AIは知らない間に仕事現場に入り込んでいる - AI・人工知能EXPOに見たAI最新事情

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この4月に開催されたAI・人工知能EXPO。年々規模が大きくなっており、3回目の今年は出展社数250社、3日間での来場者数48,739名(主催者:リードエグジビションジャパンによる)に及んだ。

会場ではスマートファクトリーから業務支援チャットボット、コンシューマー向けの診断サービスなど、各社のさまざまなAIサービスが展示されていた。


◎倉庫の自動搬送、検査のスマート化
注目を集めていた分野の1つに工業、いわゆるスマートファクトリーがある。
武蔵精密工業が大がかりなスペースでデモを行っていたのは工場用の「自動搬送車」だ。
まだ開発中とのことだが、自律走行することで、従来の自動搬送車にくらべてより柔軟な運用が期待できる。


武蔵精密工業の工場用自動搬送車のデモ





同じく、武蔵精密工業の全自動外観検査システム。
ライン上で製品の表面の傷など欠陥を検出する。現状では金属製品が対象だが、将来的には金属以外にも対応する予定という。


武蔵精密工業の全自動外観検査システム


また、AIベンチャー企業のクロスコンパスが展示していたのは異常検知のソリューションだ。現状、IoT/M2Mの世界であったスマートファクトリーにAIを導入し、予兆検知に活用しようというもの。
仕組みとしては、ディープラーニングを使って製造の現場における各種機器の振動データを学習し、経年劣化や異常を早い段階で検知する。


クロスコンパスの異常検知ソリューション





組込型のソリューションとして提供され、ARMマイコン搭載のボートを現場に設置し、振動データをサーバー側へ送信。学習データを元に半径結果を表示する。

このように、導入から運用までを見据えたソリューションとして製品が出てきていることが印象的だ。先の武蔵精密工業もNVIDIAのチップを内蔵したGPUボックス「ニューラルキューブ」を展示していた。これはプラグ・アンド・プレイでAI環境を現場に追加導入できる"AI現場実装用のデバイス"だ。

ディープラーニングなど機械学習の導入には学習用のデータをどう集めるか、いかに整えるか、事前の準備が非常に重要で、つないですぐに使えるというわけにはいかないが、こうしたパッケージが出てくることで、サポートは必須ながら、より導入しやすくなる。


◎会話分析で生産性向上へ
エクォス・リサーチが開発を進めるのは、社内の会話を生産性向上に活用しようというシステム。特に若手社員における業務上での失敗原因の1つにコミュニケーションミスがあるとして、会話を録音することでミスを防ごうというもの。

・上司や先輩が頼んだつもりでもうまく伝わっていない。
・当人が頼まれたことを失念してしまう。
こうした予防には、たいていの場合、タスク管理ツールを使うだろう。
ただ、タスク化する、誰かが入力するなど、ひと手間かかる。

それを集音マイクで集めた会話データを分析し、自動でタスクを抽出し、タスク管理ツールに登録する。そして担当者には「いつまでに」「何をする」を通知する。
こうした運用管理を使い続けることで、さらには個々人のパーソナリティに合わせた業務分担や、より生産性向上につながる仕事のやり方ができるのではないかという考えからサービス化を目指して開発中だ。

とはいえ、仕事中の会話を録音するとなると、実際、現場ですぐに導入というわけにはいかない。最初は個人がボイスメモとして使うという形など、工夫する必要があるだろう。


自然な会話の中からタスクの概要を取り出し、チャットボットで通知





また、自然言語処理でいえば、LegalForceが提供する契約書レビューを支援するAIソリューション「LegalForce」はすでに正式版がリリースされ、実利用が始まっているサービスだ。

契約書のチェックほど人間にとって向かないものはないと、常々感じている人は多いのではないか。独特の言い回しがわかりにくさを助長しているからだ。

しかし、これこそAIに向いている作業だ。
契約書に潜むリスクの検出し、修正条文例のリサーチまでをサポートする。
それにより、担当者は法務にまつわる業務を効率化することができる。
AIに任せられることはAIに任せて、人間はそれ以外の部分で能力を発揮しようということだ。


当日、LegalForceのブースでは実際にデモを体験することができた


実は、リーガルテックはグローバルでも盛り上がっている分野。LegalForceは2018年に約6.1億円の資金調達に成功するなど、いま注目されているベンチャー企業でもある。


◎パーソナルカラー診断をスマホで簡単に
コスメ系のオンラインショップを運営するオルビスが「ORBISアプリ」内で無料提供を始めたのが「パーソナルカラー診断」だ。

顔写真をスマートフォンのカメラで撮影するだけで、4つのカテゴリーからパーソナルカラーを判定してくれる。さらに、顔のパーツ、その比率の分析からフェイスプロポーションを診断し、ユーザーに似合う色や目的に合った商品を提案するというもの。この判定には、監修にカラースタイリスト・関口まゆみ氏が参加している。

開発に当たったフューチャーアーキテクトのブースでは「AIビューティ アドバイザ」としてサービスを体験することができた。ORBISアプリ内で提供されているものでは、診断結果を元におすすめのメイクなどアドバイスを提示してくれる。


パーソナルカラーとフェイスプロポーションの分析



普通に「あったら便利」なサービスで、ただ有料で使うかと言われると微妙だ。
そこをコスメ系のECサービスがマーケティングとして活用するということで実現している。」ただ分析するだけではなく、その先に商品やメイク法を提示する。
AIは得意とする分析で活用し、その分析の先に既存のソリューションを乗せていくという、うまい使い方だ。

ここで紹介した以外にもさまざまな展示があり、より多くのシーンで本格的に仕事の場にAIが活用されつつあることが実感できた。

いつの間にかAIを使ったサービスを、誰もが知らずに使っている。
そんな未来は、決してもう遠くないのだ。


執筆 大内孝子