「お金の運用はリスクが怖い」「手続きがめんどう」「やっぱり預金が一番安心できる」……。さまざまな理由で投資に一歩踏み出せない人も多いと思います。そんな人に、長期投資のメリットを解説します。

■預金しなさいと言われて育った世代

皆さんこんにちは。セゾン投信の中野晴啓です。僕は12年前、これからの日本社会を真面目に生き抜く生活者が、豊かな人生を実現するために必要な資産形成を、長期投資という手段で実践して欲しいとの思いでセゾン投信を創業しました。本格的な長期資産育成型「投資信託」の提供を通じて、全国の方々に行動を促し続けています。このコラムを通じて、ひとりでも多くの皆さんにその一歩を踏み出していただきたいと切望しています。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/lucky336)

さて初回はまず、おそらくは多くの皆さんがまだ腑に落ちていない「なぜいま投資が必要なのか?」という疑問を解き明かすことから始めましょう。

皆さんはきっと、親御さんからずっと預金しなさいと言われ続けて育って来たことでしょう。かく言う僕もそうでした。子供の頃、親戚のおじちゃんからもらったお年玉はすぐに母親に取り上げられて、「これはあなたのために銀行に預金しておいてあげるから。預金するのはとても良いことで、良い大人になれるのよ。」と言われ、そのお金は以後僕の手元に戻ってくることはありませんでした(苦笑)。

■かつては預金が社会貢献になっていた

そう、20世紀日本が高度経済成長を続けていた時代には、確かに預金は社会に対して貢献出来る美徳の行動だったのです。戦後日本は焼け野原になって、敗戦国たる政府にはすっかりお金がなくなってしまいました。それでも日本経済が再び活動するためには、当然資金が必要です。そこで国民が持っていたお金を銀行に預金として集め、集まった資金をこれから頑張って事業を興そうという企業に貸し出しというかたちで銀行が融通することで、日本の産業界は奮起して目覚ましい発展に繋げることが出来ました。従ってその当時の預金は、日本経済が成長するための糧となってしっかり貢献出来たわけで、親の言う通り預金は立派な社会貢献だったのです。

■親世代とはまったく異次元の世界へ

ところが高度成長を終焉させた日本経済は、21世紀に入り急速に成熟社会へと転換を余儀なくされました。世界有数の豊かさを手に入れた日本では、資金需要が減退して銀行預金はだぶつき始めます。経済の仕組みってけっこうシンプルなもので、つまり20世紀高度成長時代は資金が足りなくて、産業振興の需要が旺盛だったので、預金は銀行にとってとてもありがたく、ゆえに高い利息を付けて喜んで預金を受け入れていましたが、21世紀に入り経済活動が成熟して資金需要が衰える中では、預金が余剰資金になってしまい、利息がとうとうゼロ水準になってしまったのです。このように、金利は資金の需要と供給を反映して動くものなので、ゼロ金利時代に入って久しい日本では、預金がちっとも社会のためにならなくなったというわけです。

さて親世代の高度経済成長時代は、目覚ましい経済拡大が続いて、生活者もすべからくその分だけ所得が増えて豊かになる。おまけに預金しておけば利息が付与されお金も相応に育ってくれました。ところが皆さんが物心ついた時以降ずっと続いたままのゼロ金利時代は、経済成長もなくなったために所得も伸びず、預金をしてもお金は全然増えないという、親世代とはまったく異次元の環境に換わってしまったのです。

■ゼロ金利なのに預金増加のナゾ

さらに経済停滞した日本は長期デフレという経済の病気に冒されて、世界経済の安定した成長から取り残されたまま、気が付けば世界有数の豊かな国とはだんだん言い難くなって来ています。そして生活者はそうした状況を肌で感じ、みんな預貯金をせっせと積み上げることで将来不安を和らげようとしているため、ゼロ金利の預貯金はもう1千兆円規模にまで増加の一途をたどっているのです。皆さんの多くは、今でも親世代から教えられた「預金は良いこと」の呪縛に囚われていませんか?

■もっと合理的にお金を育てていく方法

はっきり申し上げて、現状の日本社会でせっせと預金しても、銀行はそれを持て余し、結局それらは死に金になっています。無論ゼロ金利ではお金は育ちません。ならば親世代が預金することでお金が育ったように、今の私たちがお金を育てる方法は?それが政府のスローガンでもある「貯蓄から投資へ」なのです。そして政府は最近このキャッチフレーズを「貯蓄から資産形成へ」と改めました。そこに合わせて構築された制度が「イデコ」や「つみたてNISA」であり、このコラムでいずれその適切な活用法を解説して行きます。

まずは今回皆さんに知っていただきたいのは、真っ当な投資(=長期投資)は決して闇雲に相場で勝負するギャンブル的行為ではなく、経済活動の中で合理的にお金を育てていく手段だということです。そこで皆さんが預貯金で昼寝させたままのお金を、経済活動の中で働く資金に換えて自ら富を育て、親世代のような豊かな人生を実現させていく。それが「貯蓄から資産形成へ」の意図だと理解してください。

これからこのコラムを通じて、投資の本質を知り、豊かな将来を自ら獲得していく賢い生活者になるために、一緒に学んでまいりましょう!

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中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信代表取締役社長
1987年明治大学商学部卒業後、現在の株式会社クレディセゾン入社。セゾングループで投資顧問事業を立ち上げ、海外契約資産などの運用アドバイスを手がける。その後、インベストメント事業部長を経て2006年に株式会社セゾン投信を設立、2007年4月より現職。現在2本の長期投資型ファンドを運用、販売会社を介さず資産形成世代を中心に直接販売を行っている。公益財団法人セゾン文化財団理事。一般社団法人投資信託協会理事。著書に『預金バカ』(講談社+α新書)、『つみたてNISAはこの8本から選びなさい』(ダイヤモンド社)、『いま選ぶべきアクティブ投信 この8本』(日本実業出版社)など多数。

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(セゾン投信・代表取締役社長 中野 晴啓 写真=iStock.com)