スーパーGT開幕プレビュー@GT300編

 4月13日、14日に開幕するスーパーGTシリーズの魅力のひとつは、GT500とGT300という異なるクラスが同一コースを混走し、それによってドラマチックなレースが多く観られる点だろう。ホンダ、レクサス(トヨタ)、日産の3メーカーが莫大な資金を投じて戦う「GT500クラス」に対し、レース好きのプライベーターが多種多様な車両で参戦しているのが「GT300クラス」である。

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つちやエンジニアリングはピンクのマシンカラーで大いに目立つ

 2019シーズンのGT300クラスにエントリーしているのは計29台。そのなかで今年、大きく注目を集めているのが、土屋武士監督の率いるナンバー25のHOPPY 86 MC「つちやエンジニアリング」だ。

「打倒ワークス」というテーマを掲げてGT300クラスに挑戦し続けているつちやエンジニアリングは、プライベーターの雄として国内モータースポーツ界で広く知られている。2016年にはシリーズチャンピオンを獲得し、GT300クラスでは常に優勝候補としてライバルから恐れられている存在だ。

 2018年からはホッピービバレッジ株式会社がメインスポンサーとなり、同社のコーポレートカラーでもあるサクラ色をモチーフにしたデザインとなった。この新しいマシンカラーは、ファンの間でも大好評だ。さらに昨年は、チームのエースとなった松井孝允(たかみつ)に加え、期待の若手ドライバーである坪井翔を起用。優勝はもちろん、タイトル獲得を目指すに申し分のない体制で挑んだ。

 しかしシーズンが始まると、思わぬ試練が待ち構えていた。さまざまなマシンが参戦するGT300クラスでは、各車の性能を均等にするための「性能調整」が毎レースごとに行なわれる。この調整幅が昨年の第3戦から変更され、つちやエンジニアリングの駆るトヨタ86マザーシャシーの車両最低重量が50kgも増加されたのだ。

 25号車はポルシェなどの欧州マシンと比べて軽量で軽快な動きをする一方、エンジンパワーでは圧倒的に劣っていた。ルールに則った性能調整とはいえ、50kgの増加は彼らを大きく苦しめることになる。

 さすがに土屋監督も、最初は「(この状況で勝つのは)無理だ」と思ったという。だが、チームのテーマである「昨日の自分に負けない」ために、大きなハンデを背負いながらも果敢に挑戦することを決意した。そして、その成果は少しずつ出始め、後半戦では2度のポールポジションを獲得。しかし、シーズンを終えた時、チームはひとつの現実を突きつけられた。

『シーズン、未勝利』

 2015年にチームを復活させて以来、ワーストの結果だった。

 つちやエンジニアリングは、レースの結果より次世代を担う若い人材を育てていくことを目的とし、「一番大事なことは、昨日の自分に負けないことだ」と土屋監督は強調してきた。しかし、優勝という結果が得られなかった現実は、思いのほか重くのしかかった。

「『昨日の自分に負けない』『自分たちの成長』に重きを置いて、みんなで0.001秒を削り取る作業をコツコツやってきたことは成長につながったと思うのですが、それが結果に現れなくて……。何が一番ストレスだったかというと、応援してくれている人たちの『勝ってほしい』『上の順位にいってほしい』という気持ちに応えられなかったことです。それに対しては、すごく歯がゆさを感じました。

 正直、これ以上やりようがないくらいがんばってきたし、クルマの仕上がりも少ない予算の中でやれる限りのギリギリはやってきたつもり。気力も体力も、これ以上ないところまでやりました。でも、勝てない……。これ以上絞り出すのが難しくなってきて、モチベーションもすごく落ちてしまい、本当に(この活動を)やめるしかないかな……と考えたこともありました」

 これ以上のパフォーマンスは引き出せないと感じつつ、それでも土屋監督はクルマと向き合い、セッティングを見直して少しでも速さを引き出してきた。だが、それでも勝利することができなかった現実に、「万策尽きた」という気持ちでシーズンオフを過ごしていたという。

 そんな時、土屋監督の理想に賛同して応援し続けた仲間たちが、彼の背中を押してくれた。

「こんな状況でも、周りのみんなが応援してくれるんです。メインスポンサーのホッピーさんを筆頭に、たくさんの仲間が集まってきてくれて……。『もうこれは、自分がやりたいことをみんなが応援してくれているんじゃなくて、25号車はみんなが走らせたいクルマなんだな』という気持ちに変化しました」

 これまでは、土屋監督がやりたいことを貫くために25号車があり、そこに惹かれた仲間やスポンサーたちが集まって応援してくれていると思っていた。それが今では、応援するみんなの希望や夢、想いが25号車に託されていたのだ。それに気づいた土屋監督の心の中には、今までにない新たな目標が強く芽生えた。

 みんなの想いに応えるために、何としても結果を出したい――。

 2019シーズン、つちやエンジニアリングは松井孝允(31歳)に加えて、F1のテストドライブにも参加した経験を持つ佐藤公哉(29歳)を起用。佐藤の加入によってチームに新しい風が吹き込み、25号車は開幕前のテストから好調な走りを見せている。

 岡山国際サーキットの合同テストでは総合クラス2番手、さらに富士スピードウェイで行なわれた2回目の合同テストでは総合トップタイムをマークした。とくに富士は、エンジンパワーがライバルより劣る25号車にとって不利なサーキット。富士ラウンドでは毎年我慢のレースを強いられていたが、セッティングを見直してマシンと向き合った結果、富士でも速さを出せるようになってきた。

 コースサイドでの走行シーンや、マシンをメンテナンスしているピットの様子を見ていると、明らかに昨年とは違った鬼気迫るものを感じる。彼らの想いは、ひとつだ。

 今年は、結果を取りにいく。

 チャンピオンを獲得した2016年。鈴鹿での横転クラッシュからマシンを修復させて戦い続けた2017年。性能調整という難題に立ち向かった2018年……。そこから圧倒的な進化を遂げた「最強の町工場GTチーム」が、今シーズンは底力を見せてくれそうだ。