広がりつつあるK-POPダンス・ブームの実態【日本の中の韓流、15年目の現在地】

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日本では今、空前のダンス・ブームが起きている。かつて日本でダンスといって連想されたのは社交ダンスやジャズ、盆踊りなどだったが、近年はHIPHOPにチアダンスなど種類もさまざまで、特にストリートダンスは幅広い層から人気を得ている。

一般財団法人ストリートダンス協会によると、日本のストリートダンス人口は600万人にも上るというから驚きだ。

そんな日本のダンス人気の中でひとつのジャンルとしてたしかなポジションを得ているのが、K-POPだ。最近は、HIPHOPやレゲエなどと並んで「K-POP専門」のカリキュラムやコースを設けて指導するダンス・スクールが多くなった。

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東京にスタジオを構える『Dance Studio Cielo』も、そのひとつだ。ここは日本初のK-POP専門ダンス・スクールとして知られる。主宰する町田真吾氏はいう。

「目黒区と渋谷区にスタジオがあるが、どちらも毎月たくさんのK-POPファンで賑わっている。男女比は女性8、男性2の割合。メイン年齢層は20〜30代。Cieloをきっかけにダンスを始めたという方や、学生時代にダンスをやっていた方など、K-POPが大好きでそれをきっかけに踊りたいといらっしゃる方が多い」

日本では2011年から小学校、2012年から中学校、2013年からは高校でダンスが授業として取り入れられるようになってダンスが身近になったといわれているが、その頃にダンスの楽しさを覚えた人々が、趣味や習い事の一環としてK-POPダンスを選ぶという。

『KP SHOW!』

「ただ、ここ数年は男女ともに小学生〜高校生など、10代が急激に増えている。最年少7歳から60歳台の最年長まで、幅広い年齢層がK-POPダンスを学びにやってくる」

それも希望するのは人それぞれ。Cieloのカリキュラムを見ると、単に初級・中級・上級とレベル分けされたK-POPダンス講習ではなく、東方神起、BTS(防弾少年団)、少女時代、SEVENTEEN、TWICE、BLACKPINK、IZ*ONEなどアーティスト別はもちろん、さらに細分化された楽曲別のレッスンがあるのだから驚きだ。

「受講者たちはダンスが上手くなりたいというだけでなく、憧れのアイドルたちと同じダンスを踊りたいという気持ちが動機になっている方がたくさんいらっしゃる」

そもそも町田氏がK-POP専門ダンス・スクールを立ち上げようと思ったのも、ダンスのの普及方法について考えていた同時期、2010年頃からK-POPアイドルたちのカバーダンスが若者たちの間で流行り始めていたからだという。

当時は東方神起にBIGBANG、KARAや少女時代などが日本に上陸し人気を博した第2次韓流ブームの真っただ中。テレビやインターネットのYouTubeで流れるアイドルたちのダンス練習動画を見て振り付けを覚え、仲間同士集まって練習する若者たちが増えていた。

「私はSHINeeのダンスのレベルの高さに衝撃を覚えた(笑)。それでダンサー仲間と一緒にレンタルスタジオを借りてK-POPに特化したレッスンを不定期に始めたら希望者が増えた。月2回が月3回、月4回を実施しても途切れず、2011年からK-POP専門のダンススタジオとして、本格的にスタートすることとなった」

同時に、2011年9月には『KP SHOW!』というイベントもスタートさせた。

もともとは受講者たちが練習の成果をお披露目する発表の場となる予定だったが、K-POP愛好家たちのダンス同好会や学生たちのチームが自然と集まるようになり、受講者だけではなく、一般も参加するK-POPカバーダンス・イベントになった。町田氏は語る。

「ライブハウスなどを借りて年に3回実施しており、今年の2月で20回目を行った。1回の開催でおおよそ50〜60組ほどにご出演いただいている。

一般的なダンスイベントと異なるのは、コピーの魅力や美学もあること。ダンスのクオリティだけでなく、いかに本人たちに近づけるかを追求するチームもいらっしゃる。振り付けだけではなく、衣装に髪型、さらには憧れのアイドルが出演した特定ステージでの仕草や咳払いまで、忠実に再現する。

