映画『麻雀放浪記2020』がついに公開!作品公開後に白石和彌監督にインタビュー。今の胸中を語ってくれた。ポスターと同じ表情でポーズ!

写真拡大

麻薬取締法違反の罪で起訴されたピエール瀧被告。出演作の自粛対応などが迫られている中、『麻雀放浪記2020』はノーカットでの公開に踏み切った。紆余曲折を経て公開された作品へのこだわり、そして数多くの作品でタッグを組んできたピエール瀧への思いなど、白石和彌監督が今の胸中を明かしてくれた。

【写真を見る】企画は2016年からスタート。「『日本で一番悪い奴ら』の頃に企画が動き出しました。『孤狼の血』と『麻雀放浪記2020』はほぼ同時に企画がスタートしてます」

俳優・斎藤工が10年の歳月をかけ、昭和の傑作を現代に蘇らせた『麻雀放浪記2020』。1945年の戦後の東京から2020年にタイムスリップしてきた主人公・坊や哲が、麻雀で死闘を繰り広げる姿をブラックな笑いを交え描いている。

持ち前の色気を封印した斎藤工が、20歳の童貞でもある主人公・坊や哲を熱演。ヒロイン・ドテ子には「チャラン・ポ・ランタン」のもも、ほかにも竹中直人、ベッキー、的場浩司、小松政夫ら個性豊かなキャストが集結。全編iPhoneで撮影するなど、異色作に仕上がった。

■ 「映画的なものを抜け出したかったんです」

ーついに公開されました。まず今の率直の気持ちを聞かせてください。

当初の予定通りノーカットで上映できたのでよかったなと思います。

ー東京オリンピックが中止になる設定が一部で話題になりましたが、作品を観るとあくまでも背景であって大きく影響することでもなかったですね。

そうなんですよね。単純な娯楽作で崇高なるバカ映画を撮るっていうのが根本的なスタート地点なんで(笑)

ー「孤狼の血」が日本アカデミー賞をはじめ話題になり、白石監督の名前がさらに広く知れ渡ったあとに発表されたのがこの作品っていうのがたまらないですね(笑)

ブルーリボン賞2年連続受賞が58年ぶりって言われて、それでコレですから(笑)もう埃以外の何物でもないです。

ーまず、iPhoneでの撮影ですが、麻雀卓を強打する時に揺れる感じやカットを多用して飽きない画作りになっていました。そもそもなぜiPhoneで撮影しようと思ったんですか?

映画的なものを抜け出したかったんです。僕の特性としてしっかり撮ると緊張感が出て重くなるし、昭和臭だだ漏れの画になる。「孤狼の血」はちょうどいいんですけど、この作品はポップにしたかったので、緊張感とか昭和臭から脱却するためにiPhoneで撮影しました。

ー誰が発案したんですか?

僕です。今の日本の視野の狭さを前から感じていて、iPhoneで撮った映像の感じが今風なんですよね。日本の技術スタッフってちゃんと撮らないとダメみたいなところがあって「それじゃ映画になりません」って必ず言われるんですよ。今回はカメラマンを選ぶ前にiPhoneで撮るって決めて、OKしてくれたのが撮影監督をしてくれた馬場さんだったんです。

■ あんな人まで?!個性豊かすぎるキャストたち

ー真剣にバカをやる感じのシーンがたまらなくて、おっぱいのシーンとかいい意味で無駄だなと(笑)。あの感じはマストだと?

もちろん。B級映画感は絶対に出さなきゃいけない作品ですから。初日のレビューで「2本立ての頃のメインじゃない映画」って書かれてました(笑)

ーあと、舛添さんの出演にも驚かされました。東京オリンピック中止の設定でいろいろ言ってきた側の人のような気がしますが…?

舛添さんが都知事やっている時も東京オリンピックの話は出てるので、失敗しなければ開会宣言とかやってた可能性だってありますよね。だから、その悔しさをこの映画で晴らしてくださいって(笑)

ーそんなオファーありますか?(笑)あと、ヒロインのドテ子を演じたチャラン・ポ・ランタンのももさんのセンスも光ってました。

かわいいんですよね。失礼ながら超絶な美人という訳ではないですが、決してブスではない(笑)アイドルとして売れてない感じとか、それで人間とセックスできないとかも(笑)脚本を読んで「私、ドテ子です!」って言ってました。

ーももさんをヒロインにした決め手は?

