『多十郎殉愛記』の高良健吾、多部未華子、中島貞夫監督を直撃/撮影/黒羽政士

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平成が終わるいま、日本映画の伝統である“ちゃんばら映画”を、令和の新時代に受け継いでほしいと、1人のレジェンドが立ち上がった。菅原文太主演の「木枯らし紋次郎」シリーズや松方弘樹主演の『真田幸村の謀略』(79)など、数多くの時代劇を手掛けてきた中島貞夫監督だ。『多十郎殉愛記』(4月12日公開)で20年ぶりにメガホンをとった中島監督と、その想いに応えた主演の高良健吾、主人公に好意を寄せるヒロインのおとよ役を演じた多部未華子を直撃した。

【写真を見る】高良健吾と多部未華子が見つめ合う、劇中のシーンはこちら/[c]「多十郎殉愛記」製作委員会

舞台は、新撰組による取り締まりが強まる幕末の京都。剣の腕が立つ長州脱藩浪人の清川多十郎(高良健吾)は、親の残した借金から逃げるために京都へ上洛してきた。新撰組や京都見廻組が多十郎を追うなか、腹違いの弟である数馬(木村了)が脱藩し、多十郎の元へとやってくる。

杖を手に現れた中島監督は、まるで“マスター・ヨーダ”のような風格だ。ちゃんばらへの思いについて「日本で生まれ、世界に最も誇れるパフォーマンスがちゃんばらだと思っています。ちゃんばらは、俳優さんの肉体を徹底的に使うものですが、近年、それが変形し始めてきた気がします。だから今回、京都太秦で本物のちゃんばら映画を撮れば、そこから若い連中が今後につなげていってくれるのではないと思いました」。

高良は、本作で初めて本格的な殺陣に挑んだ。「小手先のものが通用しない殺陣でした。カメラ位置やカット割でどうにかするのではなくて、監督曰く『肉体で見せていく』。長回しで撮っていきますが、素早くきれいに見せるというような殺陣ではなく、一連でやっていくパフォーマンスの1つ1つが、僕にとっては印象的でした。それはいままでやったことのない殺陣であり、いままで自分が観てきたものとも違うものでした」。

本作に入る前に、中島監督の過去作を片っ端から観たという高良。クランクインの2か月前から京都に入り、殺陣の稽古に励んだ。剣の達人である多十郎は、斬る殺陣さえマスターすれば良かったが、高良は自ら望んで、斬られ役の練習にも参加した。中島監督はそんな高良を「とにかく取り組む姿勢がすばらしかった」と絶賛する。

「これだけのちゃんばらは、そう簡単に覚えられるものではないので、稽古の期間が必要でした。振り付けもそうだけど、相手とのコミュニケーションが重要になってくる。そうすると時間もかかるし、根気よくやっていかないといけない。高良くんが『斬られ役も練習したい』と言ってくれた時は、うれしかったです。斬るタイミングは自分で決められるけど、斬られ役は相手に合わせないといけないから難しい。高良くんはその微妙な技をかなり身につけてくれました。持って生まれたセンスもあるけれど、基本的には取り組む姿勢が大事で。彼は本当に頑張ってくれました」。

高良も「斬られ役のほうが斬る役の何倍も難しかったです。だから、斬られ役の人が上手いと、斬る側は本当に気持ちよく斬れます。今回、自分も含め、殺陣の経験がないみんなと練習していたので、そこはよりわかりました。斬られ役が初めての人とやると、全然上手くいかないのですが、そこはお互いさまなので。斬られる人がいてこその殺陣だと思いました」。

多部も高良が魅せるクライマックスでの殺陣に心を動かされたそうだ。「高良さんが撮影前からずっと京都でお稽古をされていたことは聞いていました。ラストシーンではその場で殺陣をつけたとうかがいましたが、生で戦っている感じがとても伝わってきました。臨場感というのはこういうことなんだろうなと、仕上がった映像を観て思いました」。

多部は多十郎を愛する小料理屋の女将、おとよを気っ風良く可憐に演じた。「監督から『おとよは強い。母性愛がとにかく強い』と何度もうかがっていましたので、そこを強く意識して演じました」。

また、現場の雰囲気が驚くほど良かったと言う多部。「監督がずっと生き生きしていらして、周りのスタッフさんや役者さん含め、全員が監督のために動いている、という監督愛にあふれた現場でした。全員が自然とそうなれる、不思議な空気感がありました」。

中盤から物語が一気に動き出す。希望も大義も見失っていた多十郎が、おとよや弟のために剣を抜く。「ちゃんばらには必ずドラマがある」とキッパリ言う中島監督。「男ってアホだから、気づいたら女のために戦ったりするんだけど、そこが可愛くていいところで。その男のアホさ加減が、ある意味、ちゃんばら映画の本質だと思っています」。

鋭い眼光で刀を手にする多十郎は、圧倒的なオーラを放つ。そこはかとなく漂う色気も、中島監督のねらいどおりだ。「この時代の粋とは?」と考えながら、多十郎としての“殉愛”を体現した高良。「胸に秘めている思いをどこで出すのか。おとよや弟、大切な人のために、刀を握った時なのかと。そこは大切にしようと思っていました」。

本作で、ちゃんばら映画の醍醐味を改めて実感したという高良。「中島さんの現場を踏めて本当に幸せでした。刀を振るうというのはこういうことだったのかと、少しだけでも感じることができました。監督から直接、演出を受けたからこそ感じられた部分もあるし、それはこれからも忘れることはないです」。

多部も「私も時代劇は、幼少期に父親が観ていたものという遠い存在でしたが、本作に出演したことで身近な存在へと変わりました」と時代劇との距離感が縮まったという。

レジェンドの指導の下、映画界の未来を背負う高良健吾や多部未華子がその期待に応えた『多十郎殉愛記』。平成最後に放つ渾身のちゃんばら映画を、映画館で堪能してほしい。(Movie Walker・取材・文/山崎 伸子)