定年後も働きたいと思うなら、「定年前後」の過ごし方が大切になってくる(写真:shimi/PIXTA)

「人生100年時代」といわれる昨今、「60歳で仕事は引退」という常識は消えつつある一方で、いまだ60歳以上の求人は少ないという厳しい現実もある。「シニアのための求人が見つかりづらい理由」と、「60歳を過ぎても再就職先を見つけるためのコツ」を、『定年前後「これだけ」やればいい』の著者であり、人材紹介会社代表の郡山史郎氏が解説する。

実際に転職活動をしたことがある人ならお気づきかと思うが、現状、シニアの求人は非常に少ない。日々の仕事に追われ、なかなか先のことまで気が回らないとは思うが、まずはこの「定年前後の真実」に、一刻も早く気づいてほしいと思う。

特に部長、本部長、役員などのポジションにいる人は、仮に社内での居場所がなくなったとしても、社外ならそれなりの処遇でそこそこの仕事があると思われるかもしれない。

しかし、そもそも、そのようなポストでの求人に巡り合うことは難しいのだ。仮にあったとしても、定年前と同様の待遇は望めないと思ったほうがいいだろう。
 
定年後、ゆっくり仕事探しをすればよい、と思っている人もいるかもしれない。そして再就職先がまだ決まっていないにもかかわらず、退職金や失業保険があるから大丈夫だろうと考え、再雇用を希望しないまま定年を迎える。そうこうするうち、半年が過ぎ、1年が過ぎていく。

しかし、仕事をしていないブランクが長くなればなるほど、仕事探しでは不利になる。仕事から1年、2年と離れているうちに、仕事の勘や情報は古びていくものだからだ。

「60歳定年制」の功罪

最近の求人のキーワードは一にも二にも「即戦力」である。昔のように「当社は人間本位。そのうち活躍してくれればいい」などと悠長に構えている経営者は1人もいない。ブランクが長いというだけで敬遠されてしまう理由はそこにある。

退職した会社にも残れず、自分のキャリアを活かせる再就職もできない――このような八方塞がりに陥らないためは、「定年前後」の過ごし方がカギを握っているのだ。

それにしても、なぜこれほど定年前後の人向けの求人が少ないのだろうか。

私は、それには「60歳定年制」が関係していると考えている。

厚生労働省の調査(平成29年就労条件総合調査)によると、「60歳定年制」を導入している企業は79.3%、つまり8割の会社が60歳が定年となっているのだ。ということは、50歳くらいの人を採用しても、ほとんどの企業では10年未満で退職、ということになる。企業側でもこの年代の人を積極的に採用するのを控えてしまうのは、仕方のないことだともいえる。

誤解しないでいただきたいのだが、私は定年制自体は、いい制度だと思っている。組織の人間が入れ替わっていくことは必然だし、体力があり伸びしろがある年代が経営の中核を担うほうが、会社の成長にとってもよい。

そのためには、ある程度の年齢になったら管理職を退く「役職定年」こそが、定年の本質であるべきだ、というのが私の考えだ。そうして管理職を外れたら辞めてもらうのではなく、契約社員でも業務委託でもいいから、60歳を過ぎた人でも長く働ける環境をつくるのが理想的だと思う。

「多様性」が再就職を難しくする

「シニアの再就職が厳しいことはよくわかった。ならば、人材紹介業を頼ればいいのではないか」というご指摘をいただくことも多いのだが、話はそう簡単ではない。

その要因の1つは、シニアの「多様性」にある。シニアは、長く生きてきた分、1人ひとりの個性も能力も大きく異なる。家庭の事情も千差万別。まさに人生いろいろだ。ほとんどが独身で業種・職種未経験という新卒のときとはまったくの別物なのだ。シニアの仕事探しの難しさはそこにある。

私も今年で84歳になるシニアの1人として、「シニアの求人は非常に少ない」というのは大変心苦しいことだ。シニアは若い人に負けないくらいのやる気も能力もある。ツボにはまれば相当の実力を発揮することもよくわかっている。しかし残念ながら、「仕事ができる」ということと「仕事がある」ということは、まったく別の話なのである。

人材紹介というのは見合いに例えれば、仲人のようなものだ。いくら「結婚したい」と思っていても、そもそも相手がいないと成立しない。

ところが、現状はこの相手、つまりは企業側の求人が少ない。政府も高齢者雇用に力を入れ、前進はしているものの、今はまだ定年後の再就職市場は過渡期にあるといえる。高齢者自身も仕事を探す努力が必要だろう。

