決算会見で通信料金の値下げについて説明するKDDIの郄橋誠社長(記者撮影)

携帯電話各社の値下げが相次いでいる。4月に値下げを発表したNTTドコモが「大半の利用者が2〜4割の値下げになる」という新プランを発表したのに対し、KDDI(au)は5月13日、「最大4割値下げ」の新プランを発表して応酬した。

KDDIの郄橋誠社長は、15日の2019年3月期決算会見で「最大4割の値下げとなり、さらにお客様還元を強化した」と強調した。

KDDIが投入する新プランは、これまでの主力だった従量課金や定額のプランをベースに、家族割引を組み込んだのが特徴だ。特に家族3人以上で加入という“条件付き”の場合に値下げ幅が大きくなるように設計されている。

新料金で最も安いのは、データ使用量が月間7GBを上限に、使った分に応じて料金が3段階で変動する「ピタットプラン」に家族3人以上で加入し、データ使用量が1GB未満だった場合だ。割引なしの料金なら月額2980円(税抜き、以下同)で旧プランと同じだが、家族割引を適用すれば約3割安い月額1980円になる。

ドコモで最も安い従量課金制の「ギガライト」も、家族割引込みで1GB未満ならば月額1980円(ただしドコモの場合は家族3人以上ではなく3回線以上という条件)なので、KDDIはこれに寄せて対抗した形になった。

業界初のデータ容量無制限の使い放題も

また、KDDIは中容量の7GBまでの定額制プラン「フラットプラン7プラス」も新設した。定価は月額5480円だが、こちらも家族3人で加入の割引適用で月額4480円、さらに光回線とのセット割引適用で3480円となる。旧来の似たプランと比較して約4割の値下げだという。この2プランは6月1日から提供を開始する。

このほか、5G時代も見据え、業界初となるデータ容量無制限の使い放題プラン「データMAX」も今夏以降に始める。こちらの定価は月額8980円だが、同様の家族割引などを適用した場合は月額5980円で使えるという。

キャリア各社の通信料金をめぐっては、昨年8月に菅義偉官房長官が「今より4割程度下げる余地がある」と述べたことをのろしに、業界への値下げ圧力が強まっていた。ドコモもKDDIも菅官房長官の発言を意識したのか、条件付きながら最大4割の値下げプランを用意した形となった。

他方、例えば1人でKDDIの新たなピタットプランに加入し、月間使用量が1GB未満の場合の値下げはゼロだ。このようにプランや使用量によっては安くならない場合もある。KDDIもドコモと同様に家族割引は手厚いが、この割引条件なしなら大きなメリットや魅力を感じられないプラン設計となった。

KDDIがこの日発表した2020年3月期の業績予想は、売上高が5兆2000億円(前期比2.4%増)、営業利益が1兆0200億円(同0.6%増)だった。値下げで大幅な減収減益を見込むドコモと比べ、KDDIの新プランは現行プランとの比較の値下げ幅はそこまで大きくないためとみられる。

KDDIは、2019年6月〜2022年3月までの間の新プランによる減収額について約1000億円としており、郄橋社長は「今期だけでいえば、さほど影響はない」と述べた。

「囲い込み」を強めたいKDDIとドコモ

新プランである家族割引を導入した理由について、KDDIの東海林崇・取締役執行役員専務は13日の発表会で「シニア層もスマホ化が進んでおり、そのサポートをさせていただきたい。家族割プラスの導入によって、家族で3台以上ご利用いただく方が増えると想定している」と語った。


4月15日に新料金プランを発表したNTTドコモの吉澤和弘社長(撮影:今井康一)

ただ、ドコモの場合もそうだが、スマートフォンの利用層の広がりに対応するだけなら「家族3人以上」などの条件付きにする必要はない。条件なしで全体の料金のベース自体を下げれば、家族での利用者も一人の利用者も、みんなが値下げを享受できるからだ。

「家族で利用しやすくした」というKDDIやドコモの説明は“建前”であり、実際の狙いは「今のうちに囲い込みを強めておく」ということにあるのだろう。このタイミングで、ドコモやKDDIがこうした戦略を採る背景には、今後の事業環境の変化がある。

今月10日に成立した改正電気通信事業法によって、通信契約への加入を条件に端末代を割り引く「セット販売」が今秋から禁止される。これまでキャリア各社は、iPhoneなど10万円前後の高額な端末を、自社が注力する通信プランへの2年契約の加入を条件にして、大幅に割り引いて売ってきた。

このやり方ならば、端末代を「実質0円」まで値引いても、通信契約が続く2年間に毎月入ってくる通信料金でペイできる。キャリアはこのセット販売を駆使することによってMNP(他社からの乗り換え)を検討している人たちに大きな端末値引きを用意することで、利用者の奪い合いをしてきた。

キャリア間の乗り換えが鈍くなる可能性も

だが、セット販売の禁止以降は、通信料金を原資にした大幅な端末値引きは難しくなる。そうなれば利用者の端末購入時の負担は大きくなり、買い替えサイクルは長くなる。MNP客への手厚い端末値引きも難しくなるため、ある携帯販売代理店関係者は「今後は今までと比べてMNPが減る可能性もあるのではないか」と話す。

つまりこの秋に「セット割引禁止」のシャッターが降りた後は、キャリア間での利用者の行き来が減ることも考えられる。10月には楽天も携帯通信事業に本格参入する。その前に少しでもテリトリーを広げ、さらに他社に流出しないように囲い込んでおきたい、というのが、家族割引を組み込んだ本音なのだろう。

ソフトバンクの宮内謙社長は5月8日の決算会見で、他社の値下げ対抗について「微修正で対応できる」と述べており、今のところ料金プランの大きな見直しはなさそうだ。主力の大容量プランのウルトラギガモンスター+(プラス)は、すでに家族割引の適用が大きい設計にしている。

菅官房長官の思惑通り、キャリア各社は値下げに踏み切ってきたが、囲い込みが一層強まるプランが投入された。電気通信事業法の改正で端末買い替えサイクルが長くなることと併せて利用者のキャリア間の移動が鈍くなれば、長い目で見た競争の活性化にはマイナスの面になるかもしれない。