就職活動の面接では採用担当者から耳を疑う不用意な発言を聞くことがある(写真:mits/PIXTA)

人は成長するにつれて人間関係を広げていく。最初は両親、祖父母、兄弟・姉妹という家族の中で育つ。小中高の時代は地域の友だちと遊んで育つ。大学に入ると同級生の出身地が多様性に富んでいるので強い刺激を受けて育つ。ここまでの人間関係は家族、友だち、そして先生によって構成されており、いわば身内だ。


一方、まったく知らない他人に接するのが就活だ。OB・OGや採用担当者がどんなに親切であっても、学生の身内ではない。だから学生は面接で緊張する。

緊張した状態では学生の素の姿を見ることができないから、面接官は穏やかな言葉で緊張をほぐしてあげるべきだが、そういう配慮ができない面接官もいる。

そんな面接官の無思慮な言葉を、HR総研が2019年卒業予定の大学生・大学院生を対象に行った「楽天みん就」との共同調査から紹介しよう。「説明会や面接を通じて、企業の社員や人事に言ってほしくなかった言葉(実際に聞いたもので)」という設問に対する回答だ。

「顔の傷について聞かれた」

「言ってほしくなかった言葉」で目立つのは、女子に対する不用意な発言だ。不用意発言とは、よく考えずついうっかり口にした言葉が多くの問題を持っているもの。政治家や官僚の不用意発言がマスコミで報じられ、辞任に追い込まれる事例もある。

今回の調査でも学生を傷つける不用意発言が目立つ。面接官自身は「悪意はない。気になったことを聞いただけ」と言うかもしれないが、想像力に欠けている。

「顔の傷どうしたの? と言われた。幼稚園生の頃などは男の子に聞かれることがあったが、最近久しぶりに聞かれてショックでした。どうすることもできない体のことには触れてほしくなかった」(文系・中堅私立大)

悪意がないからといって、どんな質問でも許されるわけではない。女性の顔の傷に言及するのは論外だ。面接室は密室だから外に漏れないと思っているのかもしれないが、このような質問が公になったら、コンプライアンス不全と指弾されるだろう。

女性活躍推進は安倍政権の重要施策だが、面接官の発言には差別発言が少なくない。「大卒の女」(文系・その他国公立大)という言い方がいまだに残っていることに驚く。「女の子だから一般職で来てくださいね」(文系・中堅私立大)、「女だから結婚したら仕事続けなくていいもんね」(文系・その他私立大)と、古めかしい男女差別意識が残っている企業は多そうだ。

その企業の文化が古いというだけではない。日本の企業社会全体が古めかしい。クライアントとのやり取りに女性が有利、不利であることはあるかとの質問に「『なめているのか、担当を代えろ』とお客様に言われることがある」(文系・上位私立大)と発言した面接官がいる。

「女性は一般職」

総合職と一般職についての発言は興味深い。いろんな言い方をしているが、要約すると「普通の女子は一般職がいい」「総合職になる女性はスーパーウーマンでごく一部」と言っているようだ。発言の印象からは総合職の女性にコンプレックスを持っているようにも読める。

「総合職の女は女扱いを受けないからな」(文系・上位私立大)

「『君は優秀だし学歴もいいけど、女性は総合職になるのが難しいよ。同じ総合職の男性より1回りも2回りも頭がいい人が多い』という言葉。同じ職に就くのに男女で合格基準に違いがあるのが驚きだった」(文系・旧帝大クラス)

「(営業職メインの専門商社の社長あいさつで)『女性は男性と違って将来家族を養うという覚悟がないから、営業や総合職に対して男性に比べて覚悟がない。女性は一般職で働くことを考えたほうがいい』という主旨の言葉」(文系・上位国公立大)

男だから、女だからという考え方は、昭和以前の価値観に基づいている。こういう価値観は化石化しており、今の学生には通じない。

「なぜ女子大に入ったのか? という質問。なぜこの大学に入ったのかという質問ならわかるが、女子大にこだわって受験したわけではない私にとって、よくわからない質問だった」(文系・上位私立大)。この学生は「よくわからない質問」と書いているが、よくわからないというより間が抜けていると思う。

俗流科学に基づいた下らない質問もある。男女で脳の働きが異なることは脳科学的にも立証されているようだが、「すべての男が」「すべての女が」と思い込むのは早計にすぎる。

「私が知らない土地でもよく出かけていくのが好きだという話をしたら、『女性は空間的にモノを把握するのが苦手だけど方向音痴にならないの?』と言われた。“男だから”“女だから”という考えが濃いのかと、ムッとした」(文系・中堅私立大)

