安倍政権 「予防」の名で責任放棄

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 安倍政権はいま、医療と介護の軸足を「予防・健康管理」と「自立」に移す計画を進めています。夏までに策定する政府の「健康寿命延伸プラン」にも、健康で長生きという国民の願いを逆手にとった、いっそうの社会保障費抑制策を盛り込もうとしています。(岩間萌子、北野ひろみ、佐久間亮)

医療・介護 貧弱なまま

 「病気予防や介護予防の保険者のインセンティブ強化は、20年来、私も執念深く取り組んできたが、今回はぜひ実現したいと考えている」

 3月20日に官邸で開いた未来投資会議で、安倍晋三首相はそう語りました。

 背景には予防で社会保障費が減らせるという思想があります。厚生労働省は2013年、高齢者の介護予防や現役世代の健康づくりなどで5兆円規模の抑制効果が出るとの試算を発表しています。

 そのために考えられているのが目標達成へのインセンティブ(動機づけ、報酬)強化です。生活習慣を改善したり、スポーツクラブで運動したりした人に景品と交換できるポイントを付与する、特定健診(メタボ健診)の受診率などに応じて保険者に報酬や罰則を与える―などのメニューが並びます。

 例えば、大企業を中心につくられている健保組合では、特定健診の実施状況で後期高齢者支援金の負担額が加算(罰則)・減算(報酬)される仕組みがすでに入っています。安倍政権は、この加算率を現行の0・23%から最大10%まで引き上げるとしています。同様に国保や介護保険でもインセンティブ強化を狙っています。

 全国保険医団体連合会の松山洋事務局主幹は、高齢者医療への支援金が健保組合解散の要因になっているとし、支援金は本来、国が負担すべきもので、加算率引き上げは解散の動きを加速すると指摘。「医療や介護の貧弱な体制を放置したままインセンティブだけ強化しても効果が上がるとは思えない」と批判します。

介護外しで死亡・重症化

 介護では急テンポで予防の名による抑制が進んでいます。安倍政権は昨年末発表した「改革工程表」で要介護1、2を保険給付から外し、市区町村の裁量で実施する予防を目的とした総合事業に移行させる考えを打ち出しました。

 14年の介護保険法改悪で既に要支援1、2は総合事業に移行しています。しかし、肝心の総合事業は予防どころか、“高齢者いじめ”ともいえる結果を引き起こしています。典型が、厚労省が職員を特命副市長として派遣し、15年度から総合事業を開始した三重県桑名市です。

 同副市長のもと、桑名市が掲げた標語は「介護保険を『卒業』して地域活動に『デビュー』する」です。総合事業で介護予防に取り組み、介護保険を卒業して地域の体操教室やサロンなど住民主体のサービスにデビューする―。総合事業の評価指標を「卒業件数」としたうえで、総合事業卒業後、半年間、介護保険を利用しなければ事業者に1万8千円、ケアマネ実施機関に3千円、利用者に2千円を交付するインセンティブまで設けました。

 結果はどうか。桑名市による17年3月末時点の状況調査は衝撃的です。卒業後、介護保険サービスに戻った人が19%、保険を使わず自費で介護サービスを利用していた人が9・2%に上る一方、住民主体のサービスの利用は約16%にとどまっていたのです。

 桑名市の介護の実態に詳しい村瀬博・三重大学非常勤講師は、「死亡」が10・6%と同時期の厚労省調査と比べ3〜5%近く高いことも示し、「卒業は名ばかりで、実態は介護保険サービスから切り離され、死亡や重症化しているのが実態ではないか」と指摘します。