のび太とはいったいどんな少年なのでしょうか(編集部撮影)

「まさかのび太に人生で大切なことを教えられるなんて」「のび太からがんばれる勇気をもらった」など、元本の発売から14年経った今、ビジネスマンから子どもまで、幅広い層から絶賛の声が寄せられている本があります。それが『ポケット版 「のび太」という生きかた』です。

著者は20年以上にわたり、「ドラえもん」を研究している富山大学人間発達科学部の横山泰行名誉教授です。現在シリーズ累計32万部(『「のび太」という生きかた』『ポケット版 「のび太」という生きかた』の合計)となっていますが、昨今、とくに注目され2018年1年間だけで10万部を超える増刷をしたそうです。今になってなぜこの本が注目されているのか、同書を一部抜粋し再構成し、その秘密をさぐっていきます。

のび太は実は勝ち組だった

のび太は、勉強はクラスでずっと最下位で、野球の打率は0.01割などスポーツも大の苦手な冴えない男の子。ジャイアンやスネ夫をはじめ、ほかの子どもたちからもいじめられてばかり……。

何もかもうまくいっていない「負け組」の印象がありますが、映画版などの大長編では、リーダーシップを発揮します。どんなにドジでノロマであるといわれても、集団のかけがえのない一員として認められ、遊ぶときには必ず声をかけられます。

何より念願かなって、みんなのマドンナ・しずかちゃん(マンガの表記ではしずちゃん)を生涯のパートナーとして射止めている実は「勝ち組」の人間だったのです。「のび太でもできるなら、自分もできる」と思えるような取り組みやすいメソッドが、さまざまな情報があふれ、仕事や人生の方向性に悩んでいる現代ビジネスマンの心を捉えているようです。

もう1つ言えるのが、のび太の置かれている状況が、今のビジネスマンの状況とマッチし始めているということです。のび太が勝ち組といっても、「ドラえもんの時代を超えたハイテクノロジーがあったから」「のび太は、ドラえもんの力がないと何にもできない」と思う方もいるかもしれません。

しかし、今、「AI」を中心に、さまざまなテクノロジーが進化をしており、ドラえもんの世界でしかできなかったことが、誰でも手軽にできるようになりつつあります。

例えば食べるだけで、さまざまな言語を訳してくれる「ほんやくコンニャク」というドラえもんのひみつ道具がありましたが、今、端末に日本語を話しかけるだけで、高精度で英語や中国語に音声翻訳できる機械が、商品化されつつあります。

また、紙コップ型の機械を持っていれば、糸でつないでなくても話ができる「糸なし糸電話」などは、携帯電話そのものだといえるでしょう。つまり、ドラえもんというハイテクノロジーの使い手であるのび太の成功例や失敗例は、これから、さまざまなハイテクノロジーをうまく使って仕事をしていかなくてはならない、ビジネスマンにとって参考になるのではないでしょうか。

例えば「のび太の模型鉄道」(『ドラえもん 39』〈てんとう虫コミックス〉小学館)という話があります。

のび太が鉄道模型をコツコツと作り上げました。うれしくて皆に自信作を見せようとしましたが、スネ夫の家で、逆にその10倍以上もあるような大きな鉄道模型を見せられたのです。ショックを受けたのび太は、とぼとぼと家路につきましたが、くじけることなく、スネ夫よりすごいものをつくるという目標を達成するために、ドラえもんから2つのひみつ道具を出してもらいます。

まず、簡単に地下室がつくれる「ポップ地下室」で広い地下室を用意。そして、写ったものを本物にして出してくれる鏡「フエルミラー」を使って、鉄道模型に必要な素材を一気に集めました。

そうして、のび太は連日のように学校から飛んで帰り、日夜製作に励み、スネ夫がびっくりするような鉄道模型を作り上げます。のび太は一貫してスネ夫の自慢や「うらやましい」と思うことに対して、自分もそれ以上のものを手に入れようと努力します。ひみつ道具の力を借りれば「自分も何かできる」とのび太は信じているので、何事にもくじけない心を持つことができたのでしょう。

つまり、「自分ならできる」と信じ、目標から逆算して、あらゆる手段を講じて頑張った結果、報われたのです。

大きな壁にぶち当たったときに、できないと諦めるのではなく、できると信じて、目標から逆算して、手段を講じて実行していくことは、現代のビジネスマンにとって、仕事に取り組むうえで非常に大切なことだといえます。

やりたいことは口に出して宣言する

のび太は話の中で失敗をしながらも、数々の夢ややりたいことを実現しています。つまり結果を出しているのです。その秘訣の1つが「夢をただ頭の中でぼんやり考えるだけではなく、声に出して自己宣言しているところ」です。

「のび太と雲の王国」(『大長編ドラえもん 12』〈小学館コロコロ文庫〉小学館)では、のび太は天国があると授業中に宣言し、先生からも周りの級友からもバカにされます。
 
「羽衣伝説」や「ジャックと豆の木」を例にし、ドラえもんに雲の上に天国があったことを力説します。しかし、ドラえもんは、人工衛星が上空から地球上をすみずみまで調査したが、天国の存在を証明するものは、何も見つけていないと説くのです。

しかし、ドラえもんは、ない天国を探すよりも、自分で雲の上に、思い通りの楽しい夢の国をつくってみてはどうかと提案し、ひみつ道具によってのび太は天国のような雲の王国をつくるのです。

のび太がバカにされながらもくじけず「夢(=目標)」を高らかに宣言したことにより、周りの人たちも今のび太が何を始めようとしたのかがはっきり認識できます。

すると、ドラえもんのように、のび太の目標に賛同して、サポートをしてくれる人が出てきます。夢を諦めずに自己宣言したのび太の姿勢が、夢は念じ続ければ叶うということを教えてくれます。

やってみたい仕事や参加したいプロジェクトがあるなら、それを口に出して宣言しましょう。そうすることで、あなたの意思が周りに伝わり、必要なサポートが得られたり、目標に一歩近づけたり、自分では想像もつかなかったいい結果が生まれたりする可能性が高まるのです。

コマ数はドラえもんより多い

ドラえもん』の全作品に登場する唯一の人物は、実はドラえもんではなくのび太です。また、『ドラえもん』の全作品に登場するのび太のコマ数や吹き出し数を詳細に分析したところ、コマ数は5万7531コマでドラえもんの3万7386の約1.5倍で、吹き出し数も4万1839とこれもドラえもんの約1.5倍ありました。

にもかかわらず、のび太は作品の中でも、昔は地味な存在だったといいます。代表的な単行本の背表紙はすべてドラえもんでした。


しかし、2010年に発売された『藤子・F・不二雄大全集 大長編ドラえもん』(小学館)で、初めてのび太が背表紙に登場しました。

これはくじけてもダルマさんのように起き上がり、それでいて決して無理はしすぎないで自分のペースで物事に取り組む、のび太的な生きかたが支持を集めるようになった結果ではないでしょうか。
 
頑張ってもなかなか結果が出ない、やりたい仕事ができないと悩んでいる方はぜひ「のび太の生きかた」から人生のヒントをもらってみてはいかがでしょうか。