シニアが新たに職を求めることははなはだ難しい時代なのだが、そうはいっても職を求めるシニアは多い。将来に不安を感じている30代、40代の人も多いだろう。

では、どうすればいいのか。最も賢明な再就職先の見つけ方は、第1に、できるだけ早いうちから情報収集を始めることである。第2に、見つかるまで淡々と探し続けることである。第3に、これを日々の日課、いわば新しい習慣にしてしまうことだ。

まずは行動だ。じっくり時間をかけて受け入れてくれそうな会社を探してみよう。そうすれば、現実の厳しさがよくわかるし、真剣に取り組む覚悟もできる。

大事なポイントは「自分で探す」ということ。そのほうが本気度が相手に伝わる。もちろん人材紹介会社に登録していただくのもいいが、少しでもブランクを短くするためにも、自分自身で積極的に動くことをおすすめしたい。自ら動くことで、仕事に出合うチャンスは確実に増えるはずだ。

しかし、あせるのはよくない。「会社探しが趣味だ」というくらいの軽い気持ちで、気長に取り組むほうがいい。そのほうが楽しめるし、気も滅入らない。今まで知らなかった業界や仕事を知ることになるから、自らの見聞を広めることもできるだろう。そうしているうちに、働き先もきっと見つかるはずだ。

理想は「定年前」に動きだすこと

理想をいえば、定年になる前に数社程度、再就職の可能性のある会社に当たりをつけておけば安心だ。運よく再就職先が見つかって、先方が早めに来てほしいという場合は、給料は下がるとしても思い切って飛び込んだほうがいい。

中高年に来てほしいという会社は、増えてはいてもそうはない。元いた職場でくすぶって過ごすよりもいい仕事ができるだろうし、中高年でも歓迎という会社は中小企業で実質的に定年がない場合が多い。結局はそのほうが生涯収入も増える可能性が高いのだ。

もし、再就職先が1件も見つからないままに定年を迎えそうであれば、とりあえず再雇用を選択しておくべきだ。とにかく、定年後であっても失業状態が長期化することだけは避けたほうがいい。

もっとも、シニアの求人が少ないというのは、デスクワーカーの場合である。体力を使う仕事であれば、シルバー人材センターや運送会社のドライバー、建設現場のほか、地方に行けば農業など、いくらでもある。体力に自信があれば、こうした仕事を選ぶのもいいだろう。

先日、マンションの管理組合で樹木の剪定(せんてい)をシルバー人材センターに頼んだら、やってきた5人のうち庭木職人上がりの人は1人だけで、残りの4人はみな大手企業の元サラリーマンだった。なかには、身なりがきちっとしている人もいる。元銀行員だったそうだ。

みな楽しそうだ。やりたいときだけやるようにしているというが、現役の時代よりも欠勤は少ないという。性に合わないですぐに辞める人もいるが、それ以外はほとんど辞めることもない。実際、最高齢は84歳、私と同じ年でクレーン車を器用に操作して仕事も早い。現役の頃は工場の工務畑で、機械いじりが好きだったという。

現場仕事だけではない。もともと得意な分野を究め、「手に職をつける」という道もあるだろう。この前、新聞を読んでいたら、59歳で将棋の駒づくりを始めて、ついに竜王戦で使う駒をつくったという駒師を紹介していた。もちろん誰にでもできる話ではない。そこまでいかなくてもいいからと、あまり気負うことなく職人修業に打ち込んでいる人も多い。そうした人たちが生き生きとしているのも事実だ。

ベストは「好きな仕事を見つける」こと

要するに、人生の後半戦は、本人の好きなように生きればいい。可能であれば隠居して遊んで暮らすのもいい。私のおすすめは好きな仕事を見つけて好きなようにやることだ。


定年後の仕事は本人が自由に選べばいい。もし、それまでデスクワークや営業をしてきて、ほかにやってみたい仕事がないのであれば、慣れない仕事を一から始めるよりは昔の経験やスキルが使える仕事を選んだほうがいいということだ。体力的にもそのほうが息長く続けることができるだろう。

何より、現役時代に長い時間をかけて蓄積してきた多様な経験や知的な能力を、そのまま死蔵させてしまうことは本当にもったいない。本人にとっても、日本にとっても大損失といえる。