【Hulu新作】欲望と戒律で板挟み...イスラム青年のアメリカンライフ『Ramy』

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戒律を重んじるムスリムの両親に育てられた青年が、もしも自由で刺激的なアメリカのライフスタイルに染まったら――? メッセージ性の強いコメディ『Ramy(原題)』は、二つの文化に挟まれたイスラム教徒の物語。米Huluで4月中旬から配信されている。

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教義とちょっと距離のある、イスラム青年

イスラム教徒のラミー(ラミー・ユセフ)は、ニュージャージー州のとある地域に住んでいる。戒律に厳しいエジプトからの移民が多く住む地域だが、28歳のラミーは日々の一瞬一瞬を楽しみたいという気持ちに抗うことができない。「神が世界に終焉をもたらす日までに成し遂げたいことは?」などと聞かれると臆面もなく「計画するのはあんまり得意じゃないんだよね」と答える彼は、今は両親の家に住みつつ、先行きの知れないテック系企業に勤めてなんとか生計を立てている。

神を敬う気持ちがまったくない訳ではなく、信心深い中東からの移民である両親をラミーは尊敬している。しかし、ある女性の写真を見ていやらしい妄想に耽った後で本人からチャットのメッセージが届いた偶然を「神が存在する兆候」と語るなど、宗教に熱心と言えるのかは微妙。タブーのはずの婚前交渉にも極めて積極的で、麻薬にまで手を出しそうな気配すら醸し出している。主役を演じるラミー自身も、エジプト移民の両親のもとにアメリカのクイーンで生まれニュージャージーで育ち、20歳の時に名門大学をやめてハリウッドに移住。スタンダップ・コメディアンとして活躍するかたわら、人気ドラマ『MR.ROBOT/ミスター・ロボット』やガス・ヴァン・サント監督映画『ドント・ウォーリー』に端役で出演している。アメリカに暮らすムスリムという立場に悩みながらも、今この瞬間を全力で謳歌する彼の自叙伝風コメディだ。

政治・宗教に切り込む

宗教という難しいテーマをベースに笑いを仕掛ける本作。米Entertainment Weekly誌が紹介する特に印象深いシーンは、ラミーはラマダンに挑戦することを決意した時のエピソード。だがこの決意は何回かデートしている女の子とのセックスお預けを意味するものだったため、どちらを取るべきか若き青年は悶える。ほかにもダイアナ妃の死に関して込み入った陰謀論を唱える叔父(ライス・ナクリ)の登場など、政治と宗教を題材に際どいラインを攻めたコメディとなっている。

その際どいラインが際立つのが、9・11に関連する第4話。同時多発テロが起きた当時少年だったラミーは、あの事件を境に周囲からアメリカへの帰属意識を問われるようになる。こうした経験により、ラミーはアメリカ文化をより多く取り入れるようになったのだ。しかしデートに出かける晩にそうとは両親に告げられず、両親も見て見ぬ振りをするという気まずいムードに悩まされることになる。英Guardian紙はこのような経緯を紹介し、スロースタートながら中盤からは非常に見応えのあるドラマだと評価している。

役者二人は私生活で親友

欲望と戒律の板挟みになったムスリム青年の動揺を、主演のラミー・ユセフはありありと表現する。こうしたジレンマを扱った作品は他にも存在するが、ラミーを中心とした自伝調のトーンがこのジャンルに新たな風を吹き込んだ、とEntertainment Weekly誌は評価する。

ラミーのほかには、テック企業の同僚スティーブ(スティーブ・ウェイ)も注目のキャラクター。演じるスティーブ本人は、ラミーと実生活で大の親友という間柄で小学4年生からの付き合いだという。実は筋ジストロフィーを患うスティーブだが、劇中ではムスリムのデートアプリの使用はアリかナシかでラミーと激論を交わすなど、印象的なシーンをこなしている。

二つの文化に揺れる男性の姿をリアリティと笑いのある切り口で描く『Ramy』は米Huluで配信中。(海外ドラマNAVI)

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ラミー・ユセフ
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