ヨドバシカメラの公式通販は、東京23区全域や横浜、大阪、福岡の一部で「ヨドバシエクストリーム」という配送サービスを提供している。1品から注文でき、利用料金も配送料金もかからない。なぜこんな大盤振る舞いができるのか。経営コンサルタントの竹内謙礼氏が考察する――。
2016年05月23日、ヨドバシカメラ新宿西口本店(写真=時事通信フォト)

■「ヨドバシエクストリーム」の存在を思い出した

東京のコワーキングスペースで仕事をしている時のこと。持ってきているはずの赤いボールペンがないことに気がついた。時刻は午前10時だったが、今日はコワーキングスペースにこもりっきりの予定。夜までに自著のゲラ原稿に赤ペンで校正を入れて、編集者に渡さなくてはいけない。コンビニで買ってこようとも思ったが、あいにくの高層階。下まで降りる時間もない。仕方なくスタッフに赤ペンを借りようと思ったところ、ふと「ヨドバシエクストリーム」の存在を思い出した。

ヨドバシ・ドット・コムのヨドバシエクストリームを使うと、東京23区にはその日のうちに送料無料で配達してくれる。千葉県の田舎町に住んでいるので一度も利用したことがなかったが、都内に住む友人は「アマゾンよりもヨドバシエクストリームを利用している」と話していた。

半信半疑でヨドバシ・ドット・コムを見に行くと、サイトに「ご利用料金無料、配送料金も無料」と大きな文字で書かれていた。しかも、宅配業者を使わず、自社で配達しているらしい。試しに自分がいるコワーキングスペースの住所を打ち込んでみたところ、お目当ての赤いボールペンは本日16時までに配達してくれるようだ。

■「ボールペン1本を届けてもらうのは、さすがに申し訳ない」

編集者にゲラ原稿を渡す時間を逆算すると、16時までに赤いボールペンがあれば十分間に合う。しかし、ボールペン1本だけを届けてもらうのは、さすがに申し訳ない。とは言いつつも、本当にボールペン1本でも送料無料でその日のうちに届けてくれるのか興味津々でもある。結局、申し訳ない気持ちよりも好奇心のほうが勝ってしまい、ヨドバシエクストリームを使って赤のボールペンを1本注文することにした。

そして午後4時。コワーキングスペース受付の女性スタッフから「お届け物です」と、小さな封筒を渡された。封を開けると赤いボールペンと納品書が1枚。なんだか申し訳ない気持ちになってくる。できればお礼の一言でも言いたかったが、受付の女性いわく、配達員は荷物を置いてすぐに帰ってしまったとのこと。どんな人がボールペンを届けてくれたのか気になったので、スタッフの女性に尋ねてみた。

「どんな配達員でしたか?」
「普通の人でしたよ」
「どんな格好していましたか?」
「普通の格好ですよ」

怪訝そうな顔をする女性スタッフ。これ以上質問するとコワーキングスペースから追い出されそうだったので、とりあえず、送られてきた赤いボールペンをありがたく使わせてもらって、ゲラ原稿の校正を始めることにした――。

ヨドバシエクストリームで届いた封筒(写真提供=竹内謙礼)
これでゲラ原稿の校正ができる(写真提供=竹内謙礼)

■ヨドバシエクストリームは儲かっているのか

その日、ヨドバシエクストリームのおかげで、無事、ゲラ原稿の校正作業をすることができた。しかし、私の頭の中では「ヨドバシエクストリームは儲かっているのか?」という疑問でいっぱいになっていた。1本135円の赤いボールペンをネットで受注して、倉庫でピッキングして、わざわざ自社のスタッフに送料無料で配送までさせて、果たして利益が出るのだろうか。

しかも、ヨドバシのポイントもつけてくれているし、返品や交換にも対応するという。アマゾンや楽天のような巨大企業であればまだ理解できるが、一家電量販店がこのビジネスモデルを展開するのは、さすがに無理があるのではないかと思った。

そこで、ヨドバシという会社をいろいろ調べてみることにした。すると、20年以上前となる1998年にネット通販を開始していたことがわかった。ネット活用の歴史は古いのだ。2018年度の売上高は6805億円。同業のビックカメラは8440億円。企業規模はヨドバシカメラのほうが小さい。最大手のヤマダ電機は1兆5739億円だ。ヨドバシは規模で勝る企業ではない。

