和式が多かった駅のトイレ、その「洋式化」が進んでいます。洋式はバリアフリーの観点だけでなく、衛生面でもメリットが大きいといいますが、あえて和式を選ぶという人も。駅の和式トイレは今後、どうなるのでしょうか。

「全駅のトイレ洋式化」掲げる会社も

 駅の個室トイレといえば、ひと昔前は和式が当たり前でしたが、近年、急速に「洋式化」が進んでいます。


2018年度に改修された都営三田線、春日駅の多機能トイレ。都営地下鉄では2021年度末までに全駅のトイレを洋式化する予定(画像:東京都交通局)。

 たとえば東京メトロでは、2019年度内にトイレ全個室の洋式化を完了し、さらに温水洗浄便座や便座クリーナーなどを順次設置するとしています。JR東海では、東海道新幹線の全駅で、改札内のトイレを2020年6月ごろまでに全て洋式化する方針です。もちろん、以前から洋式化の事例はありましたが、目標を定めて本格的に取り組む鉄道会社が増えているのです。

 和式は、車いす利用者や障がい者にとって使用が困難なケースもあり、これを洋式化することはバリアフリーにもつながります。公共交通機関でバリアフリーに対応したトイレを整備する際に、国土交通省の補助を受けられる仕組みがあるほか、観光庁では、増加する外国人旅行者の受け入れ環境を整えるため、公共施設などにおける洋式トイレの整備を推進しています。

 駅トイレの洋式化が進むもうひとつの要因として、これまでバリアフリー対応施設として整備されてきた「多機能トイレ」の利用が増えている、ということも挙げられるでしょう。洋式便器や手すり、場所によってはオムツ替えの台などを備え、障がい者や高齢者、子連れの人など幅広い利用を想定したトイレですが、その数はごくわずかです。駅にひとつある多機能トイレは洋式でも、一般のトイレは和式、といった状況もあり、健常者でもあえて多機能トイレを利用するといったケースも見られます。国土交通省が2012(平成24)年に発表した資料によると、アンケートで車いす使用者の約75%が、「多機能トイレが不足していると感じている」と答えていました。

 同省ではそうした多機能トイレへの利用集中を緩和すべく、おもに健常者に対し利用マナーの啓発などを行ってきました。それとともに、一般トイレにも、多機能トイレに見られる機能を整備し、利用の分散を図る必要があるとしています。

根強い「和式派」、今後はどうなる?

 そうしたなか、洋式ではなく和式をあえて選ぶという人も、決して少なくありません。国土交通省が2016年12月に一般人へ実施したアンケートでは、「外出先のトイレで洋式と和式のどちらを好んで利用するか」という問いに対し、「和式」「どちらかというと和式」と答えた人の割合は、男性で7.3%、女性では19.3%でした。

「和式のメリットに挙げる声が最も大きいのは、やはりお尻が便座に触れないことです。しかし、お尻と便器のあいだに空間ができれば、当然、入りきらないものが周りに飛び散ります」(TOTO)

 TOTOは衛生面を考えても、洋式のほうが優れているといいます。「洋式便座にいる菌の数と、和式便器の周りにいる菌の数では、後者のほうが桁違いに多いです。また、和式トイレの清掃は床を含めて全体的に水を撒き、ブラシなどでこするのが一般的ですが、これは有機物が繁殖しやすい状況といえるでしょう」と話します。

 しかし、公共のトイレにおいて洋式を使いたくないという抵抗感は根強く、鉄道に先駆けて洋式の整備が進んだ高速道路のSA・PAや、近年になり整備が進展している鉄道の駅においても、一定数は和式をあえて残しているところもあるとのこと。TOTOは、今後も和式は残り続けると推測します。


JR千葉駅の男子トイレ。個室はすべて洋式(2016年11月、中島洋平撮影)。

「論理的に考えれば洋式のほうがメリットが大きいのは確実です。誰もが使えるという『ユニバーサルデザイン』の観点からも、和式は選択肢から外れるでしょう。しかし、トイレの習慣は個人差が大きく、人それぞれにこだわりもあります。そうした感覚を否定はできないのです」(TOTO)

 ちなみに、TOTOにおける洋式便器と比較した和式便器の出荷率は、2015年時点で0.7%に過ぎません。それでもニーズがある限り、トイレメーカーとして「和式便器を作り続ける義務がある」(TOTO)といいます。

【グラフ】女性のほうが多い「和式派」


国土交通省が2016年12月に実施したアンケート結果より(画像:国土交通省)。