■お客の心をぐっと掴む「3割引き」という数字

スーパーでは夕方になるとよく惣菜や刺身などのパックに値引きシールが張られる。1割引き、2割引きと時間が経つにつれて値引き率がアップしていく。ところで、この値引き、人はいくら安くなると購買意欲が高まるのか。一般的に経験則に基づいて「3割引き」といわれている。

実は、私のセミナーでも実証されている。9800円の商品があるとしよう。シャツでも靴でも何でもかまわない。ただ、いますぐにほしいわけではなく、いつか買いたいと思っているものだ。ある日、店の前を通ったら、一日限定のセールをやっていた。あなたは何割引きなら買う気になるだろう。

セミナー参加者に尋ねたところ、1割引きだと手をあげる人はほぼゼロ。2割引きでも反応は薄い。が、3割引きになると手をあげる人が急に増え、5割引きだとほぼ全員になる。

当たり前だが、人は割引率が高まるにつれて、割安感を強く感じるようになる。その到達点といえるのが半額(50%引き)になったときだ。つまり、全体(100%)のうちの半分(50%)まで値下がりしたときが、購買衝動を突き動かす大きな分岐点になる。さらに、その1つ手前にも小さな分岐点がある。半分の半分である25%だ。20%では割安感は弱いが、25%を超えると高まり、30%に近くなっていくと明らかに変化する。

■「頭の数」が大きく変わることも大事

典型例として吉野家のケースを見てみよう。2001年8月1日に東日本で、当時の吉野家ディー・アンド・シーは「牛丼 並盛」を400円から280円に120円値下げした(現在は380円)。この値引き率は、まさに30%だった。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/gt29)

その結果、戦略は見事に当たった。強い割安感にひかれて吉野家の各店舗に大勢の客が押し寄せ、01年8月の既存店の客数は前年同月比105%増。つまり、2倍以上の客数となった。値下げで客単価が28%程度ダウンしたものの、この客数の大幅な伸びでカバーして、売上高は48.1%増となったのだ。このときの牛丼フィーバーを記憶している人も多いのではないか。

この例ではもう1つポイントがある。頭の数が大きく変わることも大事だということだ。頭の数だけでいえば、「4」が「2」へ半分になっている。値下げをしたときに頭の数が変わることが重要だ。他の例を見てみよう。1800円の商品が10%引きで1620円になってもあまり安くなった気がしないが、1100円の商品が10%引きで頭の数が一ケタ下の990円になると、ぐっとお得感が出てくる。

この3割引きという数字を、ビジネスパーソンはぜひ覚えておいてほしい。自社のセール企画や商談などできっと役立つはずだ。もしも値引き率が低いときは、前述のように頭の数字が変わるようにうまく価格設定したいものである。こうした数字と人の心理をうまく組み合わせて使うのが、データセンスなのだ。

ちなみに近年、私立大学医学部で学費の値下げが相次いでいるが、その先べんをつけたのが順天堂大学で、08年度に従来2970万円だった6年間の学費を、2090万円に引き下げた。値下げ額は880万円、率にして29.6%である。この結果、志願者が増え、偏差値アップに成功した。順天堂大の関係者は、どうやらデータセンスを身に付けていたようだ。

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堀口智之
和から代表取締役
山形大学理学部物理学科卒業。2010年。大人のための数学教室「和(なごみ)」を創業。月間600人を超える社会人が学ぶ。著書に『「データセンス」の磨き方』がある。

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(和から代表取締役 堀口 智之 構成=田之上 信 写真=iStock.com)