日本では課長クラス以上の女性管理職は10人に1人以下。なかなか増えていきません。男性学の第一人者である田中俊之先生は、その背景に「女性は管理職に向いていない」という“おかしな常識”が存在すると指摘します――。

■女性管理職は“特例”と言いたがる男たち

日本企業では部長が20人いたらそのうち女性は1人ぐらい。課長ですと少し割合が増えますが、それでも10人に1人もいません(図表1)。女性管理職が少ないのは、女性にリーダーの役割が期待されていないことが大きな要因です。現実として女性が管理職に向いていないのではなく、「女性は管理職に向いていない」という、“おかしな常識”があることで出世が阻まれているのです。

出典=「男女共同参画白書」平成30年版

第1回(賢い女こそ、職場で男を立ててはいけない)でもお話したように、男性の多くは出世という「達成」をしたいと思っていますから、女性が管理職になったとき、先を越されたと嫉妬する人もいるでしょう。先を越された男性は心に折り合いをつけるために、「彼女は例外だから」と自分に言い聞かせているはずです。「普通」は男が上で女が下だと信じていたいからです。「普通」の女性には管理職はできないというイメージが広がると、次に問題になるのは「無理している(と思われている)女性上司を部下が信頼できるか」ということです。

■女性管理職を増やすなら男性を集めて研修をすべき

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Kavuto)

もっと悪意がある場合は、「彼女は本来、管理職にはなれないレベルだけれど、会社として女性の活躍を推進しなければならないので、特例で昇進した」などと言う人もいますが、そんなことを言われたら部下をコントロールすることが難しくなります。結果的にマネジメントがうまくいかず「言ったとおりだろ。女性は管理職に向いていない」となるわけです。

これはひどい例ですが、こういった環境の場合、管理職になった女性本人にできることはあまりなく、その前に会社全体で「女性への偏見はなくしていきましょう」という周知を徹底する必要があります。企業の研修でも女性活躍推進をテーマにするときは女性社員を集めるのではなく、むしろ男性を集めて話をしたほうがよいのではないかと私は思っています。

■おじさんたちは女性観をアップデートせよ

ただ、社会学で用いるAPC効果の「加齢(aging)」「時代(period)」「世代(cohort)」で考えると、男性たちがそう言ってしまう「時代」の背景はあります。今の50代、60代男性にしてみれば、実際にこれまで女性たちは結婚、妊娠、出産で会社を辞めてきたわけです。自分の妻も結婚を機に会社を辞めたし、同期の女性たちも退職していった。そして、部下の女性もこれまではどんどんいなくなっていった。その経験から「女の人って結局、会社を辞めるんでしょ」と理解している。その認識と会社に在籍している女性たちがどう働きたいかということのギャップが大きいわけです。「男は仕事、女は家庭」でやってきた世代と、これからの時代を担っていく30代とではお互いの常識が通用しません。だからこそ、年配の男性たちに「これからの時代」は違うということを理解してもらわなければいけないのです。

■男性の育児休業取得率が低いのにも同じ構造が

よく「本音と建前」と言いますが、企業も建前上は「女性もどんどん管理職になって活躍して」と言います。しかし、社員の本音と職場の現状は違っているのです。その結果が、冒頭の女性管理職比率の数値に出ています。それは男性のケースでも起きていて、例えば、会社が男性社員に建前上「育児休暇を取っていいですよ」と言っても、実際の取得率は7.5%(図表2)。その建前をまともに受け止めて育児休業をした男性は、復帰後、地方に飛ばされたり閑職に回されたりしたという実例も聞きます。現在は晩婚化が進んでいるので、子育てに入るのは30代に入ってから。ちょうど仕事が忙しく、責任が出てくる時期と重なってしまうので、長い休暇を取ると評価に影響してしまう。上司の「本音」をうかがって、男性が育児休業をためらうのも無理はありません。

出典=厚生労働省「平成29年度雇用均等基本調査」

■男は「達成」のプレッシャーで感覚がおかしくなる

よく男女平等の話題で北欧が取り上げられますが、実際に会って話をすると、男性でも仕事より自分たちの生活を大切にしている印象があります。日本では考えられません。日本ではいまだに競争して勝つのが男として正しい。出世していくことが男の価値なのだと教えられます。

現在、小学生の中学受験熱が高まっているのは、親が中高一貫校を経て有名な大学に入らせたいから。それはなぜかというと、有名大学から一流企業に入り、一家の大黒柱として家庭を支えるためです。男性はそういう「達成」のプレッシャーを受けながら育っているので、医大の入試で男子受験生が有利になる不正が起きた際も、不正があってはいけないと考えるよりも男性優位の状況をむしろラッキーと思う男子だって少なからずいたはずです。同じような構造は会社にもあるのではないでしょうか。

これから先、何十年も働いていくことを考えたとき、女性が管理職になることで波風が立つような会社なら、転職を考えてもいいと思います。自分の働く企業の文化や風土、女性管理職がいても大丈夫な環境かどうかを見極めることが大事ですね。

■女性の実力を示すと同時に声を挙げて

それでも偏見の残る会社でやっていきたいと思うならば、男性になめられないように黙々と働いていくしかない。目の前の仕事を着実にこなして「女性は管理職に向いていない」というイメージに対し、それが単なる偏見であることを示すことだと思います。大学などの試験でも平等に実施すれば女性のほうが平均値は高いわけですから、結果はついてくるはずなのです。同時に、男社会に対して、前出の建前と本音の話もそうですが「こういうところに矛盾を感じる」と声を挙げていくことも大事です。残念ながら、そういう会社では、声を挙げないと、問題があるとすら思っていない人が主流だからです。

(大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中 俊之 構成=小田慶子 写真=iStock.com)