アルバイト店員による「不適切動画」で大きなダメージを受けたくら寿司。3月1日にはハンバーガー販売を開始し起死回生をかけますが客離れに歯止めがかからず、今期の減収減益が確実視されています。なぜ同社はここまで追い詰められてしまったのでしょうか。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんが、くら寿司凋落の原因を、現地に直接足を運んで取材を重ねて分析しています。

ハンバーガーに消費者がNO。空回りの「くら寿司」、今期の減収減益確実か

「無添くら寿司」チェーンを展開する、くらコーポレーションの売上が苦戦している。

3月には、1日に回転寿司業界初となるハンバーガーの発売、18日に大阪の観光名所・通天閣の目の前に新世界通天閣店をオープンと、話題性十分の攻めの経営を行った。にもかかわらず、既存店売上高は前年同月比5.3%減、全店売上高も前年同月比1.4%減、となっており、パッとしなかった。

2018年度(18年11月〜19年10月)の開店から14ヶ月を経過した月別既存店売上高推移を見ていると、全ての月で前年を下回っている。

全店売上高も、昨年12月に前年同月を3.5%上回った以外は、どの月も前年を下回っており、このまま行けば今期は減収減益の結果に終わる。なお、国内店舗数はこの5ヶ月間で424店から430店まで6店舗増加している。店が増えているにもかかわらず、売上が下がっており、集客力が明らかに落ちている。

確かに「くら寿司」の元アルバイト店員が、2月に公開したバイト炎上動画の影響もあるだろう。元アルバイト店員は何を思ったのか、まな板に載った寿司ネタにさばく前の生魚の切り身をゴミ箱にいきなり投げ込み、そこから取り出してまな板に再度載せ直し、包丁を使って寿司ネタにスライス。シャリと合わせて寿司に仕上げ、回転レーンに流したのである。顧客が食べてしまった可能性が高いのではないかと、思わせる内容だった。同種の他社のバカッター類に比べても、不潔感、不快感が突出し、たいへんなイメージダウンをもたらした。

けれども、同社は当該アルバイト店員を解雇するだけでなく、裁判も辞さない厳しい態度で対処しており、世間も同種の事件が起こらないようにする抑止効果に期待し、むしろ好意的に見ているのではないだろうか。

それ以前から売上が下降線をたどっていたのも事実で、バイト炎上動画のみに不振の原因を求めるのも違っている。ちなみに、くらコーポレーションの2018年10月期(17年度)の連結売上高は1,325億円(前年同期比7.9%増)、経常利益76億6,000万円(同6.1%増)。その前の17年10月期(16年度)は連結売上高1,227億7,000万円(前年同期比8.0%増)、経常利益(同7.0%増)であった。これまで順調だっただけに、今期に入ってからの不振が際立っている。どうして、ファミリー層に高い人気を誇り、成長を続けてきた「くら寿司」は、変調をきたしてしまったのだろうか。

「くら寿司」と言えば、回転寿司業界に先駆けて、サイドメニューに注力し、いわゆるファミレス化の最先端を走ってきた。

食のニーズが多様化し、家族といえども一緒に食事に行って、注文しているメニューがバラバラという時代に、寿司オンリーの店では限界にぶち当たる。また、魚価の高騰傾向から、単価を高く取れるサイドメニューでしっかり売上と利益を確保することで、100円寿司が維持できる。

回転寿司の成長を妨げていた、寿司を食べたくない人をいかに来させるか、100円の価格をいかに維持するか。この2つの課題に果敢にチャレンジしたのが「くら寿司」のサイドメニュー強化で、「スシロー」、「はま寿司」、「かっぱ寿司」などといったチェーンも続いた。

しかしその結果として、目を引くサイドメニューばかりに世間の注目が集まってしまい、その弊害として、特に「くら寿司」は寿司のレベルアップを決して疎かにしているわけではないのだが、近年はそう見られがちな傾向が強くなっている。実際「くら寿司」の近年放映された記憶に残るTVのCMは、うな丼、牛丼、豚丼、カレー、かき氷、スパらってぃ(カルボナーラ風ラーメン)、ハンバーガーなど、寿司とは関係ないものばかりである。それぞれの商品は確かに面白く、寿司屋がこんなメニューも出すのかと意外性があり、カレー用のライスにシャリを使うなど、「くら寿司」ならではの工夫が凝らされている。

だからこそ、次々とヒットして「くら寿司」の売り上げを押し上げてきたのだが、昨夏に出して、発売2カ月で100万杯を突破したわた雪のような食感が特徴のかき氷「夢のふわ雪」シリーズ以来、目ぼしいサイドメニューのヒットがなかった。そろそろ、弾切れの感がある。

