ゲーミングスマホの可能性について考えてみた!

都内某所にて4月末、すでに日本でもTAKUMI JAPANから5月末に発売されることが発表されている「Black Shark 2」というスマートフォン(スマホ)に触れる機会を頂きました。スマホに詳しい方やモバイルガジェットファンであれば知っている方も多いかも知れませんが、恐らく一般にはほとんど知名度のないスマホだと思います。

Black Shak 2は中国のXiaomi Technology傘下(完全子会社のJinxing Investmentを通じて出資)のBlack Shark Technologiesが手がけたハイエンドスマホで、日本ではTAKUMI JAPANによって日本国内向けとなった「SIMフリー版Japanモデル」として発売を予定しています。詳細な性能や機能はこちらの記事に詳しいですが、この製品はいわゆる「ゲーミングスマホ」と呼ばれるものであり、日本ではまだまだ浸透していないジャンルです。

スマホでゲーム?そんなのみんなもう遊んでるよ?と思われるかも知れませんが、そのスマホ向けゲームに特化したスマホがここのところ注目を集めつつあるのです。そこで今回の感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載「Arcaic Singularity」では、ゲーミングスマホの需要や可能性、スマホゲーム市場における必要性などについて考察します。


ゲーミングスマホが指し示すスマホの未来とは


■売れなくなったハイエンドスマホ
ゲーミングスマホについて語る前に、まずは現在のスマホ市場の実態について語らなければなりません。

日本のスマホ市場が飽和状態となって久しい昨今ですが、それは台数のみならず性能面においても飽和してしまったと言っても過言ではありません。通話や音楽聴取はもとより、ネットブラウジングやSNS利用、カメラ機能の充実など、日常で人々が利用する範囲において、現在「格安スマホ」と呼ばれている2〜3万円台のスマホでさえ、不便を感じることはなくなりました。

その上、ハイエンドスマホと呼ばれる高級端末は高価格化の一途を辿っており、最上級機種では11〜12万円以上、ミドルクラスやミドルハイにあたる機種でさえ8〜9万円近い価格となることも少なくありません。むしろハイエンド端末が10万円台であれば「比較的安い」とすら感じるほどです。

さらには通信料金と端末代金の完全分離が盛り込まれた改正電気通信事業法も10日に可決され、NTTドコモやau、ソフトバンクといった大手移動体通信事業者(MNO)は、通信料金と端末代金の支払いをセット割引としたプランの廃止(新規受付の中止)が確定しました。その余波として端末代金が高騰する(値引販売がなくなる)のではないかという憶測まで飛び交っています。


AppleはiPhoneシリーズの販売不振により、2018年9月〜12月期以来、2四半期連続で減収減益となっている


端末の性能をひたすら上げ続け、「高品質・高性能だから高くても売れる」というハイブランド戦略で大失敗したのが日本のスマホメーカーとハイエンドスマホなのは間違いありません。

人々は端末価格の高騰に加え、少し旧型の機種でも実利用で何も不便が無くなったことからスマホを買い換えなくなり、買い換えるとしても「安いスマホで十分」と考えるようになりました。

そこに合致したのがファーウェイなど中国メーカーの比較的安価でコストパフォーマンス(コスパ)の高いスマホであり、日本メーカーはソニーやシャープ、富士通、京セラなど、ごく一部のメーカーを残してスマホ市場からほぼ撤退状態となったのです。


ソニーはXperia事業で1000億円近い赤字となり窮地に立たされている


そして登場したのがゲーミングスマホです。もはや一般消費者にとってハイエンドスマホを要するほどの利用シーンが処理の重いゲームを快適に遊ぶくらいしか思いつかなくなった今、利用目的が曖昧なままの「ハイエンド」とするよりも、よりゲームプレイに特化させた性能と機能性を前面に押し出したほうが、価格に対する付加価値をアピールできると考えたのです。


スマホを買うからには理由が必要だ。理由も目的もなくハイエンドスマホを買う人はいない


■ゲーミング、という固定客を見込めるジャンル
皆さんは「ゲーミング」という言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょうか。例えばゲームをスポーツ競技として楽しむ「eスポーツ」などを連想する方も多いかと思いますが、スマホ向けゲームにおいてもその流れは徐々に拡がりつつあります。

