することも可能だろう。

かさばる内燃機関を持たず、ボディと一体化したようなフェンダーデザインが可能な、細く大きなタイヤを採用することで、さらに10cmほど全幅を縮めることも可能だとダイソンは話しており、空気抵抗を削減すべく、前面投影面積の大きさにも注意が払われている。

ボディ、サスペンション、ホイール

スチールでは重すぎ、カーボンファイバーは、今回のEV計画で使用可能なレベルにまで熟成が進んでいないと、ダイソン本人とエンジニアたちが感じていることから、ボディはアルミニウム製になるという。

公開された特許情報によれば、ダイソン製EVは、ボディの下にプラットフォーム形状に合わせたバッテリーを搭載しており、この場合、非常に強固で、十分な安全性を持つケースが必要となるため、シャシーには、フロントとリアのサブフレームを持つ「スケートボード」方式が採用されることになるだろう。

さらに、サスペンションには車高調整とセルフレベリング機構が採用される可能性が高く、ダイソン本人はロングホイールベースによるピッチングの少なさにも言及している。

ダイソン製EVでは、扁平率45から55の薄いタイヤに、23〜24インチという途方もない大径アルミホイールの組み合わせが採用される見込みであり、すでにタイヤサプライヤーは確保済みだと言う。

ジェームズ・ダイソンによれば、テストの結果、このタイヤとホイールサイズの組み合わせは、より小径で太いタイヤよりもはるかに転がり抵抗が小さいことが明らかとなっており、しばしば不利とされるその巨大なイナーシャも、回生ブレーキには有利に働くという。

この驚くべきホイールとタイヤサイズの組み合わせは、空気抵抗を削減し、乗り心地に有利な低い空気圧を可能にするとともに、ウェット路面での耐アクアプレーニング性能を向上させ、タイヤ設置面積が小さくなることで、キャビンに達するロードノイズも減るという。

グリップに関して、このタイヤは、サイド方向ではなく、回転方向で十分な接地面積を確保しているとのことだ。

バッテリーとパワートレイン

今回公開された特許情報では、理論的にバッテリー、水素、さらにはガソリンハイブリッドが搭載可能であること以外、パワートレインの詳細については何も明かされていないが、ダイソンでは、現在ほとんどすべてのEVで使用されているリチウムイオンに代わって、次世代バッテリーの本命とされている全固体電池に関して、異なるふたつの研究開発が進められているという。

研究開発は、英国を含む世界4カ所で行われており、初期モデルではリチウムイオンバッテリーが搭載される可能性もあるが、最終的には、エネルギー密度と重量に優れるこの次世代型バッテリーが積まれる可能性が高い。

コースティングとブレーキング時の回生エネルギー充電の面で有利だという理由から、電気モーターの数は1基以上になるだろうという以外、今回のEVで使用するモーターについては何も明かされていないが、ダイソン製高速電気モーターの性能は世界トップであると同時に、もっともコンパクトでもあり、おそらくは自社製モーターが、非常に優れたパッケージで搭載されることになるだろう。

商品性

5m級のボディを持つ7シーターモデルであり、非常に高価なバッテリーを搭載し、特別なホイールとサスペンション、さらにはブレーキを備えることを考えれば、間違いなくこのクルマはプレミアムなモデルになるだろう。

ダイソン自身が自社の新型EVについて語るとき、レンジローバーやテスラに言及しているとおり、アストン マーティンの元チーフエンジニアであるイアン・ミナーズを迎え入れ、BMWで上級副社長を務めたイアン・ロバートソンを取締役として招聘したのは、少なくとも価格面においては、こうしたモデルがライバルだということであり、単なる予想ではあるが、おそらくその価格は10万ポンド(1401万円)ほどになると考えられる。

この新型EVは全世界での販売が予定されており、中国では多くの注目を集めるに違いない。生産台数についての発表はないが、開発コストを考えれば、希少なハンドメイドのスペシャルモデルのような規模に留まることはなく、ダイソンのブランド力と、いままでにない、先進的で高品質な製品を創り出すメーカーとしての評価は、間違いなくこの新型EVにもプラスに働くに違いない。

今回公開された特許情報で明らかとなったすべての情報が、高い信頼性と、長く続く革新性を備えた高級EVの登場を示唆しており、この予想が正しかったことが証明されるのを、楽しみに待ちたいと思う。