ゆとり世代とは、2002〜10年までの「ゆとり教育」を受けた世代のこと。ゆとり世代は「受動的」「打たれ弱い」などネガティブなイメージも強い。実態はどうなのか。彼らのモチベーションを上げるには、どうすればいいのか。

■「教えてもらっていませんから」と言われたら

今では20代の若手層は全員ゆとり世代だ。2018年には小学校入学時からゆとり教育を受けた「フルゆとり世代」も新入社員として入社。彼らは何を考え、何が原動力になるのか。プレジデント誌は有名企業の人事責任者による覆面座談会を実施し、ゆとり世代の特徴と、彼らへの教育について話を聞いた。

●対話した後に「だから君にやらせるんだ」(広告業人事部長)
●「そんなことは自分で考えろ」は禁句(外資系製薬業 人材教育担当部長)
●「将来こういうことに役立つよ」と説明(小売業人事部長)
●「そんなことは自分で勉強しろ」はNG(サービス業人事担当役員)

――ゆとり世代はどんな性格・特徴を持っていますか。

【広告】一言で言うと「いい子ちゃん」だ。うちはクリエイターも多いが、俺が俺がというガツガツタイプは少なく、さりとて温和すぎるわけでもない。要するに5段階評価で言えばオール5ではなく、オール4。そつがなく“出る杭タイプ”が少ない。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/itakayuki)

【製薬】そう。そつがない。昔と違い、没個性タイプが多く、よくも悪くも集団の中でカラーがきれいにまとまっている感じだ。入社後の新入社員研修でも昔は「どうして人事はこんな人を採用したのか、ダメじゃないか」という人がいたが、そういうのは少ないね。

【小売】よく言えば優等生なんだが、失敗を怖がる点では共通しているよね。昔は若いうちは失敗して成長するのだという懐の深い企業文化があった。でも今は中学・高校時代から教育現場でも失敗はよくないという雰囲気になっている。とにかく失敗したくないと思っている。

【サービス】それでいて教えてもらっていないことを勝手にやって失敗することもある。しかし、叱られることを極端に嫌がる。「教えてもらっていませんから」と平気で言う。僕らの時代はそんなことを言えば先輩社員から「ふざけんじゃないよ、おまえうまくやれよ、わからなかったらちゃんと聞きに来いよ」と叱られたものだ。

【製薬】昔の人に比べてストレス耐性が低くなっている。失敗すると誰でも落ち込むが、回復するのに時間がかかり、回復する力も相対的に弱いね。やはり失敗はよくないという教育を受けてきているからだろう。

【広告】「失敗したのは君の責任だよね」と言っても認めたがらない。すぐに反発し、言い訳をしてくる。言い訳されるのが一番嫌いだから上司もカチンとくる。こいつと仕事をしたいと思わなくなる。そうすると職場で浮いてきて、自分は今の会社に向いていないと思って3年も経たずに辞めてしまう。よくあるパターンだね。

【小売】そう。相手の懐に飛び込むのが下手だよね。へりくだって教えてくださいと言えない。それでいて教えてくれないことに不満を抱く。でもいい子だからそんなに反発もしない。でも失敗やトラブルが続いて叱ると、「僕はそんなことは聞いていませんし、教えてもらっていません」「そんな指導を受けた覚えはない」と言って牙をむき出してくる。

【製薬】でも彼らの言い分も事実だったりする。先輩や上司も昔に比べて忙しいし、目の前の雑務に追われている先輩を見て声をかけづらい。「教えてもらっていません」と言ってきたら「確かにそうだよな」と聞いてあげるべきなんだろうが、「おまえ、何言っているんだ、ふざけたことを言うな」と怒ってしまうとパワハラ騒ぎになりかねない。

■真面目に従順に従うが、相手は激怒

――飲み会など職場の人間関係はどうですか。

【広告】人間関係は表面的には割といい。若い人は最近飲みに行かなくなったとか言うけど、飲みに行く理由が明確だと彼らもつきあってくれる。予定を聞き、その日は空けておいてとか、今日はプロジェクトの打ち上げだからという大義名分があればつきあう。でも、いきなり「今日、つきあえよ」と言うと「今日は予定があります」と、スパッと断られる(笑)。

【小売】僕らの時代とは感覚が違う。僕らは彼女と映画を見に行く約束をしていても、上司に誘われたら、彼女にごめんと謝ってつきあったものだ。どうしても無理な場合もあるが、3回のうち2回ぐらいは上司につきあったかな。でも今は「すみません、今日は彼女と約束していますから」と平気で言う。正直で合理的だと思うけどね。