日本メーカーのゲームではガンホーの「パズル&ドラゴンズ」やミクシィの「モンスターストライク」、サイゲームスの「シャドウバース」などがあり、定期的な大会が開かれ企業によるスポーツチームが結成されるなど、単なるブームではなく業界をあげての振興が行われている最中です。


パズル&ドラゴンズは一般社団法人 日本eスポーツ連合が定める公式eスポーツゲームの1つだ


こういったeスポーツ振興の流れの中で、ゲーミングスマホは確実に日本へと進出してきています。Black Shark 2が登場する以前にも、ASUSTeK Computer(以下、ASUS)が同社のゲーミングブランド「ROG」(アールオージー、Republic of Gamers)の名前を冠したスマホ「ROG Phone」を2018年11月に発売しています。

いずれの機種も価格は実売10万円前後のハイエンドスマホにあたる価格帯ですが、ゲーミングデバイスとしての性能や機能性を前面に押し出したコンセプトがゲームファンから注目を集め、高価格帯でも確実な支持を集め始めています。


ASUSのゲーミングスマホ「ROG Phone」



デュアルスクリーンを実現するアタッチメントパーツを用意するなど、単なるハイエンドスマホではないゲーム特化性をアピールする



Black Shark 2もまた、着脱式のゲームコントローラを用意し、ゲームプレイへの最適化を謳う


■プラットフォームとしてのゲーミングスマホ
ここで視点を変えて、プラットフォームとしてのゲーミングスマホについて考えてみます。

以前のコラムでGoogleのゲームプラットフォーム「STADIA」について執筆したことがあります(こちらの記事を参照)。高速通信性を活かしミドルクラスやローエンドのスマホでも高品質なゲーム体験を提供できるクラウドゲーミングという手法を用いたプラットフォームである一方、通信の遅延や通信品質に大きく左右される点が課題であることなどを述べましたが、ゲーミングスマホはそういった課題となる「弱点を持たない」ことが最大のメリットです。

端末のみでゲーム環境が完結するため、通信品質の変化にも強く(スタンドアローンなゲームであれば通信すら不要)、究極のモバイルゲーム体験を確実に与えてくれるのがゲーミングスマホの最大の魅力でありメリットです。ゲームファンはそこに付加価値を見出し、10万円前後という高価格帯にもかかわらず予約に殺到するのです。


さまざまなデバイスでシームレスにゲーム体験を楽しめるSTADIAだが、現在のインフラ環境では超えるべきハードルも多い



Black Shark 2の性能は凄まじい。ゲーマーから「遊ぶベンチマーク」とまで言われるバンダイナムコの「アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ」でも最高画質設定でまったく処理落ちしない


日常用途では無駄とも言えるほどの高性能化を果たした現在のハイエンドスマホは、その突き抜けた高性能をどこで付加価値としてアピールすべきなのかについて、大きく迷走しています。

例えば、ソニーの最新フラッグシップスマホ「Xperia 1」では21:9の広い画面領域を活かしたゲーム体験をアピールしていましたが、対応するゲームが限定的であるなど、付加価値として十分に消費者へ訴求できる内容にはなっていないように感じます。


せっかくの大画面もフル活用できるゲームが限られていては意味がない


それよりもBlack Shark 2やROG Phoneのようにゲームファンが欲しいと感じるオプション(周辺機器)やシステムを一気に整え、「このスマホならどんなゲームも最高品質で楽しめる」と太鼓判を押すくらいに特化したジャンル性を持たせるほうが、高価格帯端末として生き残れるのかもしれません。

ゲーミングスマホというジャンルそのものが、プラットフォームとしての価値を持ち始めているのです。


Black Shark 2の専用ゲームパッドとプロテクターは合計15,000円程度だが、予約購入者の中から先着3000名まで無料でプレゼントされる



デュアルディスプレイアダプターや外部ディスプレイ出力用ドックなどのROG Phoneの周辺機器がフルセットになった、約20万円の「ROG Phone コンプリートセット」は早々に完売した