有名なダンスチームになると固定ファンもいらっしゃって、会場まで足を運んで応援してくださる。本人のファンのお客様であれば、“あの動きは〇△公演での動きだ”と熟知しているので反響も凄い。まるで本物のアイドルコンサートのような盛り上がりだ」

その熱気は、韓国と日本の政治関係が冷え込み始めた2012年夏頃から落ち着いてしまった時期もあったが、決して萎むことはなかったという。受講生もさほど減らなかったらしい。

町田真吾氏

「当然ながら受講生のほとんどがK-POP好きという共通点があるため、スクール内でコミュニティも作りやすいようだ」

レッスンで初めて出会って意気投合したかと思えば、レッスン後にもロビーでお菓子を食べながら「先月のライブに行った」とか談笑していることが多く、気の合う受講生同士で韓国に旅行に行ったという話もよく聞く。

「それどころか最近は親子で参加する受講者も増えた。母と一緒に踊れるダンスはないかと相談してきた娘さんもいるほど。普通のダンス・スクールでは考えられないことだ」

そんなK-POPダンス人気が最近は特に低年齢化が進んでいる。きっかけとなったのは2017年になってから日本でも人気のTWICEやBTSだ。

「ここ数年は若年層、特に中学・高校生が増えて小学生のキッズダンサーたちもK-POPを踊りたいといって親と一緒にやってくる。小学生の間ではTWICEが人気だし、高校生、大学生になるとBLACKPINKが人気。

なぜ人気かというと、彼女たちのダンスは自分たちでも真似のできる、真似のしやすいちょうど良さ、というものがあると思う。

USのプロモヴィデオにもたくさんダンスは出てくるが、アジア人と欧米人では身体つきが違うし、同じ踊りでも見え方が異なる。K-POPはほどよく最先端の振り付けを吸収していて今っぽさもあり、同じアジア人として“真似したい”、“真似できる”という要素が多いことが魅力なのではないか」

同じアジア人として身近に感じられる流行の最先端がK-POPにはあるというわけだ。町田がK-POP専門ダンス・スクールを立ち上げて今年で8年。日本におけるK-POPの位置づけもだいぶ変わったという。

「例えば韓流ドラマや韓国ものものという前提があるが、今の若者たちはK-POP=韓国ではなくなってきている。

もちろん、K-POPのKはKOREAという認識はあるが、韓国という国と密接に結びついてはない。

実際、韓国という国にもさほど興味はないし、新大久保にも特には行かないけど、BTSやTWICEは好きというライトなリスナーも非常に増えている印象。彼らは一種のカルチャーとしてK-POPを捉えている。HIPHOPに国籍を定義づけないように、K-POPにも国籍がない。ロックやHIPHOPのように、K-POPもひとつのジャンルになっている」

それだけに最近は趣味としてK-POPダンスを習いに来るのではなく、将来的にはK-POPグループとして芸能界デビューすることを夢見てやって来る10代も増えているという。

そんな況を聞きつけて、韓国から問い合わせを受けたり、可能性のある若者を紹介したりすることも多い。最近は韓国の芸能事務所と協力して非公開のオーディションをすることも増えた。

「デビューを目指す子供たちの育成や発掘は昨年から力を入れ始めている。何人かは韓国の事務所の練習生となり、ソウルで生活しながらデビューを目指している。彼らの今後に関する最終判断はこちらではできないが、いつかこのスタジオから本物のK-POPアイドルを輩出できたら良いと思っている」

日本のK-POP専門ダンス・スクール出身者が韓国はもちろん、アジアや世界のステージで歌って踊る姿を想像するだけでワクワクするが、そんな若者たちの夢を壊さぬようにすることがK-POPの使命であり、日本で韓流が輝き続けるための条件だろう。今後も韓流が日本はもちろん、世界で盛り上がることを願う町田氏は語る。

「K-POPが今後も多くのファンを魅了するためにも、引き続き素晴らしい楽曲とパフォーマンスを発表し続けてほしい。ファンや多くの人々が、“私もあのダンスを踊ってみたい”と思うような憧れであり続けてほしいと思う。

あとは、韓国のアイドルは恋愛などに関して、少しオープンすぎる場合があるので(笑)、アイドルやアーティストの方が恋愛をされる場合は、ファンのことももう少し配慮してもらえたらうれしい」