自分がどこまで行けるのかに興味がある。24歳のイラストレーター・loundrawが追う“表現”の世界

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2015年に発売し、累計発行部数が260万部を突破した住野よるの小説『君の膵臓をたべたい』(双葉社)。内容もさることながら、その美しい表紙に目を奪われた人も少なくなかったのではないだろうか。

このイラストを手掛けた“張本人”こそ、新進気鋭のクリエイター・loundraw(ラウンドロー)だ。

高校卒業後にイラストレーターとしてデビューした彼の経歴はとても華々しい。佐野徹夜の『君は月夜に光り輝く』(KADOKAWA)などさまざまな小説の装丁を手掛けたほか、劇場版アニメ『名探偵コナン ゼロの執行人』(2018年)のイメージボードを担当するなど活動の範囲は多岐に渡る。

そんな順風満帆に見えるクリエイターは、小説へも新たな表現の場を広げた。新刊のプレスリリースに添えられていたのは「自分の中にあるストーリーとモノローグを形にしたいと思ってきました」という言葉。

イラストだけに飽き足らず言葉の世界へも足を踏み入れた彼は、一体何者なのだろうか。

想像できない天才に近づいてみると、繊細でクレバーなひとりの青年が見えてきた。

撮影/玉井美世子 取材・文/坂井彩花

絵を嫌いになる可能性も考えて人生計画を立てていた

loundrawさんは “新進気鋭のクリエイター”などと評されることが多いと思うのですが、ご自身ではどのように受け止めていますか?
名誉あることだと思っています。「とても期待していただいているんだな」と。気負いはないですが、緊張はします。
過小、妥当、過大で表すと。
どの側面もあるので難しいですね。やらせていただいた仕事を“新進気鋭”と呼ばれるものにしたい。そのために努力している部分はあるかもしれません。

ですが、僕にも実力が足りない部分はまだまだあるので。それを踏まえると“新進気鋭”という言葉に応え切れているとは思えないですね。
まだまだできる。
そうですね。
劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』(イメージボード,2018)
そもそもイラストを仕事にしようと思ったのは、いつ頃だったんですか?
決意したのは大学3年生の終わりです。「仕事にできたらいいな…」というのは、高校生の頃から思っていました。
loundrawさんの背中を押されるきっかけが、高校生から大学3年の終わりのあいだにあったわけですね。
いろいろな方から「東京に来るなら応援するよ」とお声掛けいただいたんです。とても貴重な機会ですし、上京して仕事として頑張ってみてもいいかなと思いました。
なるほど。でも“応援してもらえる”という理由だけだと、すべてを計算してイラストを緻密に作り込むloundrawさんのような人は動かないと勝手に思っているのですが、他にも勝算や計画みたいなものをお持ちだったんじゃないんですか?
たとえば、絵を嫌いになってしまうという可能性もあるわけですし、まったく予想がつかない状況に対して、可能性を見積もるという意味での計画は緻密に立てていました。先が見えないと動けない臆病な部分も自分の中にはあるので。

ただ、loundrawという作家がどこまでいけるか、挑戦してみる価値はきっとあるなと思ったんです。それに、そもそも両親にイラストを仕事にしてみたいと打ち明けたのが大学卒業の直前でしたから、上京する前はいろいろとありましたね(笑)。
“絵を描くことが嫌いになるかもしれない”という想定があったんですね。
上京前の時点で楽しいと感じるのと同じくらい、つらいと感じた瞬間もたくさんありましたから。予期しない事態が重なって「もう描きたくないな」と思うことは普通にあり得ることだなと。
いままでも、あと一歩で嫌になってしまいそうになった経験をお持ちなんですか?
ありますよ。僕はメンタルが弱いので、少し悩みごとがあると絵が描けなくなりますね。
それがパフォーマンスに影響しないのは本当にスゴいですね。
見えないところで必死に自分を補強しているので(笑)。
世間の抱いているloundraw像と実際はズレていると思いますか?
それはすごくあると思います。loundrawというのはすごく整って見えるかもしれませんし、そうありたいのですが、実際の僕はそんな完璧な人間ではありませんから。

イラストは一瞬。小説はその一瞬を補う手段

そもそもloundrawさんにとって“イラスト”とは?
自分の中心にある特別な存在ですね。イラストレーターとしてのキャリアがなければ、小説やアニメにチャレンジする機会もいただけなかったと思うので。イラストにひもづいたloundrawというものは、なくさず大切にしていきたいです。
いままでたくさんのイラストを描かれていると思うんですけど、特に思い入れが深いものをあえて挙げるならどの作品でしょうか?
ひとつ目は小説『君は月夜に光り輝く』の表紙。ご依頼をいただいたのが卒業制作でアニメ(『夢が覚めるまで』)を作っている時期でもあり、スケジュールがすごくタイトでしたが、本を読ませていただいて「これはやるべきだな」と。

