人間ドック受診助成金交付申請方法の案内(品川区ホームページより)

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 年度末から新年度にかけ、役所の窓口で何らかの届け出をする人も多いことと思います。そんなとき、印鑑を押す欄に「シヤチハタ不可」と注意書きがあるケースがあります。朱肉が要らない便利な「シヤチハタ」が不可とされるのは、「大量生産で印影が同じものがあるから?」と考えられそうですが、一方では、100円均一ショップなどで売られている、いわゆる「三文判」はOKというケースが多いようです。

 なぜ「シヤチハタ」は不可で、「100均ハンコ」はOKなのでしょうか。区役所と弁護士、当事者に聞きました。

区役所「ゴム製で印影変形の恐れ」

 東京都品川区のホームページに「シヤチハタ不可」の注意書きがあります。国民健康保険などの加入者向けに、人間ドック受診費用の助成をする制度の案内です。担当する国保医療年金課に聞きました。

Q.窓口申請時の持参物に「印鑑(シヤチハタ不可)」とあります。なぜ、不可なのですか。

担当者「条例などでは決まっていませんが、事務処理上の慣習です。『シヤチハタ』は(印面が)ゴム製で、印影が変形してしまう可能性があるので不可としています」

Q.シヤチハタ社製以外のゴム製の印鑑もありますが、扱いは同じですか。

担当者「変形の恐れがあるので、同じく不可の扱いです。代表的なものとして『シヤチハタ』を挙げています」

Q.100円均一ショップで売っているような、大量生産の印鑑はよいのでしょうか。簡単になりすましができそうですが。

担当者「印鑑の種類は決まっていません。なりすましについては、保険証など複数の方法で本人確認をしているので大丈夫だと思います」

Q.印鑑を忘れた場合、サイン(署名)ではダメなのでしょうか。サインの方が本人確認にはよさそうです。

担当者「事務処理上の慣習で、請求書などには押印をお願いしています。ただ、『サインではダメか』と質問されたら、ダメとは言えません。拒否はしていませんが、お金を扱うことなので、本人確認をきちんとした上で対応しています」

弁護士「法的効力は認められる」

 次に「シヤチハタ」などの法的効力について、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

Q.まず、印鑑の種類を教えてください。

牧野さん「印鑑には、『実印』とそれ以外の『認め印』があります。実印は、住民登録している市区町村役場に印鑑登録し、その印鑑の印鑑証明書が発行される印のことをいいます。実印は、登記や住宅購入、相続など重要な取引の際に使用するので、同じ印影のものが大量に作られる三文判は避けた方がよいです。三文判やシヤチハタは認め印として、一般の社内文書や宅配便の受け取りの際に使われることが多いです」

Q.認め印として使用する場合でも、「シヤチハタは不可だが、三文判はよい」と役所などで言われることがあります。なぜでしょうか。

牧野さん「原則として、印鑑が何であっても、文書が作成者の意思に基づいて作成されていれば、法的には有効です。ただし、シヤチハタなどの浸透印は印面がゴム製です。三文判と違って印面・印影が変形してしまう可能性があるため、禁止している役所があると考えられます」

Q.では、シヤチハタを押した書類には法的効力はないのでしょうか。

牧野さん「繰り返しになりますが、印鑑が何であっても、文書が作成者の意思に基づいて作成されていれば、法的には有効です。シヤチハタを押した書類であっても、文書が作成者の意思に基づいて作成されていれば法的効力は認められます。三文判もシヤチハタも高級印鑑も、印鑑自体の法的効果に変わりはありません。ただし、シヤチハタや三文判は『同じ印影のものが大量に作られるもの』なので、偽造されて本人になりすまされる恐れがあります」

Q.「シヤチハタ不可」と言われて、三文判も手元にない場合、署名でもよさそうですが認められないことがあるようです。署名に法的効力はないのでしょうか。

牧野さん「『署名』は本人が名前を自署することを指します。署名をすれば、押印なしでも法的効力はありますが、日本では一般的に署名にも押印することが通例になっています」

「シヤチハタ」も、条件付きながら法的効力は認められるようです。それにしても、「シヤチハタ不可」とさまざまな場所で書かれ、当のメーカーはどう思っているのでしょうか。

「不可」と言われても「大変ありがたい」

 シヤチハタ(名古屋市西区)の広報担当者に聞きました。

Q.公的申請の書類に「シヤチハタ不可」とあるものが多いです。

担当者「シヤチハタのネーム印は、印面の素材にゴムを使用しています。各市区町村が定める『印鑑条例』では、ゴム印など変形しやすいものは印鑑登録できないことになっています。弊社でも発売当初から、『印鑑証明には使用しないでください』とうたっています」

Q.印鑑登録以外でも不可とされる場合があります。

担当者「やはり、ゴム印だからだと思います」

Q.同じ仕組みのゴム印は他社製もあるのに、「シヤチハタ不可」と言われるのをどのように思いますか。

担当者「浸透印の代名詞となっていることは、大変ありがたい話です。『シヤチハタ製浸透印は不可』という意味で使っていただけるなら、ずっと言ってほしいと思っています」

Q.ちなみに、本当の商品名は「ネーム9」ですね。

担当者「商品に“shachihata”と入っていたので、『シヤチハタ』と呼ばれるようになったのだと思います」

Q.名前の由来は。「ヤ」が大文字なのは、なぜですか。

担当者「商標登録をする際、日の丸を商標にしようとしましたが、国旗を商標に使ってはいけないと指摘を受け、地元名古屋のシンボルでもある名古屋城の鯱(シャチ)を日の丸の中に収め、『鯱旗印(しゃちはたじるし)』としたのが始まりです。『ヤ』を大きくしたのは、社名ブランドとして認知されやすいよう、また、文字のバランスを考慮してのことです」