■最大の障壁はMNO?
しかし、ゲーミングスマホの未来は明るいかと言われれば、そこは一筋縄ではないだろうというのが筆者の見解です。

もっとも大きな課題は認知度と知名度です。ゲーミングスマホというジャンルがあること自体、一般消費者の中には知らない人も多いように思われますが、その理由はNTTドコモやauといった大手移動体通信事業者(MNO)がゲーミングスマホを販売していないことにあります。

現在日本でゲーミングスマホとして売られている機種はいずれもSIMフリースマホであり、SIMフリースマホを購入して仮想移動体通信事業者(MVNO)サービスのSIMで利用するような、ある程度モバイルリテラシーの高い人々に限定されている点が大きなデメリットです。

MVNOを利用しない層であってもゲーマーはいます。本当であればそういった「MNOの高額な通信料金プランを使い倒すほどにスマホを活用するコアモバイラー」にこそ訴求したいのが高額なゲーミングスマホなのですが、今のところMNO各社にそういった動きは見られません。

またSIMフリースマホをMVNOで利用するユーザーは、絶対値としての端末価格や費用対効果に非常にシビアである点が特徴でもあり、高額で特殊な付加価値を売りとするゲーミングスマホとはメインとなるユーザー層がまったく合わないという難点もあります。


SIMフリースマホユーザーはメーカーやブランドにこだわりがなく、ひたすらにコスパ重視の選択をする傾向が強い(画像は価格.comより引用)


MNO各社がゲーミングスマホに注力しない背景には、日本国内のスマホメーカーがゲーミングスマホに限らず特定のジャンルに特化した端末販売に消極的である点が挙げられます。

前述のXperia 1のように、ハイエンドであってもゲーミング性能は「活用方法の1つ」程度の扱いであり、飽くまでも「すべてにおいて高性能・高品質」という点を付加価値として推す傾向が強いのが、日本メーカーの特徴とも言えます。

例えば特定のジャンルに特化した日本製スマホの代表例に、京セラの「TORQUE」シリーズがあります。高い耐衝撃性や環境耐性が特徴のタフネススマホで、シリーズには根強いファンがいることでも有名です。しかしこういった特化型スマホは非常にニッチであり、多くのメーカーが手を出したがらないのです。

MNOであれば全国に展開された直営店や代理店でゲーミングスマホの周辺機器の販売なども可能になり、販売チャネルとしての強みも活かせるだけに、非常に惜しい思いがします。


TORQUEシリーズは2017年6月発売のTORQUE G03を最後にしばらく後継機種が出ていない。そろそろ新型機種の噂もあるが、果たして……


■10兆円規模の市場を支えるデバイスとしてのゲーミングスマホ
そもそも、日本におけるゲームの地位は諸外国と比較しても非常に低い印象があり、「ゲームなんて所詮暇つぶし」、「ゲームのためにスマホを買うなんて」という風潮は少なからずあります。それだけに、仮に認知度や知名度が十分に向上したとしても、ゲーミングスマホへの一般消費者からの評価は厳しいかもしれません。

ですが、家庭用ゲームやアーケードゲームが「子供の遊び」と言われつつも日本を中心に大きく発展して世界を席巻し、世界中で愛されるようになりました。ゲームコンテンツの市場規模を見ても、世界では年間10兆円規模に、日本国内だけでも1兆5000億円以上もの規模に成長しています。

スマホゲームもまた「暇つぶし」と揶揄されつつも、十分に将来性がある成長市場だからこそ、そこに特化したスマホとそのジャンルがあっても良いと筆者は考えるのです。

皆さんは、Black Shark 2やROG Phoneのようなゲーミングスマホに魅力を感じ、欲しいと感じるでしょうか。もし感じないとしたら、その理由は一体何でしょうか。価格ですか?デザインですか?それともブランドですか?

ゲーミングスマホメーカーが今後探るべきは、すでに購入している層の声だけでなく、そういった「購入をためらっている層」の生の声かもしれません。


ゲーミングスマホは停滞するハイエンドスマホ市場に新たな風を呼び込めるか


記事執筆:秋吉 健


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