【サービス】突然つきあえなんて言う上司のほうこそ非常識だ、と言いたいんだろうね。

――実際に職場でどんなトラブルが発生していますか。

【サービス】じつは経営幹部が集まって重要な会議をしていたんだが、ゆとりに「会議中は誰も中にいれるな、電話もつなぐな」と言っておいた。そうしたら社長が緊急の要件で会議室にいる役員を呼べと電話してきたが、ゆとりは「今、会議中です」と断ったらしい(笑)。当然、社長は、俺は社長なのにどうして電話をつながないんだと怒ったらしい。

後で聞いた役員が、ゆとりに「どうして社長の電話をつながなかったんだ」と叱った。それに対してゆとりは「誰にもつなぐなと言っていましたよね」と言う。それを聞いて「バカヤロー、社長は違うだろ」と言うと「そんなことは聞いていません。社長の場合だけはつなげ、とは言っていませんでしたよ」と切り返したらしい(笑)。

【小売】普通は、社長から連絡が入っています、というメモぐらいは入れるけどね。でもそんなことも言っておかないといけないんだろうね。

【広告】臨機応変に対応ができない。だけど、命令にちゃんと従っているのは間違いない。もし、ゆとりが「誰も入れるな、電話もつなぐなというあなたの命令に従順に従いました。どうしてあなたは怒るんですか」と言ってきたら、こっちも何も言えない。こんな話はいくらでもあるよ。

【サービス】顧客からのクレーム対応の判断を彼らにさせるかどうかは、悩むところだ。原因がはっきりせず、会社として非があるとわかって正式に謝罪する場合もあるが、ケースによっては、悪くないと思ってもまずは謝りに行けと指示する場合もある。これをゆとりに判断させるのは非常に難しい。

【製薬】そう。それで困ったケースもあった。若い社員が得意先の医師とトラブルを起こし、揉めたことがあった。本来ならすぐに上司に報告すべきだが、本人は伝えていなかった。そのうち医師が怒りだして問題が大きくなって初めて上司が知ることになった。昔ならオフィスに戻ると上司がいて「今日はどうだった」と聞いたものだが、今は上司が席に座っていることも珍しいのでそんな場面も少ない。

【小売】ゆとりにしてみれば、相手がどうして怒っているか理解できなかったんだよ。上司に隠そうという意図はなく、おそらく真面目だからちゃんと報告したいと思っていた。相手がなぜ怒っているのかという理由まで理解したうえで「こういう理由で怒られました」と説明したいだけなんじゃないか。

でも、そこでタイムラグが発生する。昔なら○○さんを怒らしてしまいましたと、オフィスに戻ったら上司に言う。「どうして怒られたんだ」と言われ、「わかりませんが、とにかく怒られました」と。「バカヤロー、じゃあ明日の朝一番に俺も一緒に行くから」という感じになったものだけどね。

【製薬】そう。医師が怒ったから、自分が失敗したということはもちろんわかっている。でも、なぜ怒ったのかを確認し、その理由や原因まで確認してからでないと、報告してはいけないと思っているんだよ。でも、怒った医師は翌日に上司が謝罪しに来るだろうと思っている。だが来ない。1週間後には、もう怒り心頭に発している(笑)。

■連鎖反応で一斉に退職する

――上司や先輩とのトラブルで突然出社しなくなったケースはありますか。

【小売】上司に怒られて会社に突然出てこなくなるやつというのは、世代に関係なくいるよ。ただ昔と違って、ゆとりはあまり感情を表に出さないから、なぜかいつの間にか辞めてしまうという印象がある。

【広告】そう感じるのは、転職の仕方が以前と違うからだよ。今は少しでも不満を感じるとスマホで転職サイトにすぐ登録する。登録すると随時転職先を紹介するスカウト機能がある。それが心地よくて、会社に不満があるやつは大体登録しているが、今の会社の給与もある程度いいから急には辞めようとしない。仕事をしながら転職活動が楽にできる。そしてある日、突然好条件の会社からオファーがくると、ずる休みして面接に行き、採用が決まってしまう。突然、退職届を出された上司は「えっ、なぜ?」となる。

【サービス】昔なら不満が高まると、こんな会社は辞めてやるという気持ちが顔に出るし、転職活動も簡単ではないから、見ていてこいつは辞めそうだなと多少はわかった。転職先から電話がかかってくるとそわそわするし。でも今では転職サイトを使えば、メールのやりとりだけで面接日も簡単に設定できる。だからこちらが気づかないうちにパッと辞めてしまう。

【製薬】退職の引き金もネットの影響を受けている。うちの業界に入社する新人は薬学系など同じ大学の出身者が多いし、大学の仲間も同業他社に就職していて、常にSNSで交流している。同じ会社に入った同期とも、SNSを使って職場の情報を共有している。

たとえば、うちの職場にはこんな上司や先輩がいるとか、あっという間に横のつながりで情報が共有される。先輩・上司が相対比較され、「あいつの上司は最悪だな」「俺の上司はまだましなほうか」などと思い、辞めようと思っていた新人が思いとどまる場合もある。逆に「この会社にはまともな上司はいないな」となるとモチベーションが下がり、最悪辞めてしまう。

【小売】その中の1人が「俺、もう我慢できないから辞める」と言いだせば「そうだよな、俺も辞めようかな」と伝播する。実際に何人かが一斉に退職したことがあったよ。

――ゆとり世代と先輩・上司のコミュニケーションギャップを埋めるために何かやっていますか?