昨年7月には、創業以来41年間守ってきたシャリに使う酢を、3種の黒酢をブレンドした「健康黒酢」に変更。寿司の大きな改良で、シャリの旨味が増したはずなのだが、集客上あまり効果があったようには見えない。

ハンバーガーに突きつけられた「ノー」

そうした閉塞感を打開するべく投入されたハンバーガーで、V字回復どころか、消費者に「ノー」を突きつけられた状況だ。

新発売された「KURA BURGER(くらバーガー)」は、米粉や黒酢を混ぜたふんわりとした「シャリバンズ」にパテを挟む趣向の商品で、250円(税抜)。ミートとフィッシュの2種類があり、特にフィッシュはフライにするのではなく、寿司に使わないこれまで捨てていた部位を再利用し、自社工場でミンチにしてパテに加工した力作である。開発に5年の歳月を費やしたという。

くらバーガー フィッシュ(左)、ミート(右)

レタスのほか、タマネギの天ぷらを挟んでいるのも大きな特徴で、寿司屋だからできた和の味を強調している。「くら寿司」の基本の考え方として、食品添加物の無添加が貫かれ、食の安全・安心面も強調。

しかも、若者が集まる渋谷に、2月25日から3月3日まで、「くらバーガー」専門のショップをオープン。ガリとワサビを合わせる食べ方や、米麹などでつくる「くら寿司」で人気の飲料「シャリコーラ」も揃えて、新しいハンバーガーの誕生をアピールした。

「くら寿司」がサイドメニューのPRのために、短期間ながらも専門ショップを出店するのは初めて。回転寿司業界でも珍しく、「スシロー」が昨年7月、原宿にスイーツ専門ショップを1週間の期間限定で出店した例があるのみだ。その後、「スシロー」はスイーツを本格的に取り組む店としての認知力が上がり、特にランチとディナーの間の顧客が減る隙間時間の集客が、高校生、大学生のとりわけ女子を中心に上がっている。

「くら寿司」がハンバーガーに取り組む理由も同様に、アイドルタイムの間食需要を狙ったものだろう。渋谷に専門店を出店したことから、魚を敬遠して寿司を普段食べない、若い人に特に食べてもらいたいといった提案だ。

マクドナルドは周知のように100円から商品があるが、ビッグマックは390円。2番手以降の主たるハンバーガーショップの主力商品の値段は、モスバーガー、フレッシュネスバーガー、バーガーキング、ウェンディーズなど、いずれも300円台後半から400円台。シャイクシャックのような素材にこだわったものには、600円近くするものもある。

「くら寿司」の値段設定は、マクドナルドの100円バーガーと、ビッグマックやモスバーガーの中間を狙ったもので、180円からあるロッテリアよりは高い。こうしたハンバーガー専門店との比較から、かなり強気の価格設定と言わなければならない。ハンバーガーを生業としているロッテリアのメイン商品より100円近く高く、100円マックの2.5倍の値段である。

「スシロー」の有名店とコラボした、パンケーキやアップルパイは280円(税抜)が基本で、コラボ先のベリー・ファンシー、グラニースミスなどスイーツ専門店の商品より3割くらいは安い。東京などの有名店に行けない地方の人に、その味のエッセンスを知ってもらうといった狙いも含んでいて、スイーツ専門店の販売促進の側面を持つ。スイーツ専門店との共存共栄が考え方の基本にある。

消費者も、その趣旨を理解して食べに行っている。「スシロー」は専門のパティシエを入社させて真剣に取り組んでおり、スイーツを学ぶ姿勢の本気度が十分に伝わってくる内容。パンケーキの初回の発売では、品切れが続出して、一時発売中止に追い込まれたほどだ。

力不足感が否めぬハンバーガーとタッチパネルの失敗

一方で、「くら寿司」は印象としてハンバーガー業界に真っ向から挑んでおり、「寿司屋にしてはよくやっている」という退路を断っているのは勇ましいが、それだけに「スシロー」のスイーツ以上に、消費者からクオリティを厳しくチェックされている。

実際に食べた人から聞こえてくる声は、250円を取るのなら相当にジューシーな肉のパテを期待したが、とにかくパテが薄いというものだ。ミートはトマトケチャップ、フィッシュはテリヤキソースの味が濃く、バンズも厚いので、肉の味があまりしない。肉をケチってソースの味に逃げているイメージを持たれてしまっている。

