非IT業界出身の亀山氏から見た、今のIT業界の問題点とは(撮影:今井康一)

アダルトから出発し、種々雑多な事業への参入で膨張してきた謎多きIT企業はどこに向かうのか。4月15日発売の『週刊東洋経済』では、アダルト動画配信や証券・FX、オンラインゲームなどで成長してきたDMM.comグループの”変身”を特集した。かつて売上高の大半を占めたアダルト関連事業は、直近で3割程度まで減少。組織面でも若手の幹部登用を積極化するなど、生まれ変わりを図っている。

グループ創業者で、持ち株会社・DGホールディングスのトップを務めるのが、亀山敬司会長兼CEO(58)だ。同氏は本誌のインタビューで、「日本のIT企業はまだ定年退職者も出していないし、正直、社員の面倒見がよくない」と指摘。「だからうちは、年を取っても落ち着いて働ける職場にしたい。そういう企業こそ、今後日本のIT業界で重要度が増すはずだ」など、DMMならではの方針を明かしている。

亀山氏はなぜ、このような思いを持つようになったのか。また、これからDMMが向かう方向性についてどう考えているのか。本編のインタビューに続き、亀山氏にじっくり聞いた。

家族経営で成長してきたから感じること

――落ち着いて長く働ける職場にしたいという思いは、石川県でレンタルビデオ店を経営していたときから持っていたものですか?

若い頃は考えていなかった。創業当時の1980年代、社員10人くらいでレンタル店をやっていたときは、まったく。ただ、それが100人を超えてきたくらいから「この人たちをどうやって食わしていけばいいんだろう」と考えるようになった。だから、新しく人を採用するのにすごくびびっていた時期もある。本当に、社員はめったに採らなかった。


一方でその頃、それまで手がけてきた事業だけで成長していくのに限界を感じ始めた。それでレンタル事業をやっていた人に「ITを覚えてくれ」とお願いして、たたき上げのメンバーに支えられてIT企業になっていった。ある意味、非ITで始まって家族経営的な中で成長してきたので、そこが(IT業界の)他社とかなり違う。

今の時代にIT企業に就職するような若者からすると、「会社に一生食わせてもらうことなんて期待しません」みたいな感覚かもしれない。実力主義が当たり前と受け入れていて、30歳を過ぎるとエンジニアとして一線で活躍するのは難しいですね、でも仕方ないですね、と。会社側も「こいつの面倒は俺が見ていくんだ」という感じがない。

――確かに、最近はむしろ「面倒見がよくない」スタイルのほうが、IT業界では好まれる傾向が強まっているかもしれません。

スタートアップ経営者なんかと話していると、「1つの会社に長くいるやつは羊だ、社畜だ!」とか、「サラリーマンをアップデートせよ!」とか、かなり強く言う人がいる。でも、長くいることだって能力じゃないかと。長くいてくれる社員のほうが、会社としてはその人に投資する気になれる。サービスの安定性とか継続性を保つうえでも、長くいる社員の役割は大きい。

現在、DMMグループの従業員は約4000人で、過去5年で4倍以上になっている。生きのいい若手もたくさん入ってきているが、決してそういう“跳ねっ返り”ばかりいるわけではない。10年、20年と、財務経理、営業、カスタマーサポートみたいな専門性を磨いて地固めをしてくれている社員がいる。コツコツ人材も、跳ねっ返りも、外国人も、ヤンキーも。いろいろ、ごちゃまぜなのがいちばん面白いし、成長するために必要なことだと思う。

もちろん、「社員を守る」というだけではダメな面もある。エンジニアはどんどん移り変わっていく技術にキャッチアップするための勉強が必要だから、終身雇用的な組織だと、ちょっとのんびりしちゃうところがあるかもしれない。それでもやっぱりうちでは、持っている技術が古くなってしまったエンジニアでも、異動できる先を作っておきたい。

アダルト草創期のメンバーの大切さ

――ここ数年は組織改革を進める中、アダルト動画制作は社外に売却し、残ったアダルト動画配信の事業もDMM.com本体から分社化しました(現在も持ち株会社の傘下には存在)。完全に撤退することは考えていませんか?

