かつては「ユーキャン 新語・流行語大賞」にも選ばれたほど爆発的なブームを巻き起こした『妖怪ウォッチ』だったが、今は人気が低迷している。その原因を探ってみた(写真:アフロ)

かつては「第2のポケモンになる」とまで言われた「妖怪ウォッチ」の元気がない。グッズ販売はふるわず、専門ショップは今年2月にすべて閉店した(オンラインショップのみ継続)。

さらに、3月に最終回を迎えたアニメ「妖怪ウォッチ シャドウサイド」(テレビ東京系列・2018〜2019年)の視聴率も低迷。ビデオリサーチ社の調査によると、シリーズ1作目となる「妖怪ウォッチ」(2014〜2018年)が夕方のアニメ枠としては異例の5%台を記録したのに対し、次作のシャドウサイドは2%前後。1月13日の放送以降も3%を超えることはかった。

いったい何が原因だったのだろうか? その原因を解説するために、まずは同作品の歴史を簡単に振り返りたい。

2014年に「妖怪ウォッチ」ブーム到来

2014年に放送が始まった「妖怪ウォッチ」。当初はドラえもんやジブリアニメ、昭和の名作ドラマ・映画などのパロディーを交えながら、オレンジ色の肌と腹巻きが特徴の地縛霊・ジバニャンをはじめ、ユニークな妖怪たちが毎週のようにネット上の話題となり、高視聴率を獲得した。

関連グッズの販売もうまくいった。妖怪を探索できるという設定の腕時計型のアイテム「妖怪ウォッチ」と、そこに差し込んで友だちとなった妖怪の召喚を楽しむ「妖怪メダル」は大人気となり、量販店には大行列ができた。国内での人気を受け、2015年からはアメリカでの展開もスタートさせている。

しかし、その熱狂は長くは続かなかった。最もネックとなったのはウォッチとメダルの生産が追いつかなかったことだ。

商品化を手がけるバンダイナムコHDは2014年5月の決算説明会で「発売から3カ月までに700万枚を販売、6月までに累計生産数を2500万〜3000万枚に増産する体制を整える」としたが、消費者からは「子どもがほしがっているのに手に入らない」という不満の声が相次いだ。

メダルで遊ぶにはそれを挿入するウォッチが必須だが、その供給が追いつかず、高額な転売も横行した。その年の夏休みには、妖怪ウォッチの自作を試みる動画が人気を集めるなど、その切実さは尋常ではなかった。

「ごっこ遊び」と「収集」は、子ども向けアニメビジネスに欠かせない要素だ。かつてポケモンが確立したものの、やや人気が落ち着いていたこのカテゴリーに妖怪ウォッチはピッタリとはまったと言えるだろう。

しかもポケモンはゲーム機がないとその楽しみ方は限定的になるのに対して、妖怪ウォッチはゲーム機なしでも十分にその世界観を味わえる仕掛けを備えていた。しかし、遊ぶためのグッズがない状態が半年以上続いたことは作品にとって大きなダメージとなった。

そうこうしているうちに、ポケモンの反転攻勢が始まる。決定打となったのは2016年夏に日本でもサービス開始となった位置ゲーム「ポケモンGO」だろう。スマホ1つで遊ぶことができ、収集とごっこ遊びの要素も備えたポケモンGOは子どもだけでなく、スマホを所持する大人にまで人気を広げ、新たな社会現象となった。

この時点で妖怪ウォッチのグッズ流通は安定していたが、存在感は小さくなってしまった印象がある。しかし、それでもアニメの視聴率ランキングではポケモンと同等の状況を維持していた。作品の世界観とキャラクターの魅力が優れていたからと言えるだろう。

2018年に「突然の方向転換」

そして、2018年に始まったシリーズ第2作「シャドウサイド」は、それまで約4年・200話以上を重ねた前シリーズから、世界観やキャラクター設定を一新。


世界観やキャラクターが一新された「妖怪ウォッチ シャドウサイド」の「ジバニャン」(画像:コロコロチャンネル【公式】【妖怪ウォッチシャドウサイド】亡霊番長 1話& 死者の乗る自転車 2話【1時間SP!!】YouTube:https://www.youtube.com/watch?v=L2UsNENzBac&t=2274s

妖怪たちから可愛らしさはなくなり、妖怪本来のおどろおどろしさが前面に押し出されている。登場人物たちも成人した前シリーズの子どもたちとなり、年齢も小学校高学年から中学生と高めに設定された。

4年の間にユーザーの年齢は上がる。つまり妖怪ウォッチを卒業するユーザーが出てくるのだが、妖怪ウォッチはポケモンのように「より幅広い年齢層」をターゲットとする戦略に打って出た。