■ますます深まるヨドバシエクストリームの謎

実際、「2時間以内に配達」をうたうアマゾンのプライム会員向けサービス「プライムナウ」は、2500円以上でなければ注文できないか、利用金額に応じて配送料が変わる(地域によってサービスが異なる場合がある)。楽天市場が展開する類似サービス「楽天24」も、送料無料になるのは2500円以上からだ。ネット通販を専門としている大企業ですら実現不可能な「自社配送による送料無料」を実現したヨドバシエクストリームの謎は、ますます深まるばかりだ。

しかし、公開されている決算状況を見ると、ヨドバシの業績が絶好調であることが分かる。

2016年 売上高6796億円 経常利益512億円
2017年 売上高6580億円 経常利益556億円
2018年 売上高6805億円 経常利益607億円

ご覧のように、売上高も経常利益も着実に伸ばしている。驚くことに同業のビックカメラやヤマダ電機の利益率が3%前後なのに対して、ヨドバシは8%前後の利益率をしっかりキープしている。仮にヨドバシエクストリームが赤字事業であれば、このような数字にはならないはずだ。

そこで、ざっくりとだがヨドバシの自社配送の1個当たりの送料がどのくらいになるのか計算してみることにした。

■ネットの求人広告から人件費を算出

自社配送を構築するのに必要なのは「人件費」「車両費」「ガソリン代」「保険」の4点である。しかし、ガソリン代と保険代は、費用の中で大きな割合を占めないと考えて、ここでは「人件費」と「車両費」だけで計算してみることにした。

まず、人件費に関しては、ネットに出ていた求人広告から算出。ヨドバシの配送スタッフの給与は25万円前後となっており、もろもろの経費や保険を考慮して、会社として負担しているコストは1人当たり35万円前後だと仮定した。月に20日間働いたとして、だいたい一人当たりの日当は1万7500円という計算になる。

次に1日の配送個数を算出した。参考として、ネットの求人情報でアマゾンの配送業者の募集要項を見たところ、東京都内の1日平均の配送個数は「150個」と記載されている。日当1万7500円の配達員に、150個の商品を配達させるとなると、1個当たりの配送料は約116円。もろもろの梱包資材代や保険代が乗ってきたとしても、150〜170円ぐらいの配送コストではないかと推測する。

■1個当たりの配送コストは200円前後ではないか

「車両費」に関しては、1台当たりの車両費がだいたい100万円だと仮定して、運送用事業者の場合、減価償却期間が3年になるので1カ月当たりのコストは27万7800円、1日当たりのコストは933円となる。1日150個の荷物を配ると仮定すると、1個当たり6円の負担。ガソリン代や保険などをプラスしても、だいたい10円ぐらいだと思われる。

ここに受注管理やカスタマーサポートの人件費、ページ制作費用、さらに在庫管理や梱包などのロジスティックの費用も加算したいところだが、こちらは全国配送のネット通販や関東圏の15店舗の配送業務も兼ねているので、ヨドバシエクストリームだけのコストは相当圧縮できるのではないかと予想する。そうすると1個当たりの配送コストは、かなりおおざっぱな計算ではあるが、200円前後になるのではないだろうか。

現在、ネットショップが一般的な配送業者を利用した場合、60サイズの平均配送料が400円前後。その料金設定から考えると、ヨドバシの配送料は格安といえる。東京近郊に配達エリアを絞ることで効率よく回ることができるし、他の配送業者と違い、ネット通販だけに特化した配送システムを構築することができているので、もしかしたら、さらに配送コストは安いかもしれない。

■ネット通販を始めた時期がずば抜けて早い

もうひとつ、私がヨドバシエクストリームで注目したのは、ネット通販を始めた「時期」である。先述したように、ヨドバシがネット通販を始めたのは1998年。楽天市場がネット通販に参入した翌年には、すでにネット通販事業をスタートさせている。

ちなみに同業のビックカメラがネット通販に参入したのが2003年。アマゾンが本の通販を始めたのが2000年で、物流センターを構えたのが2005年に入ってからである。この点からも、ヨドバシがネット事業に参入した時期がずばぬけて早いことが分かる。

また、ヨドバシ社員へのインタビュー記事によると、当時のサイト名は「ヨドバシ・パーソナルストア」という名称で、1日100件ほどの注文を受けていたという。受注管理システムがなかった時代に、1999年にはすでに店頭在庫と一元管理できるシステムを導入。2000年には「ヨドバシ・ドット・コム」を立ち上げている。

