今のクルマが物足りないと感じるなら90年代車に乗るべき

 現代のクルマ選びでは環境性能や先進安全装備が重視される傾向にある。クリーンな排ガスを実現するためにエンジンは高回転まで使わないようになっているし、エアバッグなどの安全装備は車体を重くしてしまっている。

 クルマ好きのなかには「最近、欲しいクルマがない」という人もいるが、おそらく環境や安全のために純粋な走りをスポイルされてしまったクルマに抵抗を感じているのだろう。では、現代のクルマにはない刺激あふれる走りを味わうにはどうしたらいいのだろうか。そんな人のために、一度は乗っておいてほしい90’sカー(1990年代に生まれたネオヒストリックカー)を紹介しよう。

1)オートザムAZ-1

 2019年に売られている新車には、ABSやトラクションコントロール、そしてESC(横滑り防止装置)といった電子デバイスが標準装備されている。そうした装備があるからこそ安心してスポーツドライビングが楽しめるのだが、その逆にまったくシャシー系の電子制御を持たないクルマを90’sカーで探すと筆頭といえるのがオートザムAZ-1で決まりだろう。

 マツダが開発したフレームのミッドシップにスズキの3気筒DOHCターボエンジンを搭載したガルウイングのマイクロスーパーカーには、電子デバイスのみならずパワーステアリングやパワーウインドウさえも装備されていないのだ。さすがにエンジンはインジェクション仕様だが、ハンドリングについてはドライバーの腕にすべてがゆだねられている。

 しかも、そのシャシーはショートホイールベースのミッドシップらしいスリリングなものなのだから、現代のクルマでは感じることのできない種類の緊張感や刺激がある。もっとも希少車として中古相場の上がっている現在において、ギリギリまで攻めるようなチャレンジングな走りをしようというオーナーも少なくなっているだろうが…。

2)トヨタ・スターレット(ターボ)

 1990年代を代表する「じゃじゃ馬」といえばスターレット・ターボだろう。90年代前半に販売されていたのはEP82型でターボ車のグレード名は「GT」、90年代後半に売られた最後のスターレットEP91型のターボ車には「グランツァV」という名前が与えられていた。

 いずれもエンジンは1.3リッター4気筒の4E-FTE型を搭載していた。このエンジン、スペックの数値以上にトルクフルな好ユニットで、アクセル全開にできるシチュエーションでは格上のクルマを喰ってしまうくらいの速さを見せたが、なにせ当時のトヨタのベースラインといえるスターレットである。そのトラクション性能は、NAエンジンならまだしも、このターボエンジンとなると完全に負けていた。

 2速でタイヤが空転してしまうのも珍しくないくらいで、機械式LSDをインストールするのは定番だった。しかし、トラクションを確保すると、今度はステアリングのキックバックが強くなり下手なタイミングで加速しようとするとステアリングが暴れてしまったものだ。現代のFFでは味わえない、刺激があった。

当時はイマイチ人気の出なかったFRクーペも面白い!

3)日産シルビア(S14型)

 1990年代のスポーティクーペマーケットを支えたのが、S13〜S15型までのシルビアだ。4気筒エンジンを縦置きしたFRクーペというプロファイルから走り屋御用達といえる人気を誇る。

 そのなかで、唯一3ナンバーボディとなったS14型シルビアは、この3世代のなかでは割合に低い評価を受けている印象もある。ただし、そこはやはりシルビアというビッグネームである、販売期間は1993年〜1998年と20年以上も前だが、中古車市場ではそれなりに見つけることができる。

 ドリフトのイメージから、ターボエンジンのMT仕様を探したくなるが、NAエンジンのオートマであれば50万円程度の予算で十分に手の届くプライスタグを掲げている個体も見つけられる。いまやダウンサイジングターボがムーブメントになっているからこそ、逆にNAエンジンのFR車は貴重な存在となっているのではないだろうか。

4)スバル・レガシィ(BE型/BH型)

 いまや、すっかりアメリカナイズ(?)されてしまったスバルのフラッグシップモデル「レガシィ」だが、90年代には日本市場を考慮した5ナンバーサイズのボディだった。

 1998年にフルモデルチェンジを受けた3代目レガシィツーリングワゴン(BH型)は、5ナンバーボディの集大成ともいえる傑作モデル。その開発リーダーであり、のちにSTIの社長も務めた桂田勝氏にちなんで「桂田レガシィ」と呼んでいる人もいるという。

 また、この代からセダン(BE型)には「B4」というサブネームが付けられるようになったことも、現代のレガシィにつながる存在として忘れられないエピソードだ。

 水平対向エンジンと前ストラット・後マルチリンクのサスペンションというメカニズムも、走りの本質的な部分で最新のSUBARU車に通じる。ただしアイサイト以前の、走りをピュアに追求していた姿勢がそこかしこに感じられるのが3代目レガシィの特徴であり、今だからこそ味わっておきたいクルマといえる所以。

 なお、この世代のレガシィでは「ランカスター」という現代のアウトバックにつながるグレードが生まれことも記憶に残る。「ADA」と呼ばれるアイサイトのルーツ的なメカニズムが、限られたモデルに設定されたこともトピックスのひとつだ。

5)ホンダS2000(AP1)

 1999年に誕生したS2000はホンダの50周年を記念して作られたFRのオープンスポーツカー。AP1の型式で知られる前期型は9000rpmまで楽々と吹き上がる2リッター4気筒VTECエンジン「F20C」を縦置きに積んでいた。この高回転エンジンのためなのか、それとも16インチタイヤだったせいなのか……ともかく初期型については間違いなく速いけれど、どことなく手の付けられなくなるような危うい雰囲気をまとっていた。

 オープンカーとしては立ち気味のフロントウインドウを流れる景色は、実際以上のスピードを感じられるもので、その走りを味わえば「S」の名前にふさわしいピュアスポーツカーであると誰もが実感できるだろう。

 スポーツカー純度でいえば、2.2リッターエンジンとなった後期型(AP2)よりもAP1のほうが色濃く感じるだろう。90’sカーとしてはギリギリのタイミングで誕生したS2000は、現代レベルの速さと電子デバイスに頼らないピュアスポーツを兼ね備えた稀有なスポーツカーといえる。