人口減少時代、敬遠されがちな実家の相続も活用の仕方次第で強力な「節税道具」になる(写真:Blue flash/PIXTA)

相続に関して「うちには財産がないから、相続税は関係ない」と、多くの人が思っていることでしょう。しかし、2015年の相続税の改正で基礎控除額(非課税枠)が減少したことで、課税対象者は増加しています。実際、国税庁の調査によると、2014年までは4%前後で推移していた課税対象者の割合が、2015年には2倍の8%まで上昇していることがわかります。

このように、遺産相続は一部の資産家の話だけではなくなりつつあります。ざっくり言えば、10人に1人が対象になっているとみていいでしょう。そこで今回、そもそも遺産は「誰が、いくら相続できるのか」という基本のほかに、遺産の中でも大きな割合を占める「持ち家を利用した節税方法」を紹介していきます。

子供がいない夫婦でも、配偶者はすべてを相続できない

まず、一般的な家族構成から「誰が相続人になるのか」を見ていきましょう。亡くなった方が「独身者(子どもなし)か、既婚者か」によって、相続人(法定相続人)は変わってきます。

既婚者の場合、遺産の2分の1を配偶者が受け取り、娘、息子がいれば、残りの2分の1を均等に分け合います。もし娘、息子がすでに亡くなっていたら、その子ども(亡くなった方にとって孫にあたる人)が代襲相続人として、遺産を受け取ることになります。

一方、配偶者はいても子どもがいない場合、配偶者が受け取る割合は3分の2に増え、残りの3分の1は亡くなった方の両親が受け取ります。その両親が亡くなっている場合、配偶者が受け取る割合は4分の3に増え、残りの4分の1は亡くなった方の兄弟が受け取ることになります。

このように、既婚者の場合、配偶者の法定相続人としての地位は確かなものになっていますが、子どもがいない場合、法律上ではすべての遺産を相続できるわけではないのです。

では、相続税はどうやって決まるのでしょうか。そもそも相続税は、基礎控除額の範囲内であれば非課税です。基礎控除額は2015年の相続税改正前は「5000万円+1000万円×法定相続人の数」でしたが、改正後は「3000万円+600万円×法定相続人の数」と縮小しました。法定相続人に該当する人が1人の場合、6000万円だった非課税枠は3600万円まで減額されたことになります。

無条件に控除される3000万円のほか、法定相続人の数によって非課税枠は増減します。基本的には相続人に該当する人数が増えるほど、非課税枠は広がります。基礎控除額を計算する際に含まれる法定相続人の数は、実子がいる場合は「養子は1人まで」「相続を放棄した者も人数に含める」などの条件があります。こうして、相続される遺産総額が基礎控除額を超えた場合、所定の計算に基づいて下記の通り相続税がかかります。

法定相続分に応ずる
取得金額
税率控除額 1000万円以下10% ― 3000万円以下15% 50万円 5000万円以下20% 200万円 1億円以下30% 700万円 2億円以下40% 1700万円 3億円以下45% 2700万円 6億円以下50% 4200万円 6億円超55% 7200万円

※相続税の速算表。国税庁のHPより

ただし、配偶者が相続する遺産に関しては、「1億6000万円」、もしくは「配偶者の法律上の相続分に該当する金額」のどちらか多い金額まで相続税はかかりません。つまり、遺言によって配偶者が相続する金額が1億6000万円を超え、なおかつ、法律にのっとった相続額以上の遺産を受け取るという例外を除いて、配偶者には相続税はかからないと考えていいでしょう。

持ち家の評価額を減額できる特例とは?

相続する遺産は、預貯金や株などの金融資産はもちろん、持ち家などの不動産も含まれます。人口が減少する時代でも、処分に困る田舎ではなく、立地のいい場所に実家があれば、それなりの資産になります。

こうした持ち家は、評価額(相続税を計算するときに算出する土地や建物の値段)次第では非課税枠を大きく超えてきます。しかし、そういった不動産は「小規模宅地等の特例」を利用することで、遺産に含めるべき土地の評価額を減額できるのです。

小規模宅地等の特例とは、「居住用の土地であれば、敷地面積330m²を限度に土地の評価額を80%減額できる」というものです。仮に、330m²未満で評価額5000万円の土地の場合、「5000万円×20%=1000万円」となるので減額後の1000万円が相続される遺産に加算されます。

ただ、この特例は、所定の条件を満たしていないと活用できません。まず、配偶者は原則無条件で同特例を利用できます。また子どもの場合は「親と同居している」、もしくは同居していなくとも、「現在、所有する持ち家がなく、相続発生日から逆算して3年以上賃貸暮らし」の場合も利用できます。

なお、この特例を利用する際は、相続税の申告書に同特例を受ける旨の記載と、計算明細書や遺産分割協議書の写しなどの書類を提出する必要があります。

一方、相続する側がすでに持ち家を所有していたり、配偶者名義の家に住んでいたりする場合、この特例は利用できません。

では、モデルケースを見てみましょう。母がすでに他界、父が1人で評価額4000万円の土地(300m²)に、評価額1000万円の建物で暮らしていて、独身の1人娘は3年以上賃貸で暮らしているとします。しばらくして父が他界し、土地と建物、さらに父の預貯金1000万円に相続が発生した場合、娘はどれくらいの相続税を支払う必要があるでしょうか。

特例適用後の遺産総額は「土地4000万円×(20%)+建物1000万円+預貯金1000万円=2800万円」。ここから基礎控除額を引くと、「2800万円−(3000万円+600万円×1)=−800万円」です。遺産の総額が基礎控除額を下回るため、非課税となります。

では、仮に娘が結婚していて、夫名義の家に暮らしている場合はどうなるでしょうか。特例の適用はありません。つまり、遺産総額は「4000万円+1000万円+1000万円=6000万円」。ここから基礎控除額を引くと「6000万円−(3000万円+600万円×1)=2400万円」となり、2400万円に対して相続税がかかることになります。前述した速算表を基に単純計算すると、相続税額は「2400万円×15%−50万円=310万円」。特例の適用条件を満たしているかどうかで、相続税額は大きく変わることがわかります。

夫名義の持ち家暮らしで特例が使えない際の裏技

前述した条件に当てはまらない場合でも、空き家となっている家を賃貸物件として貸し出し、相続開始前から3年以上経過していれば、「200m²までの部分については50%まで評価額を減額する」ことができます。すでに、親が子どもの持ち家で同居しており、実家は空き家状態となっている場合は、第三者に貸し出すのも節税方法の1つです。

また、将来的に近隣の再開発などで評価額が上がる可能性の高い不動産に関しては、「相続時精算課税制度」を利用して、「生前贈与」しておくと節税メリットを享受できます。

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母もしくは祖父母から20歳以上の子どもや孫に財産を贈与する際に、2500万円までの特別控除が受けられる制度です。

この制度を適用後に相続が発生した場合、生前贈与時の評価額が遺産の総額に加算されます。そのため、将来的に評価額が上がる可能性の高いエリアの土地や、毎年収益が見込める賃貸アパートなどの不動産は生前贈与しておくことで、節税メリットを受けられる可能性が高いのです。ただし、先に説明した「小規模宅地等の特例」とは併用できませんので、注意しましょう。

このように、遺産の中でも金額の大きい不動産も、さまざまな特例の利用で節税効果が期待できます。万が一、相続が発生した場合に備えて、今一度、所定の条件に該当するかを確認してみてはいかがでしょうか。

(取材協力:中村太郎税理士事務所)