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 多くの小売店が被害に頭を悩ます万引き。少し古いデータになるが、万引防止官民合同会議が2010年に発表した全国の年間万引き被害推計額は4615億円。これは2018年の山梨県の予算(一般会計予算)の4556億円を上回る。

 当然、店側にとっては死活問題だが、万引き犯を捕まえても逆ギレするなど反省の色を見せない者も少なくない。数年前まで書店従業員として働いていた綾瀬智則さん(仮名・35歳)は、そんな万引き犯たちと対峙してきた人物だ。

◆中年女性が盗んだのは某新興宗教トップの著書

「いろんな意味で印象的だったのは、『警察? さっさと呼べばいいじゃない』と謝罪や反省の言葉が一切なかった40代の中年女性。こういう人は一定の割合でいましたけど、気になったのは彼女が盗んだ本。実は、某新興宗教トップの方の著書だったんです。店側にとって何の本を万引きしたかは関係のないことですけど、これはさすがに困惑しました。駆け付けたお巡りさんも彼女が盗もうとした本の表紙を見て苦笑いしていました」

 警察の前でも悪態をつく相手に内心怒り心頭だった綾瀬さんは、感情を抑えつつ彼女にこう言ったという。

「『市内にあるこの宗教の施設にあなたの万引き行為について報告させていただきます』と伝えたんです。そしたら態度をコロっと変えて、『お願い! それだけはやめてーっ!!』って。まさかここまで効果があるとは思いませんでしたが、あれは痛快でした。あとでお巡りさんには『やりすぎです』って怒られちゃいましたけど(笑)。でも、普通に考えれば信者ならお金を払って本を買うはずじゃないですか。教義の内容は知りませんが、万引きなんて働いたらそれこそ教えに反すると思うんですけどね」

◆「マンガを盗んだことにして」と泣きながら懇願する中学生

 また、18禁の雑誌を持ち去ろうとした中学1年生の男子生徒も印象に残っている万引き犯のひとりだ。

「成人向けの雑誌を置いてある郊外の系列店にいたときの話ですが、彼のバッグを確認したら、10冊以上も同じジャンルの雑誌が入っていました。しかも、熟女系の本も数冊混じっていて、顔には出しませんでしたけど、中学生なのにストライクゾーン広すぎだろ!って頭の中でツッコんでました(笑)」

 このときは店長の判断で警察ではなく親に迎えに来てもらうことに。ところが、家に連絡を取ろうとすると「お願いだからマンガを万引きしたことにしてもらえませんか」と涙をボロボロ流しながら懇願されたそうだ。

「情に弱い当時の店長は、これを聞き入れてしまったんです。私はきちんとした対応で臨むべきだと反対しましたが、確かにマンガと18禁の本じゃ同じ万引きでも母親のショックの度合いは違うでしょうから」

◆引き取りに来た父親が事務所で子供に殴る蹴るの大暴れ

 一方、同じ中学生でも格闘技マンガを盗もうとした男の子は、迎えに来た父親が大暴れ。店の事務所に入った途端、「このたびは私の愚息が……」と土下座して謝ったそうだが、立ち上がると息子の顔面を思いっきり殴りつけたという。

「しかも、ビンタじゃなくて拳です。それも1発や2発ではなく、10発近くは殴っていたはず。さすがに私と店長の2人がかりで止めましたが、振り回す父親の手が店長の頬にもヒット。さすがに『あんたは万引きした子供を引き取りに来たんじゃないのか!』と店長も激怒していました。男の子が盗もうとしたのは『グラップラー刃牙』だったんですが、作品さながらバトルが目の前で繰り広げられるとは思ってもいませんでした」

 なお、子供の鼻血が事務所に置いてある本や雑誌の表紙に飛び散ってしまい、それはすべて父親に買い取ってもらうことに。再び土下座して謝っていた父親だったが、店長はその日ずっと不機嫌だったという。

「いろんな万引き犯がいましたけど、少なくとも1人の従業員はその対応でかかりきりになるので、店としてはいい迷惑。ここでは面白おかしく話しましたが、基本的にスタッフにとってはストレスになるだけ。その点、転職先の今の会社はデスクワーク中心なので本当に助かります。接客業はもう二度とやりたくないですね」

 被害を受けた店側にとって万引きは金銭的な損害だけでなく、対応する従業員の負担も大きい。小売店などの接客業はアルバイト従業員も多いが、決してラクな仕事ではないようだ。<TEXT/トシタカマサ>

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