大型バンなどを、暮らしや仕事の場に利用する人たちがじわじわと増えている。写真は旅をしながら旅行アプリを作っているON THE TRIP のバン(写真:筆者撮影)

車離れが言われて久しい。その一方で移動するツールとして以外に車を使おうという動きが加速している。わかりやすいのは車中泊だ。リーマンショック後の節約志向を受け、安く旅する手段としての車中泊に注目が集まり、2008〜2009年には車中泊をテーマにした雑誌が登場した。

さらに民主党政権下で行われた2010年6月から1年弱の高速道路無料化の社会実験は車中泊経験者を増やすことになった。2011年の東日本大震災以降、熊本地震、西日本豪雨災害、北海道胆振東部地震と時代を追うごとに被災地でのトレーラーハウスの利用が拡大し、北海道では仮設住宅として使われるまでになったことも車内で暮らすことへのイメージを変えた。さらに最近では泊まるだけにとどまらない使い方も出てきている。車中泊はこの先、どこへ向かうのか。

インバウンド旅行者が使う例も増えている

現在、国内にあるキャンピングカーは約11万台。10年ほどで約2倍に増えており、ここ数年は年間数千台ずつ増加している。一般社団法人日本カートラベル推進協会のアンケート調査によると車中泊経験者のうちの46%がキャンピングカー以外で宿泊していることを考えると、市場規模はそれよりはるかに大きい可能性もある。近年の特徴はレンタルが増えていること。インバウンドも含め、旅行者が借りて使うケースが増えているのだ。

だが、問題がある。キャンピングカーを借りても停めて泊まれる場所が少ないのだ。よく利用されるのはオートキャンプ場や道の駅だが、オートキャンプ場は数が限られているし、道の駅は夜間、照明が点いておらず見つけられない、トイレが利用できないなどと宿泊できないケースが少なくないのである。

訪日外国人向けの情報発信、体験コンテンツを企画するNPO法人を主催している宮下晃樹氏がその問題解決のために思いついたのが、車中泊可能な場所のマッチングアプリ「Carstay」だ。夜間使っていない駐車場や空地を登録してもらい、泊まりたい人がアプリ上で予約・利用するというもので、登録から予約、決済までをオンラインで行う。

民泊と違い、部屋はもちろん、寝具などを用意する必要もなく、現時点では旅館業法など該当する法律がないため、許認可も不要。遊んでいる土地が車1台分あり、駐車したところから500m以内に利用可能なトイレがあれば誰でも、どこででも簡単に始められるのが特徴だ。

しかも、このビジネス開始にあたり、三井住友海上火災保険が車中泊旅行者、車中泊事業者向けの保険を業界に先んじて開発し、自動的に付帯する仕組みに。これにより、貸す側、借りる側とも安心して車中泊ができるようになった。


宮下氏が座っているのは軽トラの荷台部分を利用したもので2人分のベッド、仕事用のデスク、収納式のソファ、エアコン、バッテリーが備え付けられており、断熱性能も高い(写真:筆者撮影)

訪日客の困りごと解決から思いついたサービスだったわけだが、このサービスが変えるのはそれだけにとどまらない。

「地方の花火大会やコンサートなど一時的に多くの人が集まるイベントで宿泊施設が足りない場合、あるいはそもそも宿のない場所でもCarstayを導入すれば、一時的に安価に宿泊場所を増やせる。日帰り客より宿泊客が多くお金を落とすことを考えれば、経済効果は大きいはずです」(宮下氏)

定住者ではなく、関係人口を増やす

公共交通機関利用の旅と違い、車での旅には時間の制約がない。そこに泊まるという機能が加われば、旅はさらに自由になる。好きなときに好きな場所に行き、そこに好きなだけ滞在できるようになるのだ。

とすれば、車中泊には地方に人を移動させ、活性化させる力があると言える。車に泊まれるなら、公共交通機関のない、宿もない場所にも行ける。それに泊まれるなら、そこで働ける、暮らせるということにもなる。

Wi‐Fiさえあれば働ける人が増えている今、車中で仕事をする人、なんだったら、そのまま車中で暮らそうという人が出てきても不思議はないのだ。その人たちがあちこちを移動しながら暮らすとしたら、それによって地方は定住とは異なるものの、その地域に関心や愛着を持ち、関わってくれる人の数=関係人口を増やせるのではなかろうか。

実際、そこに思い至り、イベントを開いた自治体がある。茨城県つくば市だ。2019年3月21〜22日に開かれたのは「VANLIFE(バンライフ)」をテーマにした「つくばVAN泊2019」なるイベント。バンライフとはバンタイプの車で働き、暮らす人たちやライフスタイルのことである。

つくば市は「世界のあしたが見えるまち」を標榜しており、同イベントはこれからの生活、社会を考えるための実験の1つ。具体的に意図したのはズバリ、関係人口の増加。つくば市の人口はつくばエクスプレス沿線では増加しているが、広大な市内では人口減少、高齢化、少子化が進むエリアがある。そうしたエリアで関係人口を増やすためにはバンライフを送る人達に選ばれるまちという手があるのではないかという考えである。

