かつて高騰していたリゾートマンションは、今や見る影もなく無人同然の状態に陥っている(写真:梅本義則/PIXTA)

バブル時代は、東京の郊外型マンションと同水準の価格だった新潟県湯沢町のリゾートマンション。しかし、30年前の勢いは今や見る影もない。湯沢町に約1万5000戸分建設されたリゾートマンションの凋落ぶりを、住宅ジャーナリストの榊淳司氏が解説する。

ホイチョイ・プロダクション原作の映画『私をスキーに連れてって』が公開されたのは、1987年の11月。世の中は、あの平成大バブルの絶頂に向かって盛り上がっていた。また、スキーブームにも沸いていた。東京に住む多くの若者は、冬になると2度か3度はスキーに行くことが当たり前だった。

私はそのころ、広告代理店の制作部門に在籍していた。もっぱら分譲マンションの募集広告を作らされていたのだ。あるとき担当させられた広告の1つに、新潟県の湯沢町にできるというリゾートマンションがあった。「世の中には、マンションを買ってまでスキーをしたがる人がいるのか」そんなことを考えたのを覚えている。

パンフレットや図面集、価格表を作った。価格を見て驚いたのだが、当時の東京の郊外型マンションとほとんど同じ水準だった。その購入費用と維持費用の総額は、同じリゾート地のホテルを利用した2泊3日のスキー旅行を毎年5回、30年続けた場合の費用よりも高額だったのである。

「これを買う意味があるのか?」

なんとも不思議な商品だった。そもそも、リゾートマンションという形態そのものが、温泉やスキーなどが目的や用途であるにもかかわらず、コストパフォーマンスでは説明できない不動産商品だったのだ。

しかし、時はバブルだった。そういった商品に説明できない価格がついていても、それなりに売れていたと記憶している。そのうち、都心にあるようなタワー型のリゾートマンションまでが湯沢エリアに次々と登場した。湯沢エリアで、リゾートマンションブームが巻き起こったのだ。最終的に、湯沢町には約1万5000戸分のリゾートマンションが建設されたという。

リゾートマンションの悲惨な末路

それで、現状はどうなっているのか。かなり悲惨である。まず、そういったリゾートマンションの資産価値は、ほぼゼロと考えていい。10万円で売り出されている物件も多数あるが、成約事例が多いとは思えない。

このエリアのマンション売買は、H不動産というリゾート専門の大手仲介会社が、そのほとんどの取引に関わっているはずだが、取引に関するデータを一切公表していない。またメディアの取材も受けつけない。一方、競売案件を調べてみると、多くの物件が備忘価格になっている。備忘価格とは実質ゼロ円なのだが、帳簿上ゼロ円だと存在しないものとされるので、形だけ価格をつけておく、というもの。競売開始額が1万円とか5万円に設定されているのだ。

つまり、裁判所も、湯沢町の多くのリゾートマンションは実質ゼロ円だと見なしているのだ。かつては3000万円から5000万円以上で販売されたリゾートマンションが、今やその価値がゼロ円だと見做されている。これは日本の分譲マンションの歴史における、かなり衝撃的な出来事ではなかろうか。

今や「高齢者のためのデイサービス施設」

そういった湯沢町のリゾートマンションを訪ねてみると、少々驚かされることがある。

まず、多少老朽化したとはいえ、設備が立派である。とくに、温泉大浴場は一流の温泉旅館並みと思える物件も多い。タワータイプのリゾートマンションの中には、豪華絢爛な展望大浴場もある。もっとも、つねに新鮮なお湯が供給される「源泉かけ流し」になっているところはほとんどない。見たかぎり、すべてがお湯を使いまわす「循環ろ過」式だった。

あるリゾートマンションでは、理事たちは絶対にお湯に浸からないと聞いたことがある。そこで湯船にたたえられているお湯がどういうものか知っていると、「とても浸かりたいとは思えない」のだそうだ。

湯沢町のリゾートマンションを見ていると、そこの住人と思われる人には高齢者が多いことも意外だった。私が見せてもらったのは、2018年11月の平日の午後。いくつかのリゾートマンションでは、浴衣を着てタオルを首にかけ、洗面器を持って大浴場に向かう高齢者と何度もすれ違った。

数十万円の購入費と月々3万〜4万円程度の維持費用で、温泉大浴場のついたマンションに住めるのである。ある意味で、高齢者向きと言えなくはない。ただし、湯沢は豪雪地帯だ。冬は雪に埋もれる。そういうときはどうするのだろう、と考えてしまった。

また、身体の弱った高齢者も多いようで、さまざまな問題が起こる。大浴場では、しばしばお湯の中に固形排せつ物が見つかるという。かつて、リゾートマンションとして時代の先をゆく華やいだ存在だったのが、今や高齢者たちが寄り添って時間を過ごすデイサービス施設のようになってしまっているのだ。

一説によれば、湯沢町にあるリゾートマンションの6割が、1年に1日も利用されていないとか。こういう数字には、どこまで信憑性があるのかわからない。ただ、湯沢町の各エリアにあるリゾートマンションを見て回ると、オフシーズンに利用されている住戸は全体の1割にも満たないであろうと想像できる。私が宿泊に利用したマンションでは、全700戸のうち、夜の10時30分に部屋の明かりがついていたのは5戸だった。

