周防正行監督5年ぶりの最新作、2019年12月公開の映画『カツベン!』の撮影現場に、AbemaTIMESが潜入。成田凌、永瀬正敏、竹中直人、音尾琢真、竹野内豊と、豪華俳優陣が勢ぞろいした現場の様子をレポートする。
成田凌が映画初主演!超実力派俳優陣と“活弁”を演じる
 『カツベン!』の舞台は、今からおよそ100年前、「映画(活動写真)」がまだサイレントでモノクロだった大正時代。当時、日本では楽士の奏でる音楽とともに独自の“しゃべり”で物語をつくりあげ、観客たちの心をつかんだ「活動弁士」、通称“活弁”(カツベン)が大活躍していた時代だ。

 主人公に抜擢されたのは『劇場版 コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(18)『ニワトリ★スター』(18)『ここは退屈迎えに来て』(18)など、注目作への出演が続く若手俳優・成田凌。ヒロインには若手実力派女優の黒島結菜。さらに永瀬正敏、高良健吾、井上真央、音尾琢真、竹野内豊と超実力派俳優が脇を固め、周防作品おなじみの竹中直人、渡辺えり、小日向文世らも登場する。竹野内豊がブルース・リー風に“キンチャク”アクション!
 10月下旬、撮影が行われたのは、福島県・あづま総合運動公園内にある、福島市民家園・旧広瀬座。旧広瀬座は、明治20年(推定)、伊達郡梁川町の広瀬川川岸に町内の有志によって建てられた芝居小屋で、広瀬川のたび重なる氾濫で被害を受け、昭和61年の洪水のあと、川幅を広げるため取り壊されることが決定、しかし、貴重な芝居小屋を残すため民家園で復元されたという歴史を持つ。
 主演の成田は「おはようございまーす!」と大きな声で挨拶し、頭を下げながら現場入り。今回、オーディションで初主演に抜擢された成田が挑戦したのは、長台詞も多く、男性だけでなく女性や子供、老人など様々な声色を操らなければならない活動弁士・染谷俊太郎役だ。リアリティのある演技をするために、オーディション直後からボイトレを行い、実際に活動弁士の方に師事。半年ほどの練習期間を経て、その出来には周防監督も太鼓判を押す。

 この日は物語の終盤、竹野内演じる刑事・木村と音尾演じる安田の手下たちの乱闘シーンを撮影。本格的なアクションシーンは周防作品史上初の試み。特にこの日のシーンでは、サイレント映画らしいバタバタ感を大事にしたいという周防監督のこだわりから、ワンカットで撮影されることに。

 本番前にアクション監督の指導のもと、何度も動きを確認する竹野内。『彼女がその名を知らない鳥たち』『孤狼の血』などで、容赦ない蹴り・暴行シーンなどには挑戦していた竹野内だが、長椅子を振り回し襲ってくる手下たちを交わし、ステッキで戦うといった本格的なアクションに挑むのは今回が初。さらに、まるでブルース・リーがヌンチャクを振り回すように、“キンチャク”を振り回し戦うシーンも。あまりに力を入れすぎたのか、途中、手下の一人に命中したステッキがポッキリ折れてしまうアクシデントも発生。出番を待つ竹中が、そんな竹野内を見て「俺もできる」と言わんばかりにブルース・リー風の動きを真似るなど、和気藹々とした雰囲気で活力のある現場だった。キャスティングの決め手は?周防正行監督インタビュー
ーー今回、主人公・俊太郎役の成田さんとヒロイン・梅子役の黒島(結菜)さんはオーディションで採用されたとのことですが、どんなところが決め手になりましたか?

周防監督:成田さんが1番良かったのは素直なところです。変に作ったりもしないで、素直に(本を)読んでくれる。当然(活弁のしゃべりの)訓練期間は数ヶ月間とろうと考えていたので、とにかく素直にやってくれれば、あとはなんとかなると思っていました。

逆に、成田さんでちょっと迷ったのは背が高いところ。江戸時代の日本人の平均身長150cmって言われていて、この話は大正時代だけど、成田さんほどスッとした人はいない。ただ、そんなこと言ったら時代劇が撮れなくなっちゃうので(笑)、そこは目をつぶって、彼の素直な感じにかけました。見た目もソフトな感じで柔らかさ、初々しさがあったのも良かったです。

黒島さんにも初々しい雰囲気はありました。黒島さんが演じる梅子は女優を目指す女の子で、初々しさが大事だったんです。でも梅子はとても複雑な家庭で育った子なので、ただ天真爛漫に明るいだけじゃダメだなと思っていて、どこか影を感じさせる女優を探していたんです。それで、黒島さんってパッと見、影があるように見えていいなと思ったんですけど、本人に話したら全然そんなことはなく(笑)。割と健やかに育っていました。

ーー成田さんから初主演のプレッシャーを感じている様子は見えましたか?

