ソニー・MSのクラウドゲーム提携は5G時代を見据えた「賢い」選択:本田雅一のウィークリー5Gサマリー
今週の連載、実は別のテーマでの掲載を考えていたのですが、突然飛び込んできたニュースを聞いてテーマを変更しました。そのニュースとは、ソニーとMicrosoftが戦略提携に向けた意向趣意書にサインしたと発表したことです。

意向趣意書という部分に曖昧さを感じている読者も多いかもしれませんが、提携の範囲が幅広く、また戦略的でもあるため、具体的な提携内容に落とし込むにはまだ時間が必要だから、ということが大きな理由でしょう。

もっとも注目されるのはクラウドゲーミング技術の共同開発について言及されていることですが、ソニーが得意とする高性能な映像センサーと、MicrosoftのAI技術を組み合わせて次世代モビリティや自動車の安全技術に応用する映像認識・識別を開発したり、ソニーのAV製品にMicrosoftのデジタルアシスタントサービス組み込んだりというように様々なアイデアがあるようです。

Microsoftが2000年3月にゲーム機市場に参入して以来、同じ市場で競う最大のライバルとなっていた両社だけに、今回の提携を歴史的発表と感じている読者も多いことでしょう。

しかし冷静にこの提携を見るに、実は"ゲーム機業界でのライバル関係を解消する"ものではないことがわかります。両社は5G時代に向け、これまで構築してきた両社の強みを次世代でも活かしつつ、軟着陸させようとしているようです。

共同開発するのは"仮想ゲーム機"ではない


クラウドゲーミング(ゲームストリーミングとも言います)においては専用ハードウェアをコンシューマ市場へ普及させなくともゲームが提供できるため、ゲーム専用ハードウェアを販売する場合に比べて参入障壁が低いという特徴があります。



GoogleのSTADIAは、まさにこの点を狙ったものです。逆にクラウドの品質を高めるためのエッジ技術といったノウハウを持つGoogleの強みを活かせるため、すでに大手が安定基盤を作り上げているゲーム産業へ参入できる目があるわけです。

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同様に世界最大のクラウドサービス事業者でもあるAmazonにも、(彼らがやるかどうかは別の話ですが)同様のチャンスがあるでしょうし、中国ならばテンセントやバイドゥがクラウドゲーミングのプラットフォームを作り上げたとしても不思議ではありません。

開発ツールを用いてプラットフォームの違いをなるべく吸収し、ゲーミングPC向けも含めてマルチプラットフォームでタイトルが開発されている背景を考えれば、クラウド側に置くハードウェアを一般的なゲーミングPCに近いものにすることで、ある程度はタイトルを揃えられるでしょうし、それこそSteamなどと組む手もあるはずです。

ではソニー、Microsoft(もちろん任天堂も含まれるでしょう)にとってのゲーム市場における優位性とはなんでしょうか?

ひとつには、ネットワークゲームで熱心に遊んでくれるゲーマーたちのコミュニティを持っていることです。

多くのゲームがネットワーク対戦を前提に設計されていることを考えれば、PlayStation Networkなどのネットワークサービスこそがプラットフォーマーとしての価値の源泉とも言えるかもしれません。また、開発サイドで言えば、これまで提供してきた開発キットや、そもそもの開発コミュニティの大きさも大きな優位性と言えます。



その価値は、ソニーとMicrosoftがそれぞれに作り上げてきたものであり、両社はそれらを統合するつもりはまったくないようです。たとえばソニーは2014年からPlayStation Nowを運営していますが、Microsoftは年内にProject xCloudを立ち上げます。これがPlayStation Nowと互換性を持つことはありません。なぜなら提携するのはクラウドゲーミングのサービスプラットフォームだからです。

つまり、クラウド上で動く仮想ゲーム機を共同開発しようとしているわけではありません。

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"競争ルールを変えずに軟着陸"を目指す


ここから先はあくまでも推測でしかありませんが、一連の動きはクラウドゲーミングというイノベーションがあるしきい値を超えてゲーム市場を刷新してしまう前に、積極的にクラウドゲーミングへの対応を進め、自らの強みである専用ゲーム機を中心としたエコシステムと一体化することで、このイノベーションの波を軟着陸に導こうとしているのではないか、と僕は考えています。

たとえばGoogleは確かに世界最大級のクラウドサービスを提供し、資金力も豊富な起業ですが、ゲームタイトルの開発に自ら乗りだし、またゲーム開発会社とともにエコシステムを構築するのは初めてのことです。

充分に経験値が高い人材を集めているものの、市場を垂直に立ち上げていくのは困難でしょう。また、Google Playのアカウントがあるとはいえ、ゲームに特化したコミュニティを持つソニーやMicrosoftとは同じ条件ではありません。



一方、MicrosoftがGoogleやAmazonと並んで、巨大なクラウド企業であることを忘れてはなりません。MicrosoftのAzureはAmazonのAWS(Amazon Web Services)のもっとも強力なライバル。ゲーム事業ではMicrosoftを大きく上回っているソニーとともに、クラウドでのゲーミングサービスを取り込むことで、経験値の面でも設備投資の効率という面でも優位に働くはずです。

ソニーからすれば、より質の高いクラウドゲーミングのプラットフォームを作ることで、現在のPlayStation 4を中心としたゲーマー、開発者双方のコミュニティをそのままに、クラウドゲーミングの世界を取り込んでいける。PlayStation Nowですでに取り組んでいることを拡張し、PlayStation Now2とも言える環境を提供できるでしょう。



そうは言っても、ありとあらゆるゲームがクラウドになるわけでも、ありとあらゆるゲーマーがクラウドでゲームをするようになるわけでもない。いや、ごく当たり前のことですが......そう考えるのであれば、現在それぞれが持っている市場を大切にしながらクラウドゲーミングサービスを統合していく方が合理的なはずです。競争ルールの変化が起きるタイミングを5Gが普及した頃......と想定するならば、このタイミングでの提携は両社にとって、まさに最適と言えるかもしれません。

より楽しみになったGoogle"STADIA"の詳細発表


さて今回の発表で、より楽しみになったのがGoogleのSTADIAの詳細発表です。Googleは大まかにSTADIAを紹介し、デモも行っていますが、ビジネスモデルなどの詳細は明かされていません。

Googleの勝ちパターンは、広告モデルを絡めることでリーズナブルにクラウドの価値を届けるというものでした。しかし巨額の開発費がかかるゲームタイトルを無料で提供することはできません。もしSTADIAのビジネスモデルが、ソニーやMicrosoft、任天堂などのものと同様なのであれば、ゲームタイトルの価格も近いものにならざるを得ないでしょう。しかし、それでは既存ゲーム機市場を一気にひっくり返すのは難しいかもしれません。それは今回の提携で、ソニーとMicrosoftのクラウドゲーミングのサービス品質が高まっていく可能性が高くなったからです。

つまり、STADIAの詳細について発表する際に、Googleが何か隠し球を披露せずに終わるとは思えないのです。彼らも負け戦をするつもりはないでしょうからね。どんなところに勝機を見いだすのか。勝敗が見えてくる頃には5Gの時代がやってきていることでしょう。

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