【広告】何か対策を打たなければいけないというのはわかっている。ゆとりの感覚では、会社の教育や指揮命令系統などがシステマチックになっていない会社はダメだと思っている。たとえば、上司が「背中を見て学べ」的なことを言うのは、そもそもマニュアルがなく、教える力がないからダメなことだと考える。あるゆとりの社員からは、「教えるシステムがないから、僕らが教えてくださいと言いに行かないといけないのですか?」「自然に覚えるなんてありえません。会社の教育システムがおかしいんでしょ」と言われたことがある。僕が「君の言う通りだよ、でも君はそこまではっきりと言うの」と、返すしかなかった(笑)。

【サービス】じつは部・課長を対象に若い社員にどんな研修をしてほしいのかというニーズ調査をしたことがある。その結果に思わず笑ってしまったが、最もニーズが多かったのが「空気を読める研修」だ(笑)。

つまり、上の人間が機嫌が悪そうだったら話しかけるなとか、相手の気持ちを察しろ、ということ。ある部長なんか「鳥の目、虫の目、魚の目という言葉がある。鳥の目、虫の目は、俯瞰し、複眼で見ること。魚の目は気配を感じることだが、ゆとりは気配を感じられないんだ」と嘆いていた。

【広告】人事としては最初の配属先の上司との相性には気を遣っている。適性検査によって何事も細かい性格なのか、ストレスに弱いか、新人がどんなタイプなのか、ある程度わかる。配属先の上司のタイプを見て、この人だと部下との間でトラブルを起こす確率は少なくなるだろうと考えて配置をする。

たとえば、自信家で無理難題を言ってくるような上司のところにストレス耐性が低い新人を入れると、すぐに辞めるリスクが高まるからね。中にはどんな新人にもオールラウンドに対応できる管理職もいる。人事の間では“金八先生”と呼ばれている。困ったときは金八先生のところに送り込もうと。社内に金八課長、金八部長がいるんだ(笑)。その人たちは懐が深いし、相当危ない新人でもなんとかなる。

■モチベーションを上げる言葉、下げる言葉

――皆さんが実践しているゆとり世代の対応術を教えてください。

【製薬】僕らの世代は上司とはあ・うんの呼吸で教育され、育ってきた。しかし、今の若い人は、あ・うんよりも丁寧に、なぜやる必要があるのか理由まで教えることだ。自分なりに腹落ちしたら一生懸命に動く。逆に腹落ちするまで恐くて動けないから「どうしてやらないといけないのですか」と聞いてくる。それに対して「そんなことは自分で考えろ」と言うのは禁句。面倒くさくても、説明してあげるべきだろう。

【サービス】そう。ゆとり世代は勉強しているし、僕らと違って学習意欲は数段上の力を持っていると思う。筋道を立ててやるべきことを明確に説明すれば、一生懸命に仕事をやる。でも教えなかったり、「そんなことは自分で勉強しろ」と言うとモチベーションは下がる。理不尽さを抱かせないようにすることが大事だね。

【小売】大事なのはゴール設定をしてあげること。それから何のためにこれをやるのかという目的を明確に示すと、すごく頑張る。これをしっかりと言わないとモチベーションは下がるし、ミスをしたときに間違いなく上司のせいだと思ってしまう。だから僕は、なぜやらないといけないのか、その背景や目的について詳しく説明するようにしている。たとえ理不尽な仕事でもやっておくと、将来こういうことに役立つことがあるよとか、面倒くさいけど、頑張って話すようにしている。

【広告】上司が30%話し、部下に70%話をさせるのが対話の基本だね。相手の価値観や考え方をじっくり聞いたうえで、「だから君にやらせるんだ」「今はムダだと思っても、将来きっと役に立つよ」とか、仕事の意味を丁寧に説明してやると前向きに仕事をしてくれる。

【小売】だからといって、それをやっても元気にやるわけでもない(笑)。こちらが丁寧に説明し、本人によかれと思ってアドバイスしても「はい、がんばります!」とはならないところが彼らの特徴でもある。なぜなら、そう言ってくれるのが当たり前だと思っているから。逆に言っているほうのモチベーションが下がる(笑)。

■▼ゆとり世代が分析する「ゆとり」の特徴第1位は「打たれ弱い」

■▼企業名より自身の成長を重視するゆとり世代

(人事ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)