ユニリーバ(Unilever)は人工知能(AI)を、インサイトの処理からインフルエンサーの発見まで、より一層マーケティングに活かそうとしている。

ユニリーバは世界中に26のデータセンターを有し、そこではサイエンティストがAIを使ってソーシャルリスニングやCRM、そして従来的なマーケティングリサーチを含む幅広い情報源からインサイトを総合的に扱っている。ほかの広告主たちと同様にユニリーバは、投資により大衆にリーチするチャンネルから、よりパーソナライズしやすくコストが安価でローカライズも大規模にできるコミュニケーションへ移行を促進することを目論んでいる。

ユニリーバはデータベース内の構造化データを分類するために、AIと機械学習を何年も使用してきたが、非構造化データに対して同様のことができるようになったのはつい最近のことだ。非構造化データは定性的で、テキスト、音声、ソーシャルメディア、モバイルアクティビティなどのコンテンツからのインサイトを収集することが困難だ。社内または大手テック企業の1社と提携してそれを実行するために必要なアルゴリズムを開発するのではなく、ユニリーバはイギリス、中国、アメリカ、イスラエル、フィンランド、シンガポールのスタートアップと一緒に取り組んでいる。

AIが活躍する現場



ユニリーバのAIベンチャーは、人々が投稿するコンテンツのなかの複数のソースからの情報と人々がそれに対してどう反応するかを分析する。ユニリーバは、ヨーロッパ全域に向けたEUの一般データ保護規則(GDPR)戦略を、データプライバシー規制が緩い市場に対して展開することを目指しているのだという、より広い視点に立ち、その一環として、パブリックドメインですでに利用可能な情報だけを使用している。

AI搭載のインフルエンサーマーケティングプラットフォーム、ポピュラーチップス(Popular Chips)を通じて、ユニリーバはインフルエンサーの検索プロセスを迅速化している。この技術により、偽フォロワーを持つインフルエンサーたちを検出できるだけでなく、国、年齢、性別などのデモグラフィックに基づいてユニリーバと正しいインフルエンサーをペアリングするするのにも役立つ。ユニリーバは、同社のアクセラレータプログラム、ユニリーバ・ファウンドリー(Unilever Foundry)を介してこのスタートアップを発見した。

そのような技術を持つことで、ユニリーバのマーケターが見逃していたかもしれないインサイトを発見している。これに関して、もっとも顕著な例がベン&ジェリーズ(Ben & Jerry’s)ブランドのシリアル風味のアイスクリーム商品である。ユニリーバが「朝食アイスクリーム」という歌詞をフィーチャーした約50の曲があることを発見したことで、そのインスピレーションを得た。ユニリーバがアイスクリームカテゴリーの調査を委託したのと同時にそのインサイトは得られており、調査ではダンキンドーナッツ(Dunkin Donuts)といった企業がすでに朝食にアイスクリームを提供していることがわかった。ユニリーバが取り組むAIアルゴリズムのひとつがそれらの異なるデータセットをふるいにかけ、朝に合う甘いものを作り出せば売れるのではないか、ということがわかったのだ。

エグゼクティブ採用にも



2017年のフルーツ・ルートやフローズン・フレークスを含め、ベン&ジェリーズブランドがさまざまなシリアル風味商品を発売してから2年経ち、競合他社もそれに続いていると語るのは、ユニリーバでAIの利用の盛り上げ役をしているインサイト担当者、スタン・スタヌナサン氏だ。

「非構造化データからさまざまなシグナルをすべて調べ、脳の情報処理方法を確認することができるので、AIはメタファ分析の実行で我々を助けてくれている。全社的にブランドアーキテクチャ、さらに、ブランドをより良く管理する方法に取り組んでいるときに、こうしたメタファ分析を検討しはじめると良いだろう」と、スタヌナサン氏は述べた。

マーケットインサイト以外でも、マーケターを含むエグゼクティブの採用支援でAIは活用されている。同社はAI企業のパイメトリクス(Pymetrics)と提携し、このテクノロジーを使用して候補者の適性、論理、論理的思考、リスク選好度を彼らが申し込んでいる職務の内容を問わずベンチマークと照らし合わせて評価するために、この技術を使用したオンラインハブを構築した。このプロセスの第2段階は候補者へのビデオ面接を中心に展開され、その発話とボディランゲージがAIによって評価される。ユニリーバによると、候補者へのインタビューや分析に関して約7万時間が短縮されたという。

エージェンシーとの関係



ユニリーバのマーケティング全体でAIの存在感が高まっているにもかかわらず、同社が利用しているエージェンシーにAIが直接影響を与えることはない。メディアにおける人口知能批評家たちは、彼らがマーケティングにその技術を組み合わせるときに広告主たちが得るスピードと正確さは、人間の経験から得られる感情的な深さと創造性が欠如していることで相殺されていると主張している。これは、かつてメディアキャンペーンの計画にAIを使用していたフォルクスワーゲン(Volkswagen)と同様の立場だ。

「エージェンシーたちがAIに取って代わられることを容認するならば、そうなるだろう。アルゴリズムが再現できない好奇心と情熱を有するデータから新しいものを生み出すためにAIを使用することができるのであれば、エージェンシーがやれることは常に存在するだろう」と、スタヌナサン氏は述べた。

Seb Joseph(原文 / 訳:Conyac)