チャラン・ポ・ランタンのエネルギッシュさは前から感じていて。お姉さんの小春さんがミスチルのサポートメンバーでライブに出てた時に、ももちゃんがやることないから1人芝居をやってたんです。それを見に行って、一生懸命やってるんですけどめちゃくちゃ空回りしてて(笑)これはぴったりだと。

ー短いシーンですが、岡崎体育さんもインパクト残してましたね。朝ドラ出演前に撮影されてたということで初演技ですよね。オファーの経緯は?

MVを見てましたしライブに行ったこともあるし、娘も好きなんです。多分芝居できるだろうなと思ってたし、キャラクターも面白いから一早く出てもらいました。

■ 「作品に罪はない」ピエール瀧事件を受け、公開されるまでの道のりを明かす

ー今回大きな問題となったピエール瀧さんの逮捕ですが、自宅のニュースで知ったそうですね。

NHK見てたらニュース速報で出てきて、びっくりしましたよ。「えー!」って声上げちゃって。すごく落ち込んだし、その日は何も考えたくなかったんですけどメールがバンバンきて。携帯の電源落として寝ようって感じでしたね。

ーピエール瀧さん演じる元五輪組織委員会・会長の杜は、キーマンとなるキャラクターでもあります。公開前までの心情の変化などについて詳しく聞かせてください。

まず東映のプロデューサーから「作品に手を入れないで公開できるよう頑張ります」ってメールをいただいて、気持ちが一緒だったので心強かったですね。翌日、たまたま製作委員会があって、僕の意見もヒアリングしてくれたので思いを伝えて。それでもモザイクとか目線入れるのとかやらないといけないかと思ってたんですけど、東映の岡田裕介会長から「ちょっと来い」と呼ばれて。「監督はやってないだろうな?」と確認をされ「大丈夫です!できればそのまま上映したいです」って言ったら「どうせ麻雀の映画なんて誰も観ねえから大丈夫だよ!」って粋な感じで背中を押してくれました(笑)

ーそんな経緯があったんですね(笑)自粛傾向がある今の日本で、公開に踏み切ったことを英断だという声もありました。

この作品でそういうことを揶揄しているのに、公開しないのはどうなの?ってことじゃないですか。今回、瀧さんはコカインで捕まりましたけど、映画の中でコカインを吸引するシーンを演じていたら難しかったかもしれない。まず基本は「作品に罪はない」。上映することが基本の姿勢としてあるべきで、特例があった場合に難しくなる。あるワイドショーから「『作品に罪はない』と言ってましたけど、人殺しでも同じですか?」って言われて、そんなわけあるかと(笑)

■ これまで薬物描写が多かった白石監督。これからの作品に影響は?

ー白石監督はこれまで薬物の描写を多く描いてきました。そういう意味では責任感を感じたのでは?

僕も考え方を少し変えて、禁止薬物のことをちゃんと調べて依存症になっている人がどんな治療をしているのかとか啓発運動ってどうやってするのかとか、社会活動はやらなきゃだめだなと。先日保釈されたのもあるし本人次第ですが、どこかで会いに行って一緒にやれればいいなと思っています。

ー今回のことで薬物のシーンで扱いが難しくなって、今後のエッジの効いた作品が生まれてこないのでは?と1人のファンとしてちょっと心配です。

表現は変える気はないですから安心してください!テレビは無理かもしれないし、ほかにもやめてくださいってなればできないかもしれないけど、自主映画もあるし。表現を規制するってことはないですから。

ーピエール瀧さんといえば白石組の常連ですよね。ほかにもリリー・フランキーさんや今回の作品にも出演されている音尾琢真さんなど、改めてバイプレイヤーの存在をどう感じていますか?

映画の世界観を作る上で主役より重要だったりするので、瀧さんがいなくなって飛車がいなくなった感覚ですね。瀧さんは「凶悪」の時から僕を監督にしてくれた人でもある。会うとそばにいる人みんなを幸せにするし、男っぷりとかいろんなところに惚れて一緒に仕事をしてきた。役割も唯一無二なんで喪失感はありますね。

ー白石監督にとっても大事な存在でもあるし、いろいろ考えることもあったのでは?

薬物を散々描いてきて他の人より知識もあったかもしれないので、瀧さんのことを気付けなかったのは不徳の致すところですけど、やっぱり一回始めたらやめられないってことなんです。今後、社会に何か貢献できるようなことを瀧さんにはやってほしいし、それにおいて手助けできるところは友人として労を惜しまずサポートしたいです。

映画『麻雀放浪記2020』は梅田ブルク7、なんばパークスシネマほかにて公開中。(関西ウォーカー・山根翼)