周防監督:最初は緊張していたと思います。京都で撮ったときと、これだけ撮影してきた今日とでは、表情が全然違います。僕も見ていて、どんどん可愛く感じるようになってきているんです。京都のときはやっぱりちょっと固かった。今はアップを撮るたびに「なかなか可愛いな」と思っています(笑)。

あと、これも僕の勘違いだったんですけど、もうちょっと二の線が強い人なのかなと思ったら、割と三の線な人でした。とぼけた味わいとか、笑ったときの可愛さとかがある人なんだなと、僕も撮りながらわかりました。

ーー主演は成田さんで良かったなと。

周防監督:出来上がった作品を見たらわかりますね!(笑)
ーーこれまで監督の作品はご自身で書かれた脚本のものばかりでしたが、今回は監督の作品でも助監督を務めていた経験のある片島章三さんが書かれた脚本ですね。

周防監督:実は数年前にこんな話を考えていると、片島さんから聞いていて。そのときすでに読んでいまして、面白い本だなと思っていたんです。それで数年経ってなかなか具体化していないなかで、プロデューサーの方から「この本を監督して見る気はないですか?」と聞かれたのでお受けしました。全く知らない人の本で、初めて読んで監督するというのではなく、何年も前に読んで、気心の知れた人のだったから、「僕が監督していいんだったらやりますよ」と。 今回、脚本に対してアイデアは出しましたけど、一切自分で書くというのはしていないんです。もちろん現場で役者さんとのやりとりで変更というのはありますけど、なるべく手を触れないようにしました。もしセリフを直してほしかったら、「こういうニュアンス」というのだけを伝えて、書くのは片島さんに任せました。僕だったらこういうシチュエーションにしないなと思うところも、彼のセンスに乗っかって演出してみようと。そうすると、自分の中で新しい発見ができるかなと思ったんです。やっぱりこれだけ長くやってると、予定調和的というか、自分の枠をはみ出すことがなかなか大変で、今回は片島さんの本を借りて、新しい自分を発見できたらいいなと思いました。

本を読み込んでいたつもりでも、実際に撮ってみて気づくことも多かったです。演出をつけていて、こういう広がりがある本なんだと知っていくのが楽しかったです。それでアイデアが湧くというのもありましたし、いい経験をしています。

ーーメリットが多かったんですね。逆にストレスを感じることはありませんでしたか?

周防監督:追いつくのが大変でした。そのシーンを何故そこに入れるかというのに、捨てたことがいっぱいあるんです。自分で書いていると、その捨てたことを知っているので、なんでそうなったかがわかるんですけど、それを発見するのは後から参加した者には難しい。なんでこのシーンにたどりついたのかをわかっていないので、「こういうことがあったからこうなったんです」と聞いて「あ〜なるほどね」となるという。

結局、他人の本だから簡単にできるじゃなくて、後から参加した分、いっぱい寄り道をそこからしていかなきゃいけないんだなと気づきました。普段だったら、僕は自分のテーマは、誰よりも詳しいぞっていう自信があるんですけど、今回は「活動弁士」について片島さんに追いつこうというプレッシャーもありました。「そんなことも読めてないんですか?」ってなりたくない(笑)。

ーー今回も周防作品でおなじみの竹中さんと渡辺(えり)さんも出演されています。竹中さんの役名は『シコふんじゃった。』(92)『Shall we ダンス?』(96)『それでもボクはやってない』(07)『舞妓はレディ』(14)と同じく「青木富夫」でしたが、これには何か意味があるんですか。

周防監督:本を読んだら、(映画館の名前が)「逭木館」って書いてるから、それ読んだ瞬間に「館主は竹中さんだ!」と思いました(笑)。片島さんは全然そんな気は無かったらしいんですが。(永瀬正敏演じるカリスマ活動弁士の)山岡のキャラクターの一部がが徳川夢声さんという方をモデルとしているんですけど、徳川夢声さん勤めていたのが「葵館」だったから「逭木館」になったそうです。だから僕が竹中直人さんをキャスティングしたら驚いていました。当然そうなんじゃないの?ってボクは思っていたんですけど(笑)。それで、「逭(青)木」だったので「青木富夫」にしました。そこから、奥さんはえりさんにしようと思いました。えりさんにはずっと「高橋豊子」で出ていただいているので、今回は「青木豊子」にしました。

ーー興味深いお話ありがとうございました!

取材・テキスト:堤茜子
『カツベン!』公式サイト