複々線化の完成でピーク時の列車本数が3割増えた小田急小田原線(撮影:大澤誠)

混雑が少なく、スピードが速く、運行本数も多い“最強”の通勤電車はどの路線か。東京圏を走る主要32路線について、朝ラッシュのピーク時間帯1時間における運行本数、輸送力、混雑率改善度など5つの指標で分析を行った。

この32路線は、国土交通省が混雑率データで定義する東京圏の主要31路線に山手線を加えたものである。湘南新宿ラインや東京メトロ副都心線など、利用者が多くても比較的最近になって開業した路線は含まれていない。また、ピーク時間帯は東海道線なら7時39分から8時39分、東京メトロ丸ノ内線なら8時00分から9時00分と各路線によって異なる。

運行本数や輸送力、混雑率は、国交省が混雑率データで「最混雑区間」としている駅間の数値で比較した。

本数トップは東武伊勢崎線

1) 運行本数

待たずに乗れる――。「強い路線」の特徴として、運行本数が多いかどうかがまず挙げられる。朝ラッシュ時間帯の運行本数トップは東武伊勢崎線の41本。北千住―北越谷間が上下2本ずつの複々線区間であり、上下1本ずつの複線の線区よりも多くの列車を走らせることができる。


2位の小田急小田原線も複々線化を踏まえた2018年3月のダイヤ改正によりピーク時の運行本数が3割増加した。3位は東京メトロ丸ノ内線の31本。ほぼ、2分に1本の割合で走っていることになる。

4位は東京メトロ銀座線と中央線快速の30本。複線区間では2分間隔が限界のようだ。

逆に最も少ないのは横須賀線の10本。横須賀線は湘南新宿ラインの列車も走るため、運行本数増は難しそうだ。JR東日本によると、長い編成の貨物列車が走るため信号間隔が他路線よりも長いことも、本数を増やせない理由の一つ。ワースト2位は都営新宿線の17本、同3位は京成本線の18本だ。

2) 輸送力

運行本数が多くても、その列車が何両編成かによって運べる乗客の数は変わってくる。例えば、運行本数3位の丸ノ内線、4位の銀座線はわずか6両編成なので、輸送力ランキングはそれぞれ26位、30位と下位に甘んじる。


輸送力1位は小田急小田原線で1時間当たり4万9416人。2位は東武伊勢崎線で4万5314人、3位は中央線快速で4万4400人である。

これらの列車は運行本数でもそれぞれ2位、1位、4位で、運行本数の多さが輸送力の大きさにつながっているといえる。

輸送力が最も少ないのは京成本線で1万5246人。1995年度の輸送力は1万8796人だったので、そこから2割近く減少した。

速さはJRが優位

3) 運行速度

朝ラッシュ時間帯における郊外の主要駅から都心の拠点駅(西武池袋線は小手指―池袋間、東急東横線は横浜―渋谷間など)までの最速達列車の到達時分を基に編集部で算出した。これは表定速度と呼ばれている。到達時分は今年2月時点の時刻表に基づき、2016年に国交省がまとめた資料(「速達性の向上の現状と今後の取組のあり方について」)に記載の表定速度と同じ区間で算出した。


1位は東海道線で時速68.2km。また、2位は常磐線快速の時速60.2km、3位が横須賀線の時速56.8kmと、1〜3位をJR勢が占めた。これらの路線はとくに郊外において駅間が長く、スピードが出しやすいという側面はあるだろう。

一方で、これらの列車の運行本数は決して多くない。理屈のうえでは列車のスピードが速ければその分だけたくさんの列車を走らせられそうなものだが、安全面を考慮するとそうもいかないということか。

4位の東武伊勢崎線・時速54.6km、8位の小田急小田原線・時速49.9kmはどちらも複々線でありダイヤに余裕がある。そのため、表定速度の速さと運行本数増を同時に実現している。

