アーケードゲーム版「太鼓の達人」(ナムコ)の筐体(小石川人晃/Wikimedia Commons)

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オークションサイトに出品!?

 5月3日、民放のテレビニュースで「人気ゲーム『太鼓の達人』窃盗の瞬間」の動画が何度も放送された。ご覧になった方もおられるだろう。

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 各社の報道によると、犯行現場は愛知県・北名古屋市のスーパーにある無人のゲームコーナー。4月29日午後4時ごろ、少年と見られる2人組がゲーム機の筐体から、2つある太鼓のうち1つだけを取り外した。

 2人組は袋を被せると、そのまま堂々と持ち去った。太鼓を固定していたボルトは外され、本体と繋ぐ配線は切られていたという。ゲームコーナーの運営会社は、「警鐘を鳴らすため」防犯カメラの映像を公開。極めて珍しい動画だったことから全国ネットで放送された。

アーケードゲーム版「太鼓の達人」(ナムコ)の筐体(小石川人晃/Wikimedia Commons)

 反響が大きかったことは想像に難くない。その結果、事件はスピード解決を迎える。5月7日に中日新聞は夕刊に「『太鼓の達人』盗難 少年3人出頭 愛知県警、容疑で書類送検へ」の記事を掲載した。ポイントとなる部分を引用させていただく。

《捜査関係者によると、1人が今月3日に、残り2人が4日に署に連絡し、事件への関与を認めた。3人はこのゲームのファンで、「太鼓が欲しかった」などと供述している。太鼓は既に店側に返却された》(註:数字表記をデイリー新潮のフォーマットにあわせた)

 これほど力の入った報道が行われるということが、改めて「太鼓の達人」の人気を実感させる。ナムコ(現:バンダイナムコホールディングス)が初めて発売したのは2001年。まさに正真正銘のロングセラーだろう。ITジャーナリストの井上トシユキ氏が言う。

「業務用ゲーム機を“アーケードゲーム”と呼びますが、『太鼓の達人』はゲームセンターの風景を変えた人気機種としても過言ではないと思います。1978年に『スペースインベーダー』が大ヒットして以来、日本ではテーブル形のアーケードゲームが多数派でした。100円玉を積み上げてマニアがプレイに没頭する姿は、ゲームセンターに暗いイメージを与えていました。これを『太鼓の達人』が一変させます」

 念のため「太鼓の達人」の内容を説明しておくと、プレイヤーは画面の指示に従い、バチで太鼓を叩く。その正確性を競うという内容だ。テーブル形のアーケードゲームとは異なり、身体を動かす必要がある。これが明るさを生む。

「太鼓を叩くこと自体は簡単ですが、とても楽しい。おまけに奥が深い。何より中高年でも女性でも非常に取っ付きやすいのがヒットの理由でしょう。もちろん若者のファンも多く、過去には世界大会も開催されています。YouTubeなどの動画サイトで『太鼓の達人 神』などと検索してもらえば、“名人”のとんでもないバチ捌きをご覧になれます」(同・井上氏)

 これほどの人気があり、犯人の少年たちは迷うことなく配線を切断し、持ち出した。こうした事実から「転売目的」という推測が報道されたのは仕方なかっただろう。テレビ朝日の総合ニュースサイト「テレ朝news」は5月4日、「ゲーセンで太鼓盗む2人組 相次ぐ被害に泣き寝入り」と報じた。この記事のポイントは2つだ。

【1】このゲームコーナーでは1か月ほど前にも、太鼓の叩く面だけが盗まれた。

【2】行動があまりに大胆で、準備も周到。初犯ではない可能性もあるのではないか。オークションサイトでも部品1つが相当な高額で取引されている。

 ところがオークションサイトを検索してみても、「太鼓の達人」は全く出てこない。表示されるのは他のゲームばかりだ。少年たちは何のために盗んだのか。

北朝鮮やテロ組織が欲しがる「基板」

 一方、検索エンジンで調べてみると、アーケードゲームの中古を売買する専門店が表示される。「太鼓の達人」はここでも人気商品らしく、ある店では「太鼓の達人11」が30万円で売られていた。事情をよく知る関係者に取材を依頼した。

「私の知る限り、『太鼓の達人』のパーツがオークションサイトに出品されることは少ないと思います。一方、アーケードゲームの中古市場では非常に人気があります。背景にあるのは2011年以降、『太鼓の達人』を稼働するにはインターネットに接続する必要が生じたという点です」

 筐体自体は5年でも10年でも保つ。だが、客は最新のヒット曲で太鼓を叩きたい。このニーズに合わせ、毎年のように作り替えるのは、メーカーにもゲームセンターにも効率がよくない。これを解決したのがネット接続だという。

