外食チェーンの「伝説的な存在」とされる日高屋。その経営方法は、実に緻密に練られたものだった(写真:東洋経済オンライン編集部)

日夜テクノロジーが進化する中で、ビジネスの手法、言いかえれば「儲けるための仕組み」も、どんどん変わってきている。あるサービスや企業に対して、「格安なのに、なぜやっていける?」「利用料が要らないのに、どうやって稼いでいる?」など、疑問を抱いたことのある人もいるだろう。こうした「儲けの仕組み」について、『図解 うまくいっている会社の「儲け」の仕組み』著者の下玉利尚明が解説する。
第2回のテーマは、大手ラーメンチェーン「日高屋」について。

日本人の「国民食」とも言えるラーメン(中華そば)が1杯390円(税込)、餃子が1皿6個で230円(税込)、「熱烈中華食堂 日高屋」(以下、日高屋)の看板メニューだ。

駅前の繁華街で深夜まで営業している店舗が多いので、お昼時や飲んだ帰りに立ち寄ったことがある人も多いのではないだろうか。

この日高屋、実は外食チェーンの「伝説的な存在」とも言える。まず、2004年2月期から2018年2月期まで、実に15期連続で増収増益を続けている。2019年2月期こそ、人件費高騰から連続増収増益がストップしそうな気配だが、1999年の上場以降、売上高が前年を下回ったことは1度もなく、営業利益にしても2004年2月期から増益。つまり、ずっと儲け続けているのだ。

日高屋だけがなぜ儲かる?

外食産業は、ここ数年こそ市場規模が再び拡大傾向にあるとされているものの、それは食材価格の高騰や人件費アップで、多くの外食チェーンが単価引き上げに動いたから。少子高齢化や「中食」との競合で、依然として環境は厳しい。そんな状況下にあっても、日高屋は増収増益を続けているのだ。

もう1つ、伝説的とも言えるのが、その利益率の高さ。2018年2月期の営業利益率は11.5%。利益率が高いとされる「サイゼリヤ」の約8%を上回り、ライバルともされる「幸楽苑」の約5%(2019年3月期第3四半期)の2倍以上。しかも、2019年2月期も11.4%と予測されていることから、「10%以上の営業利益率」を10年も継続することになる。

日高屋の儲けの秘密は、どこにあるのか。ズバリ、「立地」だ。日高屋のホームページにある「日高屋のこだわり」を見ると、「日高屋の大きなこだわりのひとつが、駅前の、しかも1階という立地」とある。よく「飲食店は立地8割」とも言われるが、日高屋は、そこに徹底的にこだわり、実に直営店の95%が駅前立地だ。

さらに、マクドナルドや吉野家といった「ファストフードチェーンのすぐ近く」という条件にもこだわっている。かつて、「ハンバーガー。牛丼。あしたは、日高屋。駅前で待ってます」というテレビCMが話題になったが、それこそが日高屋の戦略。

マクドナルドや吉野家にはファンがいるが、毎日は食べないだろう。そんなファンに「昨日は牛丼だったから、今日はラーメンにしよう」と選んでもらえるように、「競合のすぐ隣」に出店しているのだ。


ただし、マクドナルドや吉野家と競合するには、低価格路線に追随できないといけない。日高屋では中華そば1杯390円(税込)でファストフードに対抗しているが、それでは高い利益率を維持することは難しい。そこで日高屋では、利益率の高い「アルコール」メニューの売り上げを伸ばす戦略も展開している。それが、「中華そば+餃子+ビール」で1000円以下という価格設定だ。

さらに、看板メニューの中華そば、餃子だけでなく、つまみメニューも充実させて、仕事帰りの会社員の「ちょい飲み」ニーズを捉えている。そもそも「ちょい飲み」したい会社員にとって、チェーン店の居酒屋は「お通し」などが付いてしまうので、実はコストパフォーマンスがよくない。そんな会社員にとって日高屋は「ちょい飲み」にうってつけ。だから、ラーメン屋でありながら、アルコール飲料が売上高に占める割合は約15%にも達するという。

儲ける秘訣は「メニュー」と「営業時間」

また、営業時間の長さも日高屋の見逃せない特徴だ。午前11時から翌2時までの営業が原則で、24時間営業も50店舗を数える。「飲み会終わりのシメのラーメン」というニーズも、きちんとキャッチできている。


ようするに、日高屋は駅前でしかも「マクドナルドと吉野家のすぐ近く」という「立地条件」、ちょい飲みができる「メニュー展開」、飲み会終わりにシメのラーメンを食べられる「営業時間」に儲けの秘密があると言えるだろう。

日高屋は、現在、首都圏に約400店舗を展開。2021年には約500店舗、その先には首都圏600店舗の目標を掲げている。その達成に向けて、もう1つ、日高屋が儲かる仕組みを付け加えるとしたら、ラーメン、餃子、タレなどを埼玉県の自社工場で製造していること。

しかも、「1日1便」しか配送していないという。自社工場で品質は維持しながらも、製造と配送にかかるコストを徹底的に抑えていることも、日高屋の儲けの秘密の1つといえるだろう。