『ハプジョン・テジクッパ』の外観。この店に向かって背中側がタプコル公園。左手の路地がテジクッパ横丁で、庶民的な食堂が連なっている

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ソウルで "旧市街の逆襲" が始まっている。

【写真13枚】ソウル旧市街にある人気の大衆食堂メニュー&お店を写真でじっくり見る

韓流やK-POPのブレイク以降、韓国に対してアジア的なものより、おしゃれなもの、かわいいものを求める層が増えた。

そのため、ソウルを横切る漢江(ハンガン)の南側の江南(カンナム)エリアや、西寄りの学生街・弘大(ホンデ)が十数年間、人気エリアだったが、ここ数年、若者のあいだで懐古趣味が盛り上がっていることもあり、漢江北側の旧市街が脚光を浴びている。

その象徴が、伝統家屋をリノベーションしたおしゃれなカフェやレストランが急増している益善洞(イクソンドン)を含む鍾路3街(チョンノサムガ)エリアだ。

今回は、そんな旧市街にある人気の大衆食堂を3軒、お教しえしよう。

太刀魚とダイコンの煮物が美味しい店(景福宮エリア)

ソウルを代表する人気観光地・景福宮(キョンボックン)駅の7番出入口の近くにある川魚と海鮮料理の専門店。

午前11時半くらいになると、昼食をとるお客さんが3卓ほどのテーブルに陣取り始め、12時近くなるころには座敷もあらかた埋まってしまう。

人気のカルチムウチョリムは、太刀魚(カルチ)とムウ(ダイコン)を辛く煮たもの。これに豆腐やキムチ、ナムルなど副菜5皿と五穀米のごはんが付く。日本で言えばサバ味噌煮定食のようなものだ。もちろん、ここは韓国。サバ味噌煮よりずっと辛い。これで7,000ウォンは立地を考えたら良心的だ。

2切れ入っている太刀魚の身はふわっとしていて、しっかり魚の風味が感じられる。しょっぱくて辛いソースが強過ぎて、何を食べているのかわからなくなるなんてことはない。味のしみたダイコンも名脇役で、ごはんが進む。

この店のあるブロックの南側は、東京でいえば丸の内や日比谷のようなオフィス街なのだが、ここは伝統家屋など低層階の建物が多く、早くも益善洞のようにリノベーションされたカフェやレストランができ始めている。今後、注目のエリアになりそうなので、散歩しても楽しいだろう。

トンガン・ミンムルコギ
鍾路区弼雲洞278-5 TEL: 02-723-0840 8:00頃〜21:00頃 無休

ソウルで釜山名物を。ディープなエリアだけど、入りやすい店(鍾路3街)

今、注目の鍾路3街エリアは、

1、お年寄りが憩うタプコル公園周辺

2、若者が集まるおしゃれな益善洞

3、酔客があふれる鍾路3街駅3〜8番出入口沿いの屋台通り

の3つに大きく分けられる。

『ハプジョン・テジクッパ』は、まさに1のエリアの目立つところにできた新しい店だ。この辺りは「楽園洞テジ(豚)クッパ横丁」と呼ばれる庶民の食堂街なのだが、ディープ過ぎて外国人旅行者には少々入りにくいかもしれない。

しかし、この店はタプコル公園に面したところにあり、目の前が広場のようになっているので、雰囲気が明るい。店の前面がガラス張りなので中の様子もよくわかる。この店に向かって左手の路地に連なる店と比べると、群を抜いて入りやすい。

テジクッパは釜山を中心とした半島南東部で食べられてきたが、近年の地方旅行ブームで全国的に認知されるようになった。この店のそれは豚肉を長時間煮込んだ白濁したスープの中に、豚肉片とニラ、ネギ、ごはんが入っていて5,000ウォン。

副菜は青唐辛子と白菜キムチ、ダイコンキムチ。スープは薄味なので、しょっぱいのが好きな人はアミの塩辛を加えて食べるとよい。豚肉はスープから取り出して味噌をつけて食べてもよい。

ハプジョン・テジクッパ
鍾路区楽園洞418-3 TEL:02-742-4142 11:00〜21:00 無休

高層オフィス街で取り残された雑居ビルでがんばる50年の老舗

韓国は朝鮮戦争や民主化運動など激動の時代を経て、世の中が落ち着いてからまだ20数年しか経っていない。

日本では百年くらいの歴史がないと老舗とは言わないかもしれないが、韓国で創業50年の食堂といったら、なかなかたいしたものなのである。

ヘジャンクッ(酔い覚ましスープ)の老舗『興進屋(フンジノク)』がある清進洞(チョンジンドン)というところは、日本の人にもおなじみの仁寺洞(インサドン)の西側に位置している。

十年くらい前までは、今の鍾路3街のような庶民的な繁華街だったのだが、再開発が一気に進み、今や高層ビルが立ち並ぶ江南のような街になってしまった。

鍾路3街の行く末を見るようで少々悲しい。

清進洞には『清進屋(チョンジノク)』というさらに歴史のあるヘジャンクッの老舗があるのだが、再開発が進んだとき、表通りに面した大きな新築ビル1階に移転してしまった。

『興進屋』はこの店の後塵を拝するナンバー2的存在なのだが、再開発で立ち退きになった後も、すぐ近くの雑居ビルに移転し、しぶとく営業を続けているので、なんとなく応援したくなってしまうのだ。

ヘジャンクッとは二日酔い解消のために食べることが多いのだが、二日酔いでなくても美味しくいただける。地域ごとに特徴があるが、ソウルではレバーのような色をしたソンジと呼ばれる牛の血の煮凝りがゴロンと入っているのが一般的。一見グロテスクだが、食べると案外淡白で、レバーが苦手でなければ気に入るはずだ。

この店のそれにはソンジ、牛モツ、豆モヤシ、ダイコンの干し葉が入っている。薄味なので、卓上の塩を足して味を調節してもいいし、塩分が気になる人はそのまま食べて、副菜のキムチを味のアクセントにしてもいいだろう。

値段は8,000ウォンで、ナンバー1の店より2,000ウォン安い。

興進屋
鍾路区清進洞142-1 TEL: 02-732-2214 9:00〜15:00 17:00〜22:00 日曜休

※本コラムの筆者の新刊『韓国の旅と酒場とグルメ横丁(仮)』が9月上旬、双葉社より発売予定です。