国務委員会のメンバーらと金正恩氏。前列左から3人目が崔龍海氏(2019年4月13日付朝鮮中央通信)

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北朝鮮で11日から12日にかけて、日本の国会に当たる最高人民会議が開かれ、金正恩党委員長が国務委員長に再任された。会議では崔龍海(チェ・リョンヘ)朝鮮労働党副委員長が序列2位の国務委員会1副委員長、ならびに最高人民会議常任委員長に任命された。

前任者の金永南(キム・ヨンナム)氏は対外的な国家元首の役割をになってきたが、果たして崔龍海氏が後任として外遊したり、外国の要人と会談したりすることができるのだろうか。なぜなら同氏は、極めてたちの悪い女性スキャンダルにまみれているからだ。

(参考記事:美貌の女性の歯を抜いて…崔龍海の極悪性スキャンダル

今回の最高人民会議では、対米交渉のエースとも言える李容浩(リ・ヨンホ)外相と崔善姫(チェ・ソンヒ)第一外務次官が国務委員会入りした。崔善姫氏は外務次官から第一外務次官に昇格するなど、国際外交を意識した人事といえそうだ。

一方、崔龍海氏が対外的な国家元首となったことには首をかしげざるをえない。同氏は、故金日成主席の盟友でもあった崔賢(チェ・ヒョン)元人民武力部長(国防相に相当)の息子という血筋ゆえに、金正恩氏の側近の地位を維持している。しかし女性問題、それもほとんど性犯罪とも言えるほどの変態性欲スキャンダルを起こした過去を持ち、失脚と復活を繰り返してきた札付きの極悪幹部だ。

崔龍海氏は、昨年6月に行われた米朝首脳会談こそ同行したものの、韓国の文在寅大統領との2回の首脳会談や昨年5月に行われた中国の習近平国家主席との首脳会談に同行していない。この1年間の北朝鮮外交で目立ったのは、先述の李容浩氏や崔善姫氏、金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長、そして金正恩氏の実妹である金与正(キム・ヨジョン)党第一副部長だ。とりわけ金与正氏の兄に対する発言力は相当強いようだ。

確かに、崔龍海氏は最高人民会議で金正恩党委員長に次ぐポストに就いた。しかし、北朝鮮では最高人民会議や国務委員会よりも朝鮮労働党が上位にある。また最高指導者が全てを決定する独裁体制下では、ナンバー2だからといって安泰というわけではない。2013年12月には、今の崔龍海氏以上の実力者だった金正恩氏の叔父・張成沢(チャン・ソンテク)元党行政部長が粛清・処刑された。2015年4月には、当時の人民武力部長だった玄永哲が人間を「ミンチ」と化すような残忍な方法で処刑された。

過去の金正日氏と金正恩氏の粛清史のなかで、崔龍海氏はしぶとく生き延びてきた一人といえる。ただし、金王朝の始祖の盟友の息子という血筋や、政治的に金正恩氏を脅かす存在にはなりえない「実力」ゆえだろう。そもそも金正恩氏は、崔龍海氏を軽んじているふしがみられる。少し間抜けな話だが、2015年秋には金正恩氏がコダワリを持っていると見られる極太ズボンをめぐって、崔龍海氏は公衆の面前で恥をかかされたという噂さえあるのだ。

金正恩氏は本当に、変態性欲スキャンダルの醜聞に濡れた崔龍海氏に対外的な国家元首の役割を求めているのだろうか。もしかすると今後は、自らが真の国家元首として表に出るつもりなのかもしれない。