左から、Kenmochi Hidefumi、KΣITO、Keita Kawakami、Akiocam

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Kenmochi Hidefumi(ケンモチヒデフミ)主催のトークイベント「ケンモチヒデフミ、ソロやるってよ」が4月30日、新宿ROCK CAFE LOFTで開催された。これは、5月15日に発売する自身9年ぶりのソロアルバム『沸騰 沸く 〜FOOTWORK〜』のリリースを記念したイベント。アルバムのタイトルにもなっているJuke/Footworkというジャンルについて、ゲストのAkiocam、Keita Kawakami、KΣITOと共に、その歴史から現在のシーンに至るまでディープなトークが繰り広げられた。その様子をレポートでお伝えする。

2部制で行われた本イベント。第1部では、まずKenmochiが新アルバム『沸騰 沸く 〜FOOTWORK〜』から先行視聴可能となっている2曲を流し、イベントはスタートした。Kenmochi自身が、水曜日のカンパネラや他アーティストへの提供楽曲の制作のみならず、DJとしての活動も多くなり、自分が今フロアでかけたいと思えるような曲を作ろうと気持ちが、本アルバムの制作につながったという。

Juke/Footworkをアルバムのテーマにした理由として、「ラップの一部を切り抜いてループさせる。簡素で音楽的な要素が排除されているけれど異常に踊れる」と、その魅力を語り、「そこに自身の音楽性を組み合わせた時にキメラのような面白いものが作れるんじゃないかと思った」と、制作当時の気持ちを明らかにした。

Juke(ジューク)とは、シカゴ発祥のクラブミュージックのジャンルの一つ。Footwork(フットワーク)とはJukeの中でもダンスバトルに特化した曲のジャンルを指している。BPM160(もしくは半分の80)の高速ビートの中で、短くチョップされたラップや変拍子のビートが変則的かつグルービーなリズムパターンを生み出している。

イベントでは、Footworkのダンスバトルの動画も紹介され、ダンサー達の素早い足さばきに、会場も驚きの声をあげた。

その後、本場シカゴのシーンに精通しJuke/FootworkシーンでVideographerの活動を行うAkiocam、Juke/Footworkイベント”SOMETHINN”でDJとして活躍するKeita Kawakamiがゲストで登場。その歴史や独自性についてトークが行われた。

元々、シカゴのダンスバトルでトラックメイカー達がシカゴハウス/ゲットーハウスのBPMを上げていき、ダンサーを困らせてやろうとリズムを複雑にしていったのがJuke/Footworkの始まりだという。

シカゴの土着のカルチャーであったJuke/Footworkが世界的に有名になったのは、イギリスのPlanet Mu(プラネットミュー)というレーベルが取り上げた事がきっかけだそうだ。DJ Shadowが2012年にJuke/Footworkをイベントで流したところ、未来的すぎるという理由で止められたというエピソードに会場からは笑いが起こった。

その後、Juke/Footworkの音楽性をテーマにトークが白熱した。16ビートのハイハットにベースの三連符を組み合わせる点や、ドラム以外の楽器で拍を取りそれが入れ替わっていく点など、他のジャンルでは見られない独自の音楽性が解説された。

Kenmochi Hidefumiが、初めてTraxmanの「Get Down Lil Momma」を聴いた時、今までにない単調さとかっこよさに「これが許されるのかと衝撃を受けた」と語ると、Akiocamが「これを2、3分は聞いてられないので、どんどんDJで回していくのはマナーなのかもしれない」などと会場の笑いを取り、1時間のトークで第1部は終了した。

休憩を挟みつつ行われた第2部では、ケンモチによる新アルバムの全曲試聴と解説が1曲ずつ行われた。「ドープな曲を聴きすぎたせいで、そこまでJuke/Footworkに聞こえないかもしれない」と前置きを置きつつ、「Juke/Footworkを取り入れたからこそ踊れる曲を作ることができたとのだと思います」と語った。

初披露となった「RoboCop」が流れると、会場ではその構成を探ろうとしっかりと聞いている観客もいれば、ノリノリで体を揺らす観客もおり、それぞれの方法で新曲を楽しんでいるようだった。「『RoboCop』の最後のチョップは、映画でロボコップが銃で打たれるシーンをイメージしたんです」と語られると、会場はそのユーモアさに笑いが起こった。

