素直に脱帽するしかない。そんな内容の試合だった。

 J1第9節、松本山雅FCはFC東京とアウェーで対戦し、0−2で敗れた。

 前節終了時点で10位の松本に対し、無敗で首位を走るFC東京。順位が示すとおりの力の差と言ってしまえばそれまでだが、松本はほとんど何もさせてもらえないまま、苦杯をなめることとなった。


首位のFC東京相手に成す術がなかった松本山雅

 この試合の主役は、間違いなくFC東京の17歳、MF久保建英だった。小柄なレフティがボールを持ち、多彩なテクニックとアイデアを披露するたび、松本の選手たちは”道化役”を演じるはめになった。

 だが、DF田中隼磨が「警戒すべき選手は(久保以外にも)たくさんいる。相手のストロング(強み)を出させてしまった」と振り返ったように、松本は決して久保ひとりに振り回されたわけではない。FW前田大然が語る。

「(FC東京は)強かった。前にボールがほとんど入らなかった」

 前線でカウンターの機会をうかがっていた前田だが、しかし、どれほど際立った俊足であろうと、その足もとにボールが届かなければ、成す術がない。

 田中は「個の能力で勝てなければ、チームで戦わなければいけない」とも話したが、選手個々の能力差に加え、選手個々の特長を踏まえたうえで、チームとしてどう戦うかという点においても、FC東京のほうが明らかに上だった。

 両チームの力の差が最も顕著に表れていたのは、守備から攻撃へと切り替わる局面である。

 松本は、FC東京の攻撃をある程度制御することに成功していた。うまくパスをつながれることもあったが、それほど多くの決定機は作らせなかった。

 しかし問題は、相手の攻撃を止めたあと、である。

「奪ったボールが(前線に)収まらない。(相手の)プレッシャーがないときにも、ヘッドダウンしてしまう。ずっと言っていることだが、なかなか改善されない」

 反町康治監督がそう話すように、松本は奪ったボールを攻撃につなげようとしたところで、ボールを失うことが目立ち、逆に自らピンチを招くことが少なくなかった。

 簡単にクリアやロングボールに逃げるのではなく、パスをつないで攻撃に転じる。その姿勢自体は非難されるべきものではない。だが、結果として、それが裏目に出ている面があることも否定できない。ボランチとして、攻撃の組み立て役を担うMF宮阪政樹は言う。

「ボールを奪ったあとの、ひとつ目のパスが課題になっている」

 松本の2失点を振り返れば、いずれもFC東京の攻撃を一度は止めながら、そこから攻撃に移ろうとしてボールを奪われたことに端を発している。

「勝ち点を取るには、現実を見てやらなければいけない。できることに重点を置いてやり、それで勝ち点を取れるようになってから、課題に取り組むほうがいいのかもしれない。ボランチとしては、そこは考えなければいけない」

 宮阪が悩まし気に話すように、できないことを無理にやろうとして、むざむざ失点を重ねるくらいなら、FWレアンドロ・ペレイラの高さや、前田のスピードを生かしたロングボールに”逃げる”ほうが、ひとまずは得策なのかもしれない。

 実際、松本は時間の経過とともに、ボールを保持して敵陣に入る場面を増やしたが、「(攻めていても)最終的にバックパスしてしまったり、サイドでノッキングするような場面が多かった」とは、キャプテンのDF橋内優也。また、MF高橋諒の「(攻撃を)やり切らず、もったいない失い方があった」という言葉どおり、じっくり攻めている、と言えば聞こえはいいが、攻め手を見つけられないまま、パスをつないでいる間にどこかでミスが出てしまう、というシーンも目についた。

 前半のうちに先制点を与えたことで、後半は攻勢に転じた松本は、トータル10本のシュートを放ち、量のうえではFC東京の7本を上回った。だが、その質はどうだったのか。

 本当の意味でのチャンスと呼べるのは、56分にレアンドロ・ペレイラが、84分に交代出場のFW永井龍が、いずれも右サイドからのクロスにヘディングで合わせたシュートシーンくらいだろう。反町監督が語る。

「(後半の選手交代によって攻撃が)活性化され、リズムが変わったが、それが決定打につながったのか。フィニッシュがペナルティーエリアの外になってしまうのは、今の我々を象徴している」

 4年前の2015年シーズン、松本はクラブ史上初のJ1昇格を果たしたものの、あえなく1シーズンでJ2へ逆戻りとなった。

 豊富な運動量を生かした堅守速攻は、松本の最大の武器であり、J1昇格の原動力でもあったが、それだけで日本のトップリーグを戦うには限界があった。だからこそ、2度目の昇格を果たした今季、松本は4年前とは違う姿を見せようとしている。

 先日、J1第8節の川崎フロンターレ戦に敗れた湘南ベルマーレの者貴裁(チョウ・キジェ)監督が、「相手にボールを渡して守備の時間が長くなるなかで、少ないチャンスを生かす戦いでは、このリーグ(J1)でやるには限界がある」と話していたが、J1昇格とJ2降格を繰り返すクラブ同士、同じことは松本にも言えるだろう。

 幸いにして、現段階での松本の成績は3勝2分け4敗と、黒星がひとつ先行しているにすぎない。9試合を終え、総得点6、総失点9という少々寂しい数字にもかかわらず、勝ち点11を積み重ねているのだから、悪くない結果である。

 たとえば、勝ち点6で17位のジュビロ磐田は総得点7、総失点10。勝ち点8で13位のセレッソ大阪は総得点5、総失点8。いずれも、これまでに奪ったゴール数は松本と大差なく、得失点差は松本と同じマイナス3なのだが、勝ち点では3ポイント以上の差がついているのだから、松本がいかに効率よく勝ち点を手にしているかがわかる。

 J1首位を独走するFC東京相手に、力の違いを見せつけられる結果に終わったとはいえ、今季ここまでの戦いを総体的に見れば、上々のスタートを切っている松本。それだけに、これを何とか最終的な目標、すなわちJ1残留、さらにはJ1定着につなげたいところだが……。

 理想と現実の間(はざま)で、反町監督には難しいかじ取りが託されている。