「ネットを使い、筐体に曲をダウンロードさせるようになったのです。これで曲の入れ替えが容易になりましたが、この変更で困るゲームセンターも出てきました。この筐体を店に置くためには、バンダイナムコさんから新品の『太鼓の達人』を購入する必要がありますが、正直なところ、資金力がないお店も少なくありません。そこで私たちがネットに接続する必要のない、古い『太鼓の達人』を30万円程度で販売すると、喜んで買ってくれるゲームセンターがあるということです」(同・関係者)

 大阪に本社を置く「バリーポンド」はゲームセンターを運営するほか、アーケードゲームなど“中古アミューズメント機器”の販売や買取、リースなどを行っている。同社の担当者によると「中古の『太鼓の達人』は、ゲームセンター以外にも販売先があります」と説明する。

「例えば、旅館やホテルが宿泊者サービスのために、中古の『太鼓の達人』を設置されることがあります。ゲームセンターではありませんから、ネット接続が必要な最新型はオーバースペックであり、予算オーバーになってしまいます。そこで中古の出番というわけです。あと意外にニーズが高いのは福祉関係ですね。例えば、ボケ防止のため、高齢者にプレイしてもらおうと購入してくださいます。こちらも最新ヒット曲でバチを叩く必要はありませんから、中古品がぴったりなんですね」

 前出の井上トシユキ氏は「結局のところ、アーケードゲームもゲームセンターも、業界としては右肩下がりになっているのが最大の原因です」と指摘する。

「ゲームセンターは家庭用ゲーム機の高性能化でじりじりと押され、スマートフォンの普及でとどめを刺されました。ゲーム機に100円を払う消費者は少なくなり、多くの人は無料のネットゲームを圧倒的に支持しています。店を畳むゲームセンターが増えており、そのために中古品が出回っているのです」

 オークションサイトを見れば、パーツの出品も少なくない。例えば、アーケードゲームの基板に数万円の値段が付けられている。これはゲームマニアが買うだけではない。“密輸品”として高額取引されるケースもあるという。

「最新型ではないにしても、回路には高性能のICが使われています。北朝鮮や中東のテロ組織にとっては、喉から手が出るほど欲しいものです。おまけに捨てられる基板は産廃として扱われることが少なくなく、輸出時に『鉄くず』と言い張ることも可能です。つまり、IC輸出を隠蔽できるわけです。私は以前、中古ゲーム機を扱っている方に話を訊きましたが、目隠しをされ、現在地が分からない状態で取引したこともあったそうです。実はアーケードゲームの中古市場では、スパイ小説の世界がリアルに展開されていたりします」(同・井上氏)

 もちろん愛知県の少年は太鼓を盗んだだけであり、筐体を強奪したわけではない。こうしたことからも転売目的は考えにくい。愛知県警の調べに対し、正直に供述しているのだろう。

「『太鼓の達人』の太鼓だけ、バチだけをネットオークションで売っても、買い手は少ないでしょう。また中古アーケード市場なら、ゲームセンターから買取の要請があり、それをゲームセンターに売るのが取引の大半です。一般の方が『太鼓の達人を買ってください』と連絡してきたら、反射的に盗難を疑うと思いますね」(前出の関係者)

 バンダイナムコアミューズメントに文書で取材を依頼すると、次のようなやり取りとなった。

Q:デビュー以来、筐体の製造(販売)累計は?

A:出荷台数につきましては非公表とさせていただいておりますが、全国のゲームセンターで約4千台以上が稼働しております。

Q:未だに人気が衰えない理由を、どのように分析しておられますか?

A:本物の和太鼓を叩いているような気分が味わえること、譜面に合わせて叩くだけのシンプルなゲーム性、人気曲や旬な楽曲が定期的に提供されることが多くのお客様に長く支持されている点と認識しております。

Q:ゲームセンターの店舗数が減少していますが、「太鼓の達人」の筐体は、1年にどれくらいの個数が製造されていますか? メンテナンスの対応などが厳しくなっているとの声も聞かれますが、いかがでしょうか?

A:年間何台という形で安定的に生産しているものではございません。一般的に業務用ゲーム機器は限定的な市場ということもあり、
新製品発売時の受注状況などをもとに生産数が固まるケースが多いためです。

Q:先日、愛知県警で「太鼓の達人」を盗んだ少年たちが逮捕されましたが、人気を背景とした盗難事件の多発を、耳にされたことはございますか?

A:今回の事案を受けて情報収集を進めております。

 以上が一問一答だ--もしや少年たちは、家で練習するために盗んだのか。

週刊新潮WEB取材班

2019年5月22日 掲載