「ポストゴーン」ひとまず決着だが…(2014年撮影)

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カルロス・ゴーン元会長の逮捕を機に、一気に不協和音が噴出した日産自動車、仏ルノー、三菱自動車の3社連合。いっときは「離婚」すらささやかれながら、ひとまずはパートナー関係を継続することで話がまとまった。

いったい、どんな思惑が。そこには、自動車業界の変革を見据えた、各社の打算があった。

根深い対立をひとまず「棚上げ」

日産とルノー、三菱が、3社連合の新たな意思決定の仕組み構築を明らかにしたのは、2019年3月12日。提携戦略を決める新たな会議体を設置すると発表した。合議での意思決定を打ち出し、3社を束ねてきたカルロス・ゴーン被告による「独裁体制」脱却を図る。

日産・ルノー間には資本関係のあり方を巡り根深い対立があるが、いったん棚上げして融和を優先した格好となる。

詳細の説明のため、ルノーのジャンドミニク・スナール会長、ティエリー・ボロレ最高経営責任者(CEO)、日産の西川広人社長兼CEO、三菱自の益子修会長兼CEOは横浜市内の日産本社でそろって記者会見を行った。2018年11月にゴーン元会長が逮捕されて以降、3社首脳がそろって記者会見するのは初めてだ。結束を内外にアピールしたいとの思いが透ける。

新たな会議体は「アライアンス・オペレーティング・ボード」。ルノーの会長とCEO、日産のCEO、三菱自のCEOの4人を中心に構成し、ルノー会長が議長を務める。部品の購買や研究開発、生産など、幅広く協業戦略を練る。意思決定はボードメンバーの合意により行う。毎月、パリまたは東京・横浜で定期開催する。

連合内に二つある統括会社はゴーン被告の指示で不透明な報酬が支払われたとされる。今回、不正の温床となったといわれる2社の機能を事実上停止し、アライアンス・ボードに集約する。スナ―ル氏は「単に体制を再構築するだけでなく、発足当初の精神を取り戻す」と意欲を示した。西川氏も「アライアンスの安定に非常に大きな一歩だ」と意義を協調した。

スナール氏が「日産会長」諦めて歩み寄り

ゴーン元会長が逮捕される前から、日産・ルノー間には資本関係を巡り確執があった。ルノーは日産株の約43%を保有するが、そのルノーの筆頭株主は仏政府だ。仏政府は産業発展や国内雇用拡大のため、日産を経営統合して傘下に収めるよう圧力をかけてきた。実際、3月18日付の日本経済新聞は、スナール氏がインタビューに対し「仏政府から連合を後戻りできない不可逆な関係にするよう伝えられたことを認めた」と報じた。

一方、日産はルノーに飲み込まれることを警戒。約20年前の経営危機をルノーに救ってもらったのは事実だが、今や世界販売台数はルノーを大きく上回っているのに、ルノー株の約15%しか保有しておらず、しかも議決権がないのは不平等だ――と考えている。

ゴーン前会長逮捕後、ルノーは空席となった日産の会長ポストをほしがり、日産の反発を招いた。12日の記者会見で、スナ―ル氏はこの点について「私は日産の会長になろうとは思っていない。(取締役会)副議長の候補には適していると思う」と譲歩した。

歩み寄った背景には、3社連合なしには世界で戦えないという現実がある。2018年の3社連合の世界販売台数は1075万台と、独フォルクスワーゲン(VW)に次ぐ2位につけている。内訳はルノー388万台、日産565万台、三菱自121万台で、単独で容易に生き残れる規模ではない。自動車業界は、自動運転や電動化など「100年に一度」の大変革期にあるとされる。協業が停滞して、経営判断が遅れれば、取り返しのつかない事態になりかねない。

もっとも、日産・ルノー双方とも現状の資本関係に納得しているわけではない。対立の火種はくすぶり続けることになる。