第68回NHK杯テレビ将棋トーナメントの決勝戦(3月17日放映)は、羽生善治九段(48)と郷田真隆九段(48)による対戦となり、羽生が勝って自身11回目のNHK杯優勝を果たした。この優勝により、羽生は一般棋戦の優勝回数が45回となり、大山康晴十五世名人と並んでいた44回を抜いて、単独1位となった。

【写真】森内九段を破って12度目の朝日杯優勝を果たした際の羽生九段

 今回のNHK杯戦は羽生と郷田の他に、丸山忠久九段(48)と森内俊之九段(48)のいわゆる「羽生世代」がベスト4に勝ち残って勢ぞろいしたことでも注目を集めた。4名すべてがNHK杯優勝の経験を持つ。


かつて何度もタイトル戦の舞台で競い合った羽生九段(左)と郷田九段(右)。第67期名人戦では、羽生名人(当時)がフルセットの末に防衛を果たした ©共同通信社

最強と言われ続けてきた羽生世代だが……

 羽生世代が同棋戦の上位4名を占めたのは第51回(2001年度)以来となる(優勝・森内、準優勝・佐藤康光九段、ベスト4・羽生、藤井猛九段)。そして、ベスト4が同学年(1970年度生まれ)で占められたのは史上初の快挙となる(上記の佐藤は69年度生まれ)。

 最強と言われ続けてきた羽生世代も40代後半となってからは、盤上で結果を残すことが難しくなってきた。その象徴的な出来事ともいえるのが、昨年末の竜王戦における「羽生、27年ぶりの無冠」だろう。また先月の朝日杯決勝では最年少棋士である藤井聡太七段が2連覇を果たした。これも将棋界の世代交代をより印象付けた感がある。

 そのような状況で、羽生世代がそろってNHK杯で健在を見せつけた。一般的に早指しのテレビ棋戦は、若手有利と言われている。NHK杯のベスト4に40代以上の棋士がそろったのが、第33回以来(優勝・大山、準優勝・加藤一二三九段、ベスト4・大内延介九段、米長邦雄永世棋聖)の、史上2例目であることも、若手有利を示す一つの根拠となると思う。

 そう考えると今回の結果は改めて、「羽生世代」が「史上最強世代」であることを示した事象と言えそうだ。

トーナメントは1度でも負けてしまえば終わり

 羽生の「タイトル通算99期」が他者の追随を許さない偉業であることは論をまたないが、今回の優勝で達成した「一般棋戦優勝45回」もやはり偉大である。なんといっても、挑戦者を待ち受けるタイトル戦とは異なり、トーナメントの途中で1度でも負けてしまえば、次期までチャンスがなくなるからだ。

 一般棋戦優勝回数の上位は以下の通り。

1位・羽生善治、45回
2位・大山康晴、44回
3位・中原誠、28回
4位・加藤一二三、23回
5位・谷川浩司、22回
6位・米長邦雄、16回
7位・内藤國雄、13回
7位・森内俊之、13回
9位・佐藤康光、12回
9位・丸山忠久、12回
11位・丸田祐三、10回
11位・森安秀光、10回
11位・渡辺明、10回

 当たり前だが、通算獲得タイトル数でも上位に名を連ねる棋士が多い。結局、強い棋士はどんな舞台でも強いという、身も蓋もない結論になってしまう。

羽生九段の棋戦優勝、回数が多いのは……

 そして羽生の45回の内訳は以下の通りだ。

朝日杯将棋オープン戦、12回(前身棋戦の全日本プロ将棋トーナメント及び朝日オープン将棋選手権 を含む)
NHK杯テレビ将棋トーナメント、11回
銀河戦、5回
将棋日本シリーズ、5回
新人王戦、1回
オールスター勝ち抜き戦、4回
早指し将棋選手権、3回
天王戦、2回
若獅子戦、2回

 上記のうち、オールスター勝ち抜き戦以下の4棋戦は、現在行われていない。現行棋戦で羽生が優勝していないのは、参加資格がない若手棋戦の加古川青流戦と上州YAMADAチャレンジ杯を除くと、第3期よりタイトル戦に昇格した叡王戦だけだ。

 そして羽生が1期以上参加して優勝経験がないのは名将戦、早指し新鋭戦、大和証券杯ネット将棋最強戦という3つの終了棋戦である。さすがの羽生と言えども、棋戦優勝コンプリートは無理だったが、上記の3棋戦で最多参加数は大和証券杯の6回であるので、これは致し方ない(とはいえ、天王戦では6回の参加で2回の優勝を果たしているのだが)。

「史上最強棋士は誰だ?」論争に新たな材料

 一発勝負のトーナメントという意味では、やはりNHK杯の11回優勝が出色だろう(朝日杯の12回は、朝日オープン将棋選手権時代に番勝負の防衛戦が3回あった)。しかもその中には第58〜61回の4連覇が含まれる。トーナメント棋戦の4連覇も不滅の記録と言ってよい。現在継続中の一般棋戦連覇記録は、藤井七段が朝日杯で達成した2連覇があるのみだ。次世代の最強棋士候補は、この連覇記録を超えられるかどうか。

 将棋ファンにとって永遠のテーマともいえる「史上最強棋士は誰だ?」を語る上で、羽生の45回目の優勝は、また新たな材料を提供したともいえる。要するに「大山と羽生はどっちが上?」という点についてだ(他の棋士を史上最強と考える方々からはお叱りを受けそうだが)。

 ハッキリ言ってしまえば、時代やそれにともなう環境が違い過ぎて、比較自体が無理である。大山最強派の主張を想像すると「今と同じだけ棋戦の数があれば、タイトル獲得数も優勝回数も、もっと増えていることは絶対に間違いない」となるだろうし、対して羽生最強派は「昔は参加棋士が少なかったから、現在の優勝のほうが価値が高い」(第1〜15回のNHK杯は参加棋士が8名だった)と主張することもできる。推論としてはどちらも間違ったことを言っているわけではない。

 決着がつかないからこその永遠のテーマであり、無理に結論付けようとするのは無粋と思うのだが、いかがだろうか。

(相崎 修司)