運行速度のワースト1位は東京メトロ日比谷線の時速24.9km。地下鉄は駅間が短く、表定速度が遅くなりがち。ワースト10に8路線が入っている。

4) 混雑率

これまでに挙げた3つの指標は少しでもたくさんの乗客を運ぶための、鉄道会社の経営努力である。輸送力を高めた結果、混雑率はどのようになっただろうか。


2017年度の最混雑区間における混雑率を低い順に並べると、1位中央線各駅停車97%、2位京成本線127%、3位都営浅草線129%、4位東武東上線137%、5位京成押上線143%という結果になった。混雑率と輸送力の相関関係はさほどなさそうだ。

一方で混雑率ワースト1位は東京メトロ東西線199%、同2位総武線各駅停車197%、同3位横須賀線196%、同4位東海道線187%、同5位東急田園都市線185%、同6位中央線快速184%という結果になった。東急田園都市線と中央線快速は輸送力の高さでは上位に位置する。それでもこれだけ混雑しているということは、鉄道会社の経営努力を上回る利用者増が続いているということだ。

国土交通省は東京圏における個別路線の混雑率を180%以下にすることを目指す。混雑率180%とは、国交省の定義によれば「折りたためば新聞を何とか読める程度の混雑」だという。だが、混雑ピーク時の田園都市線や東海道線は新聞・雑誌どころか、スマホを扱うことすら難しい。体感的には「体が斜めになって身動きができず、手も動かせない」とされる混雑率250%に近いのではないか。

山手線の混雑は大幅改善

5) 混雑率改善度

2017年度と2007年度の最混雑区間における混雑率を比較した。最も改善したのは山手線で、2007年の205%から2017年度は153%へ減少。52ポイントの改善となった。

山手線が最も混雑するのは外回りの上野―御徒町間。東京・品川方面に向かう常磐線などの利用者が上野で山手線に乗り換えるためだったが、2015年に上野東京ラインが開業したことで上野から山手線に乗り込む客が大きく減ったことが混雑率改善の理由だ。


2位は小田急小田原線の41ポイント。複々線化を踏まえた2018年3月のダイヤ改正によりピーク時の運行本数が3割増加したことで、1本当たりの乗車人数が大きく減った。3位は京浜東北線の36ポイント。山手線と同じく上野東京ライン開業で上野―御徒町間の混雑率が多く減った。4位は京成本線の24ポイント。特段の混雑緩和策が取られたのではなく、利用者が少しずつ減少してきたことによるものだ。

混雑率が悪化した路線もある。ワースト1位は横須賀線で、182%から196%へと、14ポイント悪化した。2007〜2017年度に運行本数を増やして混雑解消を狙ったが、それ以上に利用者が増えている。武蔵小杉への人口流入が混雑増の大きな理由だ。

ワースト2位は中央線各駅停車と東京メトロ丸ノ内線で6ポイントの悪化。もっとも、中央線各駅停車はそもそも混雑率が高い路線ではないので、あまり気にする必要はないだろう。丸ノ内線は乗客数はわずかに増えているにもかかわらず、ピーク時間帯の運行本数が1本減っていることが混雑悪化の理由だ。

3つの指標でトップ3入りしたのは…

以上の5つの指標のうち、トップ3に顔を出している路線は、小田急小田原線が運行本数2位、輸送力1位、混雑率改善度2位と3つの指標で上位に位置する。次いで東武伊勢崎線が運行本数1位、輸送力2位と2つの指標を占めた。残りの路線は5指標のどれか1つに顔を出しているにすぎず、路線ごとに一長一短があるといえる。もっとも、トップ5まで広げれば、違う結果になるかもしれない。

なお、『週刊東洋経済』2月16日号「最強の通勤電車」では、これら5つの指標に遅れの少なさ、通勤ライナーの本数を加えた7指標を使って、それぞれの順位ごとに点数を加えて総合ランキングを算出した。そちらもご一読いただければ幸いだ。