こういったリゾートマンションの所有者の多くが、「できれば手放したい」と考えているはずだ。運よく買い手が見つかる場合もあるのだろうが、大半の人が絶望感を味わいながら、管理費や修繕積立金、そして固定資産税などを払っていると想像できる。その費用は30m2程度の狭い住戸でも、年間30万円前後はかかる。駅に近くて広い住戸だと、年間50万円以上になるはずだ。

年に1日も使わないのに、そういった費用は払い続けなければならない。これはもはや不動産ではなく、所有しているだけで自分の資産がマイナスになる「負」動産だろう。

「有料粗大ゴミ」同然の存在

最近、「なんとか手放せないものか」と考えている所有者の弱みに付け込んだビジネスが登場した。その会社のビジネスモデルは、「3年分の所有経費を払ってくれたら、区分所有権をもらってあげますよ」というもの。現所有者から3年分の管理費や修繕積立金、固定資産税などの総額相当を払わせることで、所有権を自社関連の法人に移転させるのだ。

所有者からすれば、3年分の経費を払うことで、実質的に4年目以降の支払いから完全に解放される。「だったら、3年分払うから引き取ってください」ということになるのだ。とうとう、リゾートマンションは有料粗大ゴミ同然の存在になり下がった。それも、かなり高額な引き取り料を要求される難儀なシロモノだ。

しかし、このビジネスには多分に無理があるように思える。その会社は、引き取って自社関連法人の所有にしたマンションをどうするのか。たぶん、転売はできない。元の所有者が何年もかけて売れなかった物件だ。こういった取引でその所有者になってしまったら、管理費や修繕積立金、湯沢町への固定資産税を払わなければいけないではないか。

この引き取りビジネスは、どういうスキームの下に成立しているのだろう。

私の勝手な推測を述べよう。

その会社は、関連法人で引き取ったリゾートマンションを放置してしまうのだろう。当然、管理費や修繕積立金、湯沢町への固定資産税は支払わない。支払うと、このビジネスモデルでは利益が出なくなるからだ。

つまり、この会社は報酬を得て区分所有権を自社関連の法人に移転するが、その後に生じる所有者としての義務は一切果たさないのだ。そして、3年分の所有経費相当の報酬は全額を利益にしてしまう。

最初からその意図でやったとしたら、なんらかの違法行為になる。しかし、「関連法人を作って運用に努めたのですが、どうにもうまくいかなくて」と言い訳をしておけば摘発はしにくい。おそらく、そういうスキームだろう。

それで、管理費や修繕積立金、固定資産税を払ってもらえない管理組合や湯沢町が困ることになる。結局、管理組合が競売にかけるか、湯沢町が公売に付すしか手はなくなる。しかし、そこで落としてくれる善良な一般人がそうやすやすと現れるとも思えない。

このような悲惨な状態であり、なおかつ悪質な業者の魔の手に晒されているにもかかわらず、湯沢町にあるリゾートマンションの管理組合は公平に見てよくやっていると思う。

管理費滞納などで競売にかけた場合、管理組合で落札するケースが多くなった。1万円で競売に出された物件を、20万円で落札する場合もあるという。普通の手段では住宅を購入することも賃貸することもできない反社会的な人々などが競落するのを防ぐためである。

また、湯沢町では、マンションの理事長の連絡会議のような組織があり、行政や警察と協議する場が設けられたりしている。かつて、湯沢町の管理組合の連帯組織は、宅建業の所管官庁である新潟県と粘り強い交渉を行ったという。

管理組合が自分たちのマンションの住戸を競落して第三者に転売する行為を、「宅建業法の規制外である」と認めさせた実績があるのだ。

湯沢町の秩序は保たれるのか?

あのバブル期とはいえ、リゾートマンションを購入した人はそれなりの富裕層である。その多くは親から資産を受け継いで富裕層になったのではなく、自らの才覚と能力でリゾートマンションを購入できる富を築いたのだと推測する。そんな彼らが、管理組合を運営する第1世代になっている。

そういうタイプの人々というのは、仕事もできるし頭脳も優秀だ。彼らが管理組合を運営しているから、湯沢町のリゾートマンションではいまだに秩序が保たれているのだと、私は考えている。

しかし、バブルの絶頂から約30年が経過した。40歳で購入した人は今、70歳になっているはずだ。あと10年で80歳。第1世代が築いた管理組合運営のノウハウは、第2世代以降に引き継がれるだろうか。あるいは、第2世代と呼ばれる人々は存在するのか。


2015年の11月、湯沢エリアのあるタワーマンションで、修繕積立金の横領事件が発覚した。長年理事長を務めていた人間が、7億円以上の修繕積立金を着服していたことがわかったのだ。

そのマンション、今では発覚当時の1割程度まで流通価格が下落している。事件後、一時的に管理組合の修繕積立金会計はほぼゼロになったはず。そういうマンションの資産価値が、通常どおりに評価される理由はない。

今後、湯沢エリアでこういう事件がまたいつ発生するかもわからない。また、築30年以上になる老朽マンションも多くなってきた。同時に、区分所有者も高齢化している。管理費や修繕積立金の滞納は増えこそすれ減るとは思えない。

彼らがどこまで廃墟化にあらがえるのか、今後の展開に注目したい。