イベントには実際にバンで暮らす「バンライファー」が多数集まった。たとえば、つくば市の担当者が1年前に出会い、イベント開催のきっかけになったという渡鳥ジョニー氏は2018年春から永田町のシェアオフィスの駐車場に置いたバンで暮らしている。離婚を機に10年ぶりに戻った東京で家賃の高さや、満員電車にうんざりし、人生に最低限必要なモノは何かを自問自答した結果、それほど多くはないことに気づき、以前から気になっていたバンでの暮らしを選択したという。

10年前と違い、都会ではさまざまなものをシェアする暮らしができる。オフィスやキッチンはシェアオフィスで、洗濯はランドリーサービスで、風呂はジムで、ネットはスマホ、電源はカフェでと考えると、自宅に必要な機能はさほど多くはない。コーヒー、音楽、上質なベッドがあればいいと割切れば中古のバンで十分なのである。

6人乗りバンをDIYし、旅しながら暮らす

しかも、思いついたら好きな場所に移動することもできる。海を眺めながら、鳥のさえずりを聴きながら仕事することも、仕事帰りに温泉に寄ることもでき、眠くなったらそのまま寝てしまえばいい。書いていてうらやましくなる暮らし、働き方である。

渡鳥氏よりもさらに移動を常としてバンに暮らしている人たちもいる。2年前にトラベルオーディオアプリ「ON THE TRIP」というサービスを立ち上げた成瀬勇輝氏と志賀章人氏だ。観光地に滞在して取材するとなると宿泊費や交通費が高くつくが、バンをオフィス兼住宅にしてしまえば金銭的な問題が解決する。そこで6人乗りのバンをDIY、旅しながら仕事をし、暮らしているという。

1カ所での滞在は1〜2カ月というが、オフィス(!)の面白さに興味を持ち、取材した人たちをはじめ、地元の人たちがバンを訪ねてくることも多く、ホテル滞在時とは違う、深い付き合いになるという。これこそ、まさに関係人口増である。

先端の暮らしを実践する人たちの話を聞いていて思ったのは最近増えている二拠点居住、多拠点居住にバンライフを組み合わせれば関係人口増に加え、空き家などの地域の問題にも解決の糸口が見えるのではないかということだ。

例えば空き家問題については、1人が複数の家を使うという考え方がある。地方の家賃や、住宅価格が下がればほかの地域から「別宅」を求めてくるようになるかもしれないが、そこで問題になるのは移動にかかる費用と時間だ。

あらゆる交通費をまとめて月額定額制にするなど大胆な施策があれば、人は移動するようになると思うが、それはあくまでも個人の妄想。行政がそんなことを考えるわけはないだろうから、現実的なのは車利用である。泊まれる車で仕事しながらなら長時間の移動も無駄にはならない。さらに自動運転が実現したら、寝ているうちに別宅に到着という日がくるかもしれない。

もちろん、問題も多数ある。不動産を所有するという経済的、精神的な負担からは自由になるものの、モノへの執着も同時に断ち切らなければバンライフは難しい。最近では断熱材をしっかり入れた一般の住宅以上の性能のあるモバイルハウスも出てきてはいるものの、それ以外では夏は暑く、冬は寒い。ソーラーパネル普及で電気はだいぶ、自由になったというが、まだまだバッテリーは高く、性能も十分ではないという声もある。

オフィス、サウナ、スナックに使っている人も

さらに現時点ではどうしようもないのが水とトイレ。とくにトイレ問題は大きく、バンライファーに女性が少ないのはそのためだ。ポータブルトイレもあるが、狭い空間でのにおい、衛生面の問題を考えると現状の商品では無理がある。

研究機関の集まっているつくばである、一瞬にして排泄物が分解されて粉末になるような技術を開発してくれたりはしないだろうか。災害時にもトイレ問題が深刻であることを考えると、これは決して冗談ではない。バンライフを快適にする技術は災害時の避難生活を快適にする技術でもあるのだ。

また、1人でのバンライフは快適だとしても、それが2人になり、子ども連れになったときにどうするか。住民票や税金その他行政的な問題も多々あるはずで、すべてがすべてバラ色とは思わないが、バンライフに未来の暮らしの糸口があることは確かだ。そこに目をつけ、かつ1985年のつくば科学万博をもじったイベントを開いたつくば市の慧眼(けいがん)には参加者同様、敬意を表したいところである。

ちなみにイベントではバンをオフィス、サウナ、ライブ演奏の舞台、スナックなどとして使っている人が参加しており、ほかの場所では茶室を見たこともある。かくあるべしを取っ払ってしまえば、車は想像以上に自由で楽しく、社会を変える力にもなる。それが売れないというのはどうしたことか。自動車メーカー各社もつくばVAN泊に参加すべきではなかったかと思う。