NBCニュース(NBC News)とMSNBCがポッドキャストへの投資を増やしている。

NBCニュースは2018年11月に同社のデジタルオーディオおよびポッドキャストグループへの雇用計画を立てており、3月4日に最初の雇用について発表を行った。NBCニュースおよびMSNBCのオーディオおよびポッドキャスト部門でエグゼクティブプロデューサーを務めるスティーブ・リックティーグ氏は、現在たった2名で構成されている同社のポッドキャストグループを今年末には10名まで増やす可能性があるとしている。

同グループはNBCニュースやMSNBCテレビ、デジタルプロデューサーらによる既存の番組のポッドキャスト放送の制作支援を行う。さらには日々のニュースに切り込んだり、物語仕立てのディープなノンフィクションを扱ったりといった独自のポッドキャスト番組の制作を目指しているという。

米大統領選挙に焦点



同グループのうち4名は、NBCニュースやMSNBCテレビ、デジタル運営におけるインハウスの顧問チームのような役割を果たす。そして残りの6名が番組制作とオリジナル番組の構想担当だ。この6名グループが来年重心的に取り組むのが、2020年の米大統領選挙に焦点を当てたポッドキャスト番組だ。

同番組はまず週に1度の放送として開始し、選挙シーズンが佳境に入る頃には毎日放送することを予定しているという。近年、米大統領選挙の報道はニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やボックス・メディア(Vox Media)、スレート(Slate)、ワシントン・ポスト(The Washington Post)らが毎日ニュース特番を組むようになり競争が激化している。NBCらは長期的に見て、大統領選挙の報道における存在感を強め、NBC番組の視聴の習慣づけを進めることで毎日のニュース特番の基盤を築くことを目標としている。

リックティーグ氏もまた「各ニュースネットワークは選挙に非常に力を入れている。グループの立ち上げ当初の予定以上に(ポッドキャストで毎日放送する選挙番組を)プッシュしていくかもしれない」と語っている。

過去作品による実績



NBCニュースとMSNBCは何年も前からポッドキャスト番組を保有していたが、つい最近まで「ミート・ザ・プレス(Meet the Press)」や「レイチェル・マドー・ショー(The Rachel Maddow Show)」といった既存のテレビ番組の音声を流すだけのものだった。

独自の番組へと手を広げていったのはここ2年ほどのことだ。2017年に、ミート・ザ・プレスが番組70週年を記念してポッドキャストのインタビュー番組「1947: ミート・ザ・プレス・ポッドキャスト(1947: The Meet the Press Podcast)」を制作した。またMSNBCは、昨年5月からクリス・ヘイズ氏が司会を務めるインタビュー形式の番組「ホワイ・イズ・ディス・ハプニング?(Why Is This Happening?)」を毎週放送している。さらに昨年秋にはレイチェル・マドー・ショーが元副大統領のスピロ・アグニュー氏に関する7部構成の物語仕立てのポッドキャスト番組、「バッグ・マン(Bag Man)」を制作した。

こうした放送は実験的なものだったが、結果は手応えのあるものだったとリックティーグ氏は明かす。「バッグ・マン」は開始から2カ月で1000万以上のダウンロードを記録した。「ホワイ・イズ・ディス・ハプニング?」はすでに番組の生収録のチケット販売を開始しており、今年も小規模ながらツアーを実施している。同番組は毎月2300万ほどのダウンロードを実現している。

チャンスが拡大している



リックティーグ氏はいま、同社の既存番組やパーソナリティを核としたさらなるポッドキャスト番組を制作するチャンスが拡大していると見ている。同氏は現在の役職についた2018年11月からNBCニュースとMSNBC社内および周囲の30名以上の意思決定者と会合を重ね、音声番組を意思決定者のワークフローにどのように組み込めるかを模索してきた。

「ポッドキャストチームが、ただのちょっと変わった小さな取り組みだと思われるのは避けたかった。ポッドキャストが重荷にならないように制作する方法を模索するため、あらゆる手段を尽くしてきた」と、同氏は語る。

ポッドキャスト分析企業のポッドトラック(Podtrac)で、アナリティクス部門のバイスプレジデントを務めるベルベット・ビアード氏によると、ポッドキャストがメディアとして成長を続けるなか、過去2年でもっとも人気を獲得したコンテンツはニュースと政治だったという。

選挙の時期になるとオーディエンスの関心は高まり、テレビとデジタルチャネルには政治広告資金が大量に流入する。ニュース放送局各社はそのチャンスをつかもうと必死だ。これまでポッドキャストにそうした資金が流入することはまれだったが、2020年の選挙では変化の兆しが見られそうだ。ポッドキャストメディアエージェンシーのアドプターメディア(Adopter Media)でCEOを務めるグレン・ルーベンステイン氏は、2018年の選挙シーズンで多数のアドボカシー団体やNGOからポッドキャストの広告購入について問い合わせがあったと明かす。

読み上げ広告の是非



一方で、NBCは番組司会による読み上げ形式の広告を活用しない方針で、リックティーグ氏のグループが制作を支援する番組での収益にも悪影響が出る恐れがある。ポッドキャストの番組司会による読み上げ広告のCPMの相場は25ドル(約2800円)以上だ。番組制作企業やサードパーティが制作した事前録音の広告の場合、CPMは5ドル(約560円)にすぎない。

ルーベンステイン氏はこれについて、「ブランド各社は(芸能人の)パーソナリティとのつながりを求めるものだ」と指摘している。

Max Willens(原文 / 訳:SI Japan)