今のところは考えていない。アダルトがあったから、その強みでDMMができたというのもある。ただ、今のDMMはアダルト以外のデジタルコンテンツも含め、プラットフォームとして強くなっている。それに、アダルト市場はこの先そんなに伸びる感じでもない。コンテンツの性質上グローバル展開が難しく、それだったら今強化しているアニメコンテンツ制作などで世界市場を狙ったほうがいい。


亀山敬司(かめやま・けいし)/石川県加賀市生まれ。レンタルビデオ店を開業後、1998年にネット事業参入。アダルト動画配信、証券・FX、英会話、太陽光発電などの事業を多角的に展開。2017年に一度社長職を退くも、2019年2月に復帰(撮影:今井康一)

当時だって、アニメとかのコンテンツ制作に参入できればよかったけど、お金がなかった。だから少ない資金でもできるアダルトに行った。当時、特に田舎にはベンチャーキャピタルなんてないし、信用金庫からお金を借りて商売するしかない。そういう状態では、目の前のビジネスをコツコツ、できる範囲でやるのみだった。

アダルトが事業の中核になったら銀行借り入れが難しくなるなとか、そういう迷いはあった。ただそんな中でいちばん後押しになったのは、当時の社員が「しょうがないですね、やりましょう」とついてきてくれたこと。旅行代理店やレンタルの事業部にいたメンバーがアダルトのチームに移動してくれたから、そっちに踏み出そうと。今でも当時からいるメンバーがたくさん会社に残っている。そういう意味でも、昔からいる人はすごく信頼しているし、大事にしたい。

――昨年10月には、DMMに長く勤めている村中悠介取締役(39)がCOO(最高執行責任者)に、一方でグノシーから来た松本勇気執行役員(29)がCTO(最高技術責任者)に就任し、若手に経営を任せる環境が整いつつあります。亀山さんの中に懸念や危機感が残っているとすれば、どういう点ですか?

1つ挙げるとすれば、DMMとして社会貢献的な、社会的価値のあることをする場合がたびたびあるが、そういう取り組みに対する認識が甘い社員がいるということに、危機感を覚える。こういう活動って、ある程度会社が潰れない、資金的に大丈夫だという前提があるからやろうとなるものだと思っている。


2017年に稼働した、東京都港区六本木の新オフィス。社員間のコミュニケーションを促進するため、デスクが波形の配置に(撮影:尾形文繁)

だけど最近の若い人の中には、自分たちの会社とか事業がまだままならないのに、そういう社会貢献的なところに手を出そうとする人がいる。いやいやお前たち、自分の会社潰れそうなんだぞ! まだ早いだろう!と(笑)。

こういうことは身近なところから順々にやっていくべき。自分が食えるようになり、家族や社員を食わせられるようになり、その先にやっと社会貢献があるはず。そこが全体的に、ふわっとしてしまうのは、自分としてはとてもイヤだなと。

身銭を切らずにいいことをするのは違う

――順番が違うだろうと。

実際、「お金にならなくてもいいから、社会のためにこれをやりたい」みたいなアイデアはたくさん上がってくる。ほかにも、地震とか、洪水とかである地域が大きな被害を受けた、みたいなニュースがあると、「うちの会社は寄付しないんですか」という声を上げる社員がいる。それで「わかった、じゃあみんなが出してくれた額だけ寄付しよう」と言うと、シーンとしちゃうんだよね。

身銭を切らないでいいことをするのはいちばん気持ちいいけど、そういうのはちょっと違うだろうと。ビジネスでちゃんとやることをやって、そこで出たゆとりで社会貢献をするべき。それが自分の会社に責任を持つことだと思う。だからDMMではなるべく、社会貢献的なことは持ち株会社のDGホールディングスが主体になってやっていこうと思っている。