これなら、あと100円多く出して、ハンバーガー専門店に行きたいと顧客は思うだろう。なかなかリピートまでは厳しい。それかパテの薄さをがまんするなら、100円台の安価な専門店の商品を利用するか、どちらかだ。

もう少し肉を厚くするか、値段を150円くらいにまで下げなければ、ハンバーガーファンのがっかり感を払拭することはできないだろう。つまり、専門店のハンバーガーの満足感にとても及ばず、寿司と並ぶ主力とするには、現状では力不足である。

また、実際に「くら寿司」の店に行ってタッチパネルを見ると、トップページの画面に映し出されるのは、ハンバーガーなどのサイドメニューだ。寿司が本格的に出てくるのは、めくってめくって、やっと7ページ目あたりからである。

タッチパネルの1ページ目。メインであるはずの、にぎり寿司がない

回転レーンには主に寿司が流れてはいるが、タッチパネルで寿司が注文しにくくて仕方ない。こんなことは、他の回転寿司チェーンでまず見られない。寿司がサイドメニューに比べて疎かになっていると、思う人は多いはずだ。

1ページ目に表示されるのはミートとフィッシュのハンバーガーで、どうみてもこれがメイン。他に、もりもりポテト(フライドポテト)、くら出汁、ちびころチキン(から揚げ)、竹姫寿司5種といったところだ。竹姫寿司は寿司の一種ではあるが、竹筒状の容器に入っており、インスタ映えがすると売り出している「くら寿司」の開発商品。一般顧客が一番期待している、握り寿司ではない。

2ページ目には、寿司のキャンペーン商品4品が紹介されているのは良いが、その他の5品はうどんである。3ページ目は、ラーメン、担々麺、スパらってぃといった麺類に、デミグラスハンバーグ。4ページ目は、牛丼、天丼、うな丼、シャリカレーとご飯物。5ページ目は、味噌汁、茶碗蒸しに、あぶり寿司、寒天寿司、手巻きえび天巻など変わり寿司が表示される。6ページ目は、天ぷら、オニオンリングなど揚げ物。

そして、7ページ目になって、はじめて熟成まぐろなど、メインであるはずの握り寿司で埋め尽くされるページになる。握り寿司のページは10ページ目まで続くが、11ページ目は握り寿司でも肉寿司系と一部軍艦となる。12ページ目は軍艦、巻物、いなり。

13ページ目は、再びサイドメニューに戻って、シャリコーラ、コーヒーなど飲み物。14ページ目は、ジュース類とチーズケーキなどのスイーツ。15ページ目は、かき氷などスイーツ。16ページ目も、アイスクリームなどスイーツが大半で、あとはサラダ。16、17ページ目が空欄で、18ページ目と19ページ目には付け足しのように、寿司の推しメニューが並べられている。

店に行って、実際に触ってみればわかるが、延々とサイドメニューを見せられ、やっと7ページ目に寿司屋のメイン商品であるはずのまぐろがあるという、タッチパネルの構成を見れば、誰しもが「くら寿司」は果たして寿司屋なのかと疑問を抱くだろう。

タッチパネルを通して見て、これぞといった注力している寿司の商品が余りに少なく貧弱に見える。競合チェーンに明らかに見劣りしているのだ。

ズレ続ける事業の力点

「くら寿司」は、大阪府貝塚市に天然魚のみを扱う鮮魚店「くら天然魚市場」を2016年にオープンしており、実は天然魚に非常に熱心な回転寿司チェーンである。アピールすべき商品は、いくらでもある。

くら天然魚市場(大阪府貝塚市)。くら寿司を併設、その日収穫した天然魚を販売

今回のフィッシュバーガーでも、天然魚のすり身が使われているが、テリヤキソースの味が強すぎて、それを使用する意義が伝わっていないのではないか。とても残念だ。

「くら天然魚市場」は「くら寿司」に併設されているが、「くら寿司」の魚の目利きに優れたバイヤーが選んだ魚が漁場直送、中間流通を通さない鮮度の高さを保って安価で売られているので、地域のファミリーに人気が高い。むしろ「くら寿司」は、サイドメニューに過度に入れ込むより、「くら天然魚市場」を全国の要所に配置したほうが、ブランド力が上がり、寿司の売上も上がるのではないだろうか。事業の力点が、どんどんズレてきている。

ハンバーガーでは「くら寿司」は救えない。サイドメニューで切り崩せるほどハンバーガー業界は脆弱ではないのだ。寿司とネタである魚をもう一度しっかり売ることから、バイトテロ問題を克服する再建を始めてほしいものだ。

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