著者の佐野徹夜さんの強い思いを感じる作品で、自分自身も作家としての死力を尽くした特別な1枚です。
『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜,KADOKAWA,2017)
もうひとつは『GIRLS DON‘T CRY』と呼ばれる、女の子が砂浜で膝立ちしているイラスト。上京する前に所属事務所のイベントで手掛けたもので、今でも「この絵が好き」と言われることがすごく多くて。自分の中でひとつの基準になっている作品です。
『GIRLS DON’T CRY』(2.5Dpresents「GIRLS DON’T CRY」メインビジュアル)
2月28日に発売された小説『イミテーションと極彩色のグレー』(KADOKAWA)は、イラストから小説へと活動の幅を広げた作品になりましたよね。実際に執筆をしてみていかがでしたか?
とても難しかったですね。連載が始まってから完成するまでに丸1年かかっていますし、学ぶことばかりでした。
『イミテーションと極彩色のグレー』(loundraw,KADOKAWA,2018)
小説の構想は以前からお持ちだったのでしょうか?
全然ありませんでした。「小説を書いてみませんか」とお話をいただいてから考え始めたので。
プレスリリースで「自分の中にあるストーリーとモノローグを形にしたいと思ってきました」というコメントを書かれていたので、てっきり書きたいものがあるのだと思っていました。
イラストの表現とは違う手法で解像度の高い作品を手掛けてみたい、という意味ですね。イラストは瞬間の中にメッセージを込める芸術なので。僕にはキャラクターが何を思ってるかなどの具体的なイメージはありますが、それをイラストに落とし込むには限界がある。

その点、小説はそこを補える媒体だと思うんですよ。人物、風景に時間軸を足して、より繊細にloundrawとしての世界観を表現してみたかったんです。
なるほど。より鮮明な世界を小説という形で描くうえで、やはり“生みの苦しみ”のようなものはあったのでしょうか?
小説における“loundrawらしさ”は、すごく悩みましたね。イラストにおいては自分が信じたものを描けばloundrawのものになりますが、文章表現はこれまで培ってきた作家性から離れている。本質的なloundrawらしさにあたる考え方を、いかに違う媒体へ落とし込むかということに苦心しました。
イラストの真髄にあるloundrawっぽさを転化した作品が今回の小説になっていると。
そうですね。単純に色や光の表現が多いというのもありますが、僕のキャラクターたちがちゃんとその世界に生きている作品を書けたと思います。
『イミテーションと極彩色のグレー』(キービジュアル)
小説を執筆してみてイラストを描くこととの共通点や相違点は、どのようなところに感じましたか?
似ている点は“表現”というくくりの中で、受け手に届いたものがすべてだというところ。違う点は、情報量ですね。僕は物語やシーンがビジュアルで浮かぶタイプで。

たとえば、ある人物がこちらを振り返ったとして、その振り返り方にはその人を表すさまざまな情報が込められているはずですが、それを言葉に直すと“振り返る”や“瞬く”などの単語に収まってしまうんですよ。だからといって、その一語を細かく説明しすぎるとしつこくなってしまう。

読者の方に想像の幅をどこまで委ねるかがイラストと小説の大きく違うところな気がしますし、僕が心砕いた点ですね。
ご自身が作品を手掛けるうえで大切にされている“余白”をどこまで残すかという葛藤ですね。
はい。
では、注目してほしいポイントも“余白”でしょうか?
余白ももちろんですが、やはりストーリーそのものを楽しんでいただきたいですね。ラブストーリーといいつつも、それだけではない構成になっていますので。

“表現”は自分の承認欲求を満たすためのもの

これまでイラストや小説に対する思いをお伺いしてきましたが、loundrawさんにとって“表現”とはどのようなものですか?
ひとつは承認欲求を満たすためのもの、自分の精神的な柱ですね。風邪をひいて絵が描けなくなったりすると、なぜ自分は生きてるのかなと考えたりもしますし(笑)。
ネガティブですね(笑)。もうひとつは?
自分と世界をつなぐものです。自分の考えを発信したり社会と関わっていくための手段として、すごく大きい部分を占めていると思います。
loundrawのイラストノート。
loundrawさんの作品は押し付けがましくない印象があるので、「表現は承認欲求を満たすためのもの」という答えが返ってきたのは意外でした。
僕自身、「共感してほしい」と強く要求するタイプの人に対して、あまり前向きに関われない部分があったりして。なので、ちゃんと一線を引いたうえで、自分がしたいことを嫌味なく実現できる距離感を保っているという感じです。
“計算づく”の距離感で表現をしている、ということですね。
そうかもしれないです。もちろん「わかって欲しい」と思うこともあります。ですが、自分の中でこらえてこそ、純粋に作品で伝えてこそ、巡り巡って理解してもらえると気付いたので。そういうところは大切にしていきたいですね。
オリジナルイラスト『Summer Ghost』
表現するにあたって、一貫した決まりのようなものはありますか?
事象の単純な一点を切り取るのではなく、存在している背景まで含めて描くというのは、ジャンルに関わらず共通しているポリシーかと思います。
“余白を重視する”ということですね。
そうです。
でも“余白を重視する”には普段からそういう視点を持って生活をしていないと、作品にも落とし込めない気がするのですが。loundrawさんの目には、日常がどのように映っているのでしょうか?
ものの裏側を考えることは、日常的にしていますね。世の中のどんなことにも意図はあるはずなので。