セクハラや就職差別

女性差別とセクハラは紙一重、いや、根は同じかもしれない。この会社では社長が社内恋愛を推奨し、全体集会でトンデモ発言をしているようだ。時折そういう経営者はいる。

政治家の失言は、後援会などの身内に対するウケねらい発言がリークされて問題になることが多いが、経営者のセクハラ発言もかなり自慢げに見える。

「その会社では社長が社内恋愛を推奨しており、全体集会のような場所でセクハラまがいなことを言う、という話を面白いことかのように人事が話しているのを聞いて、驚いた」(文系・上位国公立大)

女性に対して交際相手について質問する面接官がいるが、採用選考で彼氏の有無を確認する必要性がわからない。

次の2つのコメントでは交際相手だけでなく親の職業についても質問しているが、不適切だ。もしかするとプライバシーまで聞き出すのが面接と思っているのかもしれないが、社会人として非常識だ。

「彼氏の有無の質問。父母の職業についての質問」(文系・中堅私立大)

「親の職業、理想とする異性のタイプや、パートナーの有無」(文系・上位私立大)

過去記事で何度も触れているが、厚生労働省は「公正な採用選考の基本」を定め、就職差別になりかねない14事項を禁じている。本籍や出生地、家族、住宅状況や生活環境に関する項目があり、宗教、支持政党、人生観・生活信条、尊敬する人物、思想なども入っている。尊敬する人物や愛読書などはエントリーシートの設問でもよく出る項目だが、アウトだ。

家族に関する質問もいまだに多く行われている。しかし、親の職業や続柄、病歴、地位、学歴、収入、資産などの質問は禁じられている。

「兄弟や家族についての質問(君はお姉ちゃんでしょ? 弟いるよね?)。実際に一緒に面接を受けていた子が親について聞かれ、言いづらそうに離婚していることを話していた」(文系・上位私立大) → 離婚まで聞き出すのは、プライバシーの侵害と言われてもおかしくない

「家族構成を尋ねること、信仰している宗教の話題」(文系・上位国公立大) → 宗教に触れることは御法度

「家族構成や両親の仕事に関する質問」(文系・その他私立大) → 親の仕事(職業)に関する質問は禁じられている

学生をいらつかせる質問

質問には知性が表れる。鋭い質問に対して学生は緊張するし、つまらない話には退屈する。そして、学生から赤点評価されてしまう。

「どうでもいいプライベートの話をしないでほしい。愛想笑いするのも面倒くさいし、まったく面白くない」(文系・早慶大クラス)

「何かにつけて『それ本心?』と聞かれる面接がありました。嘘をついてまで通りたいとも思っていないし、少なくとも面接のためにきちんと考えてきたことを嘘よばわりされてしまうのは少し嫌だと思いました」(文系・中堅私立大)

理由はわからないが、自社の悪口を言う面接官がおり、学生を戸惑わせる。会社に不満を持っているのかもしれないが、不満は同僚や上司にぶつけるべきだろう。そもそも悪口を言っても人から尊敬されない。学生に話して憂さ晴らしをしているのかもしれないが、そういう社員を面接官に起用することで企業は信用を失っていく。

「離職率が高く同期入社の社員は半分以上いない、やりがいはあまりない、などネガティブな発言が多かった企業」(理系・上位国公立大)

「退職者が出る。酒の席が多いため、カラダを壊す人がほとんど」(理系・その他国公立大)

見当違いの発言が多すぎる

今回の調査は、就活を終えた学生に「人事に言ってほしくなかった言葉」を聞いたものだが、面接と関係ない世迷い言を話す人事がかなりいることに驚いた。

「仕事は辛いもの」(文系・上位私立大)と話す面接官がいる一方で、「社会は適当でもなんとかなるよ」(文系・中堅私立大)という発言もある。もちろん両方とも正しいかもしれないが、面接は学生に訓示する場ではない。この手の説教は、採用して職場の後輩になってからたっぷりすればいい。


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驚いたのは、「日々心がけていることという私の質問に対し人事が『定時退社』と答えたこと」(文系・その他国公立大)という面接官がいることだ。学生は言ってほしくなかった言葉としているのだから、仕事に対する怠慢な態度と受け止めているわけだ。表現がよくないと思う。「仕事のやり方を創意工夫して定時に退社できるように心がけている」と説明すべきだ。

2010年代に入ってからキャリアセンターでの指導が充実してきており、学生の意識は高まっているし、勉強もしている学生が増えている。ところが、企業の面接官教育は不十分に見える。

とくに足りないのはコンプライアンス教育だ。現在の面接では面接官の不用意な発言が多すぎる。