原作となっているゲーム最新作も「過去・現在・未来」の3つの世界を行き来して妖怪たちと冒険する世界となっており、「シャドウサイド」はその中の未来世界を描いたものだったのだ。しかし、ゲームは開発の遅れから当初予定されていた2018年中に発売できず、現在は2019年6月6日発売予定とされている。

この「より幅広い年齢層」をターゲットとする戦略は、スマホでもうまくいかなかった。2016年にポケモンGOの後を追いかけるようにリリースされたスマホ位置ゲーム「妖怪ウォッチワールド」は、2018年にようやく200万ダウンロードを突破したが、これはリリース後3日で1000万を突破したポケモンGOに遠く及ばない。このゲームのCMも若者・大人を強く意識したものになっているが、その層には訴求しきれていないようだ。

「ガンダム」シリーズでも陥った失敗

キャラクターとファンの年齢をめぐるビジネス展開の難しさは、妖怪ウォッチにはじまったものではない。今年40年の節目を迎えたガンダムシリーズも、1979年の「機動戦士ガンダム」放送終了後に訪れたブームののち、シリーズ展開がうまくいかない時代が続いた。

本格的な「復権」は放送局を変え、「宇宙世紀」という時間軸(世界観)から脱却した「機動戦士ガンダムSEED」(2002年)だ。クリエーターを一新し、主要キャラクターを美少年で固め、新たに女性ファンからの強い人気を獲得した本作を起点に、ガンダムは古くからのファンや子どもたちなどに向けた複数の作品を多面展開するに至っている。

実はこの多面展開の端緒に、妖怪ウォッチの原案・原作ゲームを手がけるレベルファイブ代表の日野晃博氏も関わった作品がある。それが「機動戦士ガンダムAGE」(2011年)だ。

「機動戦士ガンダムAGE」でも、主人公の幼年期、青年期、そして老年期が描かれ3世代にわたる戦いの歴史が描かれている。一見、こうした多様な世代を物語で描くことは、「ファンが年を重ねる」ことに対する対応策として有効に見えるかもしれない。

しかし、年齢によって物語に求める面白さや感じ取る魅力は異なる。結果として「ガンダムAGE」は、シリーズの中でも、とくに低い視聴率を記録して幕を閉じている。

そうした失敗を経験したせいか、現在のガンダムシリーズは「機動戦士ガンダム」をリアルタイムで楽しんだ40代以上も楽しめる重厚なシナリオを持つ作品として、小説家の福井晴敏氏が原作を手がける『ガンダムUC』『ガンダムNT(ナラティブ)』が公開された。

同時に子ども向けにはロボット(モビルスーツ)で遊ぶ楽しさを訴求する『ガンダムビルドファイターズ』、“ファーストガンダム生みの親”である富野由悠季氏の独特の世界観を表現した『閃光のハサウェイ』『Gのレコンギスタ』など、隙のない展開が進んでいる。

ターゲットユーザーごとにそれぞれ訴求ポイントを設定した作品を、異なるクリエーターによって企画・制作し、それぞれに応じた映像ウィンドウ(テレビ・劇場・インターネットなど)と、回収手段(映像・ゲーム・グッズなど)の最適解を追求していることがその展開からも見えてくる。

「原作者のこだわり」が足かせか

これに対して、妖怪ウォッチはその原作となるゲームから一貫して日野晃博氏が企画・制作に携わっている。筆者が日野氏に行ったインタビューでも、アニメ放送に際し、脚本はもちろん絵コンテまで氏がすべて目を通していると聞いて驚いたことがある。

「レイトン教授」「イナズマイレブン」「ダンボール戦機」といった子ども向け大人気IP(知的財産)を次々と生み出したカリスマである氏ならではのこだわりとも言えるが、そのこだわりがキャラクターが創造主の手を離れて、さらに広い市場に広がる際の足かせとはなっていないだろうか。天才ゲームクリエーター田尻智氏が生みだした「ポケモン」も初期のアニメ化に際して、制作陣は脚本家の首藤剛志氏に「何でも書かせてみる」姿勢で臨んでいたという。

4月5日から始まったシリーズ第3作「妖怪ウォッチ!」は、改めて第1作の小学生の主人公ケータが活躍するギャグタッチのアニメとなる。上述のように、立ち上がりのグッズの供給不足やポケモンGOの大ヒットという「不運」はあったものの、コンテンツの魅力やビジネスのポテンシャルは非常に高いはず。原点回帰する新シリーズから妖怪ウォッチの復活なるか、注目したい。