たとえば、どんな会話にも意図的に言葉が選ばれているように、表面上には現れない思考が世の中にはたくさん存在する。事象の裏には複雑な背景がたくさんあるはずというのが、僕の考えです。個人的には普通に過ごしているけれども、無意識に生活の余白を意識してるという感じです。
『ここにすべて残して』(MdN9月号『マンガ雑誌をMdNがつくってみた』スペシャル企画「loundraw×最果タヒ」)
すごいですね。loundrawさんはどういうきっかけがあってそのような考え方に行き着いたんですか?
それは生い立ちに関係があるのかなと思っていて。僕の家系は学術関係の仕事に就いている人が非常に多くて、幼い頃から理詰めで話をすることがほとんどでした。

そのような環境で育ってきたので、物事の意図や理由を考えることが当たり前になったのかなと思います。本当に真剣に意識できるようになったのは最近になってからですが(笑)。

“イラストレーター”という肩書きに執着はない

いろいろお話を伺ってloundrawさんって表現者たる人だと感じましたが、イラストへの執着みたいなものって実はあまりないのでしょうか?
そうですね。もともとが理系なので、構造を理解するのが好きなんです。どういう配色をすると楽しい印象の絵になるかとか、どういう和音にすると悲しいイメージの曲になるのかとか。そのような構造理解の面白さを特に感じたのが、芸術分野でした。
ということは、イラストレーター以外の肩書きになることも?
大いにありえますね。なんでもやります、というのも僕の信念のひとつなので。ジャンルをまたいで活動するからこそ自分に落とし込めることもたくさんありますから。

僕のイラストを好きと言ってくださる方がいて、そしたら次は時間軸のあるアニメ表現に活用しようと思ったり、アニメの気付きを小説に活かしたり。そのようなトライ&エラーがloundrawを成長させてくれると信じています。
いま目指している“loundraw像”は、どのようなものでしょう?
ジャンルは問わず、いいものをどこまでも突き詰めたいですね。他の人と比べてどうこうよりも、自分がどこまで行けるかに興味があります。時間が許す限り、より最高なものを更新していきたいというのが、loundrawとしての目標のひとつ。

もうひとつは、作り方のフローを共有したり作品づくりの環境を整えたり、表現するということになるべく深い部分から関わっていきたいですね。そういった制作の裏側まで含めた積み重ねがloundrawの総評になればいいなと思ってます。
ということは、教える側に立つかもしれない…?
機会さえあれば、僕はありですね。いままで自分が学んできたことを、次の世代に還元していきたい。未来でさらにいいものを作って欲しいので。
他にこれからやってみたいことはありますか?
いろいろなことに挑戦させていただいているので、ひとまずはやり切った気がしています。その中で初めて知ったことがたくさんあるので、いまはひとつずつをしっかり掘り下げていきたいですね。そうしていく中で、他にやりたいことが出てくるということもあると思うので。
loundraw(ラウンドロー)
1994年生まれ。福井県出身。
イラストレーターとして10代で商業デビュー。透明感、空気感のある色彩と、被写界深度を用いた緻密な空間設計を魅力とし、様々な作品の装画を担当する。2017年9月には自身初の個展『夜明けより前の君へ』を開催。2018年7月、監督・脚本・演出・レイアウト・原画・動画・背景を手がけ、声優・下野紘、雨宮天らが参加した卒業制作オリジナルアニメーション『夢が覚めるまで』がバイラルヒット。ほか、小説『イミテーションと極彩色のグレー』、漫画『あおぞらとくもりぞら』(いずれもKADOKAWA)の執筆、アーティスト集団・CHRONICLEでの音楽活動など、多岐にわたる。2019年1月にアニメスタジオ「FLAT STUDIO」を設立。

サイン入り本プレゼント

今回インタビューをさせていただいた、loundrawさんのサイン入り小説『イミテーションと極彩色のグレー』を抽選で1名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2019年3月25日(月)20:00〜3月31日(日)20:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/4月1日(月)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから4月1日(月)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき4月4日(木)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
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