4月11日、スーパーヒーローや怪物、宇宙人が闘いを繰り広げる巨大スクリーンの裏側で、現実のバトルがぼっ発している。写真はハリウッドサイン。2月撮影
 - (2019年 ロイター/Mike Blake)

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Lisa Richwine

[ロサンゼルス 11日 ロイター] - スーパーヒーローや怪物、宇宙人が闘いを繰り広げる巨大スクリーンの裏側で、現実のバトルがぼっ発している。その結果は、全米各地の映画館で今後どの作品が上映されるのかを左右する。

 これは新作映画がDVDになって発売されたり、ネット上で配信される前に、劇場でどのくらいの期間上映すべきかを巡る戦いだ。今の先行期間は90日が平均だが、メディア業界の地殻変動により、それを短縮すべきかどうかを巡る論争が過熱している。

 新興の大きなテクノロジー企業が、長年続いたハリウッドの伝統をひっくり返しかねないこの論争には、地域の映画館やテレビの娯楽番組の将来がかかっている。

 動画配信サービス大手Netflixは、独自の新作映画を劇場で封切るのと同時、あるいはわずか数週間程度の時間差でネットに配信している。ライバルAmazon.comの制作子会社 Amazon Studios は、オリジナル作品の一部について、劇場先行期間を2─8週間程度とし、その後は動画配信サービス「プライム・ビデオ」で流したいとの考えを示している。

 映画館のオーナーの多くは、業績悪化につながるとして反対。アカデミー賞の主催団体は対応を検討中で、有名人も賛否を口にし始めた。

 世界最大の映画館運営会社AMCエンターテインメント・ホールディングスのアダム・アーロン最高経営責任者(CEO)は、「すべての、そしていかなる選択肢も検討する」とする一方、現行の業界基準に変更を加える際は「われわれにとって有益、またはニュートラルでなければならない」と述べている。

 娯楽大手ウォルト・ディズニーですら、ネット配信事業への参入を表明しており、11日に料金などの詳細を発表。これにより、同社もより早期の配信解禁を求めるようになるのではないかとの懸念が出ている。

 ディズニーの幹部は、注目映画については相応の時間差をつける現行のやり方を断固として支持するとしている。同社のスーパーヒーロー映画『ブラックパンサー』や『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は2018年、計73億ドル(約8,100億円)の興行収入を上げた。

 さきごろ映画館の経営者がラスベガスで開いた会議で、ディズニーを始めとした制作側は、暗い劇場で映画を見ることは特別な体験だと強調した。

 「映画館でファーストキスを経験した人の数は、実家のリビングよりもずっと多い」と、通信大手AT&T傘下ワーナーメディアの映画会社ワーナー・ブラザーズのトビー・エマーリッチ氏は話す。ワーナーメディアはネット配信も強化する方針だ。

 アカデミー賞受賞の英女優ヘレン・ミレンさんは、もっとストレートだった。

 「Netflixは大好きだが、Netflixなどクソくらえだ」と述べて喝采を浴び、「映画館に座って、暗くなっていく瞬間に勝るものなどない」と語った。

 Netflixは、ハリウッド中心部にある1922年開業の歴史ある映画館「エジプシャン・シアター」の買収交渉を進めていると、事情に詳しい関係者は明かす。新作の封切や、他のイベントをこの劇場で開く考えだという。

 Amazon Studios のジェニファー・ソルキーCEOは、「映画館での体験を重視している」と発言。同社は6月にコメディー映画『レイト・ナイト』を公開するが、従来どおりの先行期間を設けるつもりだという。

 先行上映の期間が短くなれば、映画館に足を運ばない人が出てくると、全米4位の映画館運営会社を傘下に持つマーカスのオーナー、グレグ・マーカス氏は言う。

 「顧客の10%を奪われて事業に打撃を受けたら、われわれは劇場体験に再投資できなくなる」と、マーカス氏は予測する。「そうなれば、最終的にはコンテンツ提供者も痛手を被る」

 コンテンツを消費する側は現状に満足している、と話す人もいる。Netflixが90本あまりの映画をネット配信する中で、2018年の興行収入は世界で過去最高の410億ドルに、米国とカナダでは計120億ドルに達した。

 「(現状が)機能していないという訳ではない」と、配給会社ビュー・インターナショナルのティム・リチャーズCEOは言う。

<アカデミー賞の舞台>

 先行期間の問題は、今月開かれるアカデミー賞の運営規則に関する会議でも取り上げられそうだ。

 同賞を主催する映画芸術科学アカデミーのメンバーの一部は、賞の選考対象になるには、一定期間の劇場公開を義務付けるべきかを議論している。

 スティーヴン・スピルバーグ監督は昨年、英ITVニュースに対し、ネット配信を主とする映画は、アカデミー賞ではなくテレビの最優秀作品に与えられるエミー賞を狙うべきだと述べている。同監督の代理人は、監督がアカデミーにこの問題を取り上げるよう促すかどうかについて、コメントを避けた。

 Netflixは2月、米国とメキシコの合作映画『ROMA/ローマ』で3部門でアカデミー賞を獲得した。この映画は、一部の映画館で限定して封切られ、その3週間後にネットで配信された。

 Netflixは「映画を愛している」とツイートしたが、劇場に行くお金がない人や、近くに映画館がない人の味方でもあるとしている。

 米司法省もこの問題に言及してきた。アカデミーに対し、選考対象に何らかの制限を設ければ反競争的になる可能性があると警告した。

 アカデミー賞の広報担当者は、変更があるとすれば今月23日に開く会議で議論されると話す。

 この問題は、マーティン・スコセッシ氏が監督し、ロバート・デニーロとアル・パチーノ両氏が出演するNetflixの『アイリッシュマン』が公開される今年後半に再燃しそうだ。

 デニーロ氏はインタビューで、アイリッシュマンが全米の劇場で公開されることを願っているものの、Netflixの会員は主にネットで映画を見ていると認識していると話した。

 「(Netflixは)自分たちの損になるようなことはしないだろう。それは分かっている。こういう映画はそういう風に公開されないといけない」と、デニーロ氏は話した。

 「それでも、なるべく多くの劇場で公開できるように努力している」と、付け加えた。

(翻訳:山口香子、編集:久保信博)