平成を通して非正規女子のクビ切りは繰り返された

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 格差社会と呼ばれて久しい。そのしわ寄せをもろに受けているのが、バブル崩壊後の就職超氷河期に社会に放り出されたロスト・ジェネレーション、いわゆる『ロスジェネ世代』だ。

 非正規雇用で働く人たちの実態をよく知る作家・雨宮処凛(あまみやかりん)さんは、ロスジェネ世代が向き合ってきた不毛な競争を「10人中、6人しか座れないイス取りゲームをやっている状態」と、たとえる。

 決して行き渡らないイスを目指すよう求められ、あぶれれば、「自己責任」と切り捨てられる。社会人生活のスタートがフリーターだったという雨宮さん自身、「すべてが不安定」なロスジェネ世代の当事者でもある。

どんなに頑張っても報われない

 平成の初め、働くことは、イコール正社員になることだった。

「まだ当時は、普通に働いたら普通に報われた時代。いまより会社は社員を大事にしていたし、1人当たりの仕事量も多くなかった。結婚したかったら結婚できるし、家も買えるし、子どもに教育を受けさせられる社会だったと思うんです。ところがいま、どんなに頑張っても非正規は低賃金で、結婚も持ち家もかなえられない」

 それから30年の歳月を経て、令和に改元されようとしているいま、普通の暮らしには手が届かない。

「例えば、正社員でなければクレジットカードが作れなかったり、ローンが組めず、入居差別にあったりする。実際に断られたという非正規が周りに多い。

 私自身、フリーの物書きですが、保証人を頼んだ父が高齢であることを理由に、入居審査で落とされてしまいました。フリーター時代に比べて作家として著作があるいまのほうが、社会的信用をなくしている(苦笑)」

 とりわけ女性を取り巻く現実は厳しい。非正規雇用で働く人のうち、女性が占める割合は約7割と圧倒的に多い。国税庁の調査(平成29年)によれば、年間平均給与は151万円。女性活躍を叫ぶより前に「人並みに、人間らしく暮らせる制度を整えるほうが先なのに、なかなか声が届かない」と雨宮さんは嘆く。

「頑張って働いてきて、'08年にリーマン・ショックがあり、30歳まではとにかく仕事にしがみついた。そして気がついたら35歳を越えて40歳も間近というアラフォー女子は多い。

 結婚とか出産とか、どこで考えろというのか。セクハラ、パワハラでメンタルを病んで、立ち直れない人も少なくない。平成元年の流行語大賞にセクハラがノミネートされて、去年は#Me Tooだったけれど、30年かけて何も進化していません」

 荒波と逆風の途切れなかった平成に、ロスジェネの非正規女性は道を失い続けた。

「先日、(社会学者の)貴戸理恵さんが『現代思想』('19年2月号)に、こんなことを書いていたんです。

 いちばん働きたかったときに働くことから遠ざけられて、いちばん結婚したかったときに異性とつがいになるにはあまりにも傷つき疲れ果てていて、いちばん出産に適していたときに妊娠したら生活が破綻すると怯えた、それがロスジェネだ、と─。まさにそのとおりだな、と思いましたね」

先行き不安でも生き延びるためには

 上の世代に押しつけられたのは「どうせいつか結婚するんだから、女は補助的な仕事でいい、非正規でいい」(雨宮さん)という価値観。これが社会に根を張り、家庭でも幅をきかせていると話す。そのため、都会で暮らす娘に、介護要員としてUターンを促す親たちが後を絶たない。

「やっぱり介護の問題は大きい。時間もお金もとられるし、介護離職だけはしないように、というのが非正規女子の間でかけ声になっています。そもそも家の中で女性が担ってきた仕事って、賃金が安いですよね。介護もそうだし、保育もそう。これらの収入が(全産業平均に比べて月額)10万円くらい低いことは、“しょせん、女の仕事”という世間の考えを象徴している」

 平成から令和にかわっても先行きは不透明なまま。それでも、生き延びなければならない。

「役所にただ行くだけでは何も教えてくれないし、この制度を申請します、と言わないとアドバイスもしてくれない場合が多々ある。比較的、元気なうちに生きられるように手を打つことです。

 まず困ったときに頼れる支援団体、失業保険とか生活保護に詳しい法律家や相談先を知っておくこと。それから個人年金に入るとか、老後はシェアハウスで助け合って生きるとか。死なない方法がひととおりわかっていると、かなりラクかな」

 賃金などの格差解消はもちろんだが、住宅ローンが組めず、クレジットカードも作れないといった雇用形態によって生じる社会的不利をなくすことも必要だろう。

「死なない方法って、つまり生存権で、本来は国が保障すること。それを個々人でやらないといけない。厳しい時代に生きているんだと思います」