2000年前後のEコマース業界と言えば、楽天市場で卵を販売するネットショップが「月商100万円越えた!」と新聞で大きく取り上げられていたような時代である。その時期に、すでに自社サイトで売り上げが作れる体制を整えていたことを考えると、ヨドバシには相当のEコマースのノウハウが蓄積されていると考えてよい。

家電量販店の一企業と考えれば規模は小さいかもしれないが、ネット通販の経験と知識は、“後発組”の楽天市場やアマゾン以上のものがあると言える。

■質の良い顧客を囲い込んでいるのではないか

もうひとつ加えるのなら、ヨドバシの長いネットショップ運営の歴史は「客質」にも大きな影響を与えているといえる。

1998年からネット通販の事業を展開しているとなれば、すでに20年以上の顧客の積み重ねがあることになる。ネット通販というビジネスモデルは、競合が少ない段階で顧客を獲得して、その顧客にネット通販の利便性を体験させれば、リピート客になる傾向が強い。実店舗のビジネスよりも老舗になればなるほど強く、メルマガとポイントで顧客を囲い込むことさえできれば、価格競争に巻き込まれにくくなり、売り上げが安定しやすくなる。

そのような観点で考えれば、ヨドバシは日本のネットショップの中でもダントツで歴史が古く、なおかつ質の良い顧客を多く囲い込んでいる可能性は高い。事実、日本生産性本部が2018年に行った顧客満足度調査では、通販部門で「ヨドバシ・ドット・コム」が5年連続で1位を獲得している。この実績は「ヨドバシの通販のサービスは素晴らしい」と捉えられるのと同時に、「ヨドバシの通販のサービスは素晴らしい」と答えてくれる良い客質の顧客が多いことを意味している。

■優良顧客は「小料理屋の常連客」のようなもの

客質が良いと、他のネットショップと販売価格を比べる客が少なくなり、返品やクレーム対応の必要な客も減る。つまり店舗運営のストレスは小さくなる。例えるなら、小料理屋で常連客のほうが一見さんよりも文句も言わず料理を「おいしい」と食べ続けてくれるのに状況は近い。

ヨドバシを昔から利用している優良顧客は、ヨドバシのサービスを心から信頼しているので、まとめ買いもしてくれるし、競合他社と価格を比較しながら買うこともほとんどしないのではないだろうか。長年貯めているポイントもあるので、多少、高い商品でも購入してくれるはずである。

また、客質が良ければ、クレームや問い合わせも少なくなるので、業務もスムーズに回るようになる。少なくとも、どっかのコンサルタントのようにボールペンを1本だけ注文するようなバカな買い物をする客は、レアなケースだと思われる。

■人件費の高騰に耐えられるか

このように、ヨドバシエクストリームが事業として好調な理由は、

ー社配送が外注の配送業者を利用するよりも安い
▲優奪板免里肇蹈献好謄ックの経験とノウハウが豊富
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という3点だと思われる。おそらく、自社配送というクローズドな世界のため、配送の仕組みやノウハウが外に漏れにくいことも、ヨドバシの自社配送を他社がまねできない要因のひとつと考えられる。

ただ、ひとつだけ懸念することは、人件費の高騰である。今回、いろいろな宅配業者の求人広告を調査したところ、月給はアマゾンの配送ドライバーの41万円程度が一番高かった。巨大企業がネット通販の市場だけではなく、労働賃金の競争にまで突っ込んでくると、ノウハウと客質だけでヨドバシが対抗し続けることは、将来的に難しくなるのではないだろうか。

日本企業であるヨドバシにはもっと頑張ってほしいところがあるので、次回はボールペン1本という失礼な注文ではなく、客単価の高い商品を注文して、もう少しヨドバシの売り上げに貢献していきたいと思う。

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竹内 謙礼(たけうち・けんれい)
有限会社いろは代表取締役
大企業、中小企業問わず、販促戦略立案、新規事業、起業アドバイスを行う経営コンサルタント。大学卒業後、雑誌編集者を経て観光牧場の企画広報に携わる。現在は雑誌や新聞に連載を持つ傍ら、全国の商工会議所や企業等でセミナー活動を行い、「タケウチ商売繁盛研究会」の主宰として、多くの経営者や起業家に対して低料金の会員制コンサルティング事業を積極的に行っている。著書に『売り上げがドカンとあがるキャッチコピーの作り方』(日本経済新聞社)、『御社のホームページがダメな理由』(中経出版)ほか多数。

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(有限会社いろは代表取締役 竹内 謙礼 写真=時事通信フォト)