その後、新しく発表された7曲の視聴と解説が続けて行われた。解説では、1曲1曲どのような曲を作ろうと思ったのか、なぜそのタイトルになったのか、音作りのポイントなどが詳しく語られ、普段明かされない楽曲制作の裏側に、メモをとって聞いている観客の姿も見えた。

そして、アルバム発売を記念し5月29日に渋谷WOMBでリリースイベントが開催されることが発表されると、会場は拍手に包まれた。

次に、Juke/Footworkの高速ビートをAKAIのパッドを叩いて演奏するスタイルでシーンを沸かすKΣITOがゲストで登場した。フィンガードラムでJuke/Footworkのライブをするのは、KΣITOの他にはほとんどいないという。
その後、トラックメイキングという視点からJuke/Footworkを捉えてみようとトークが始まった。KΣITOはBPM160という決まった中で、一小節より短い範囲でリズムが自由に移り変わっていく可能性の広さが魅力とし、パッドを使って実演しながらその解説が行われた。

KΣITOの華麗な手さばきに観客が盛り上がる中、4連符から3連符へ、はたまた2拍子へとめくるめく変化をしていくことを、Kenmochiが4連符は「しながわ」、3連符が「たばた」だと、わかりやすく解説を入れていった。

そして、トークはgqom(ゴム)という新しいジャンルへと話題が変わっていく。イベント当日が平成最後の4月30日だったこともあり、まず初めにKΣITOが令和発表の日に作った「令和gqom」が流れると、Kenmochiが「新しい魔界の扉が開かれましたね!」とコメントし、会場は笑いに包まれた。

令和Gqom by KΣITO

gqomとは、2015、6年頃南アフリカのダーバンで暗黒ハウスとして始まったジャンル。マイナー調であったり裏でドローンがなったりという暗い音楽なので暗黒ハウスと呼ばれる。暗い音楽が流行ったことのない南アフリカなのにも関わらず、今現地のクラブではgqomが常に掛かり続けているらしい。

KΣITOは、ダーバンで局所的にかかっていた暗黒的な空気が、pop化し南アフリカから世界中に広がっていることを、Juke/Footworkの広がり方と似ている事などを指摘し、これからもそのような現象が各地で起こっていくかもしれないと語った。 

Kenmochiは、その影響を受け、xiangyu(シャンユー)に楽曲提供した「プーパッポンカリー」を和製gqomとして作ったという。又、KΣITOは、TYO GQOM(トーキョーゴム)というイベントも先駆けて開いている。是非、2つともチェックしてみてはいかがだろう。

その後Akiocam、Keita Kawakamiも登壇し、平成/令和トークと題して、各自が今興味のある音楽ジャンルを紹介しあった。

Akiocamは、デトロイトのElectroを挙げ、Juke/Footworkとの関わり合いの歴史を語った。KΣITOは映画音楽サウンドトラックを挙げ、その独自の進化を自身の音楽制作に組み込んでいると語り、最近購入したプリセットを紹介した。Keita KawakamiはDaedelusのCurtains Dont Talkを挙げJukeの可能性の広さを語り、Kenmochiはタンザニアのシンゲリを紹介した。

イベント最後の質問コーナーは、30分に渡って現在のクラブの現状や、楽曲制作に至るまで様々な質問が飛び交った。この時間はまるで本イベントの盛り上がりを表しているかのようであった。

現在、世界中から新しいジャンルが生まれ続けている。Kenmochi Hidefumiは最先端でその流れをミックスし進化を続けていると言えるだろう。

Juke/Footworkやgqomなどルーツとなった音楽を探りつつ、是非新しいアルバム『沸騰 沸く 〜FOOTWORK〜』をチェックしてみてはいかがだろうか。(text by 横澤魁人)

<リリース情報>



Kenmochi Hidefumi
『沸騰 沸く 〜FOOTWORK〜』
発売日:2019年5月15日(水)
価格:2000円+税

=収録曲=
1. Aesop
2. BabyJaket
3. RoboCop
4. Jaburo
5. Fish Sausage
6. Mountain Dew
7. Hippopotamus
8. Fight Club
9. Hacienda
10. Tiger Balm

<イベント情報>
TOWER RECORDS 渋谷店 × WOMB LIVE 宇宙塔 vol.1
2019年5月29日(水)WOMB
時間:OPEN 19:30 / START 20:00
料金:DOOR 3000円(include 1DRINK)
出演:ケンモチヒデフミ、Frasco