近年増えているという「メイク男子」。どんなきっかけで、彼らはメイクを始めたのでしょうか(写真:Pangaea/PIXTA)

筆者は20年近く若者研究を行ってきましたが、2009年にユーキャン新語・流行語大賞で「草食男子」という言葉がベスト10入りしたのを皮切りに、とくにこの5年、若年男性の間で「女性化現象」が急速に進行していることを感じてきました。

5年前の2014年、一般的にこれまで女性のほうが男性よりも好んで身につけていることが多かったり得意とされてきた領域、例えば、料理やスイーツ、美容、またぬいぐるみを持つことなど、いわゆる「女子力」を身につけ始めた若年男性の増加と実態を『女子力男子』という書籍で紹介しました。

その2年後の2016年には、若年男性の「女性化現象」の一因がバブル世代近辺のママたちにあり、彼女らの息子世代である若年男性の間で引き起こされていること、そしてバブル世代ママとその息子たちの関係性を描いた『ママっ子男子とバブルママ』という本も書きました。

今回はこの若年男性の「女性化現象」の最新事例について、大学生たちがレポートしてくれます。数年前、若年男性の美容に関する「女性化現象」は、ごく一部のとがった若者を除きスキンケアにとどまっていましたが、最近ではかなり多くの若年男性の間でメイク領域にまで進行し始めているようです。

メイク男子の実際とは?

最近の若者の中には、「メイク男子」と呼ばれる人が増えてきている。文字どおり、多くの女性と同じようにメイクを施す男性の事だ。


今回リポートしてくれる大学生たち。写真左から、上迫凜香(上智大学2年)、小野里奈々(法政大学2年)、金武弘花(明治大学2年)、正田郁仁(法政大学 経営学部市場経営学科2年)

メイク男子の増加を表すエピソードとして、有名コスメブランドであるTHREEが男性向け(ユニセックス)の化粧品ブランド FIVEISM × THREE(ファイブイズム バイ スリー)を立ち上げた事が挙げられる。われわれがそれを耳にした際、化粧品会社がわざわざ男性用の化粧品を発売するほどにニーズが高まっているということに大きな衝撃を受け、その実態をつかむために調査をすることにした。

われわれは調査をするにあたって1つ仮説を立てていた。それは、メイク男子になる男性は韓流文化が好きな人に多いのではないかということだ。

というのも、韓流文化のうち代表的とも言える、BTSやEXOなどの韓流アイドルグループには、日本の男性アイドルのようなファンデーションなどのみのベースメイクメインでなく、アイラインを引いたりするなどの、比較的派手なメイクをする人が多い。男性でも韓流好きが増えてきている今、そのような韓流アイドルに憧れてメイクを始める男性が増えてきているのではと考えたからだ。

この仮説の下、実際の「メイク男子」たちにインタビューを試みた。なお今回の調査で会った彼らは、メイクをしており見た目は中性的であるものの、それ以外は普通の男子たちだった。

K-pop好きだからこそ惹かれてメイク男子は生まれた?

都内私立大学に通うAさんはもともとK-popが好きで、中でもいちばん好きな韓国アイドルの「PENTAGON」の元メンバー・イドンの外見や服装、アンニュイなアイメイクに惹かれてメイクをするようになったのだそう。

イドンは目元にあえてピンクやレッドなど赤みの強いアイシャドウを用いたり、ブルーやグレーの色素が薄いカラーコンタクトレンズを使うことで、持ち前の肌の白さを強調している。彼のように韓国アイドルのメイクは目元が特徴的で、彼自身韓国メイクをまねしていくうちに、自然と目元を意識したメイクをすることが多くなったのだとか。

韓国人のメイクを意識しているため化粧品も不定期で訪れる韓国でまとめ買いしたものか、3カ月に一度、新大久保で買ったものがほとんど。具体的には「VT」のクッションファンデーション、「innisfree」のメイクアップベース、「エチュードハウス」のアイライナーなどだ。

メイクを始めた当初はYouTubeで”こんどうようぢ”や”とまん”、”よきき”のメイクを動画を参考に、慣れてくるとjosephという韓国のYouTuberのチャンネルも見るようになった。

彼自身、自分で好きなようにメイクをするのは自分に自信を持たせるための道具であり、メイクをしていることが他人にばれる恐怖感はまったく感じないという。

また、メイク以外でスキンケアにも抜かりがない。化粧水と保湿クリームはハトムギ、豆乳イソフラボンの乳液、パナソニック・スチーマーナノケアと、とくに理由はないのだが日本のものをそろえて愛用しているとのこと。

Aさんはグループで音楽活動を行ったり、アパレルでアルバイトをしているそうで「自分が納得できることをやりたい」という意識が強い。メイクを突っ込まれてバイトをやめたこともあるようだが、まったく気にしなかったという経験からそのマインドが見て取れる。メイクは男ウケでも女ウケでもなく完全に自分ウケであり、自分の好きなことをやっているという意識が強そうだ。


インタビューに協力してくれたAさんと彼が使用しているコスメ(写真:Aさん提供)

韓流好きではない「メイク男子」もいる。。

都内国立大学に通うBさんはその一人。ラクロス部に所属しており、長時間の直射日光によって肌が荒れてしまったことを隠したいと思ったのがきっかけだったという。

ネットで調べて、薬局で自らキャンメイクのコンシーラーを買ったが、色が白浮きしてしまった。そこで母親に相談したところ女性に人気のNARSのラディアントクリーミーコンシーラーをくれたため、現在もそれを使っているそうだ。近年の若者たちは、親との仲がとてもよく、特別仲がいい家庭でなくとも母と息子であれこれとたわいのない話をすることが普通になっている。

スキンケアにも力を入れようと思い立ち、クレンジングや化粧水を使った時期もあったが、当時受験生だったこともあり、毎日こまめにやらなければいけないことが負担で長続きしなかった。その後大学生になり、季節の変わり目に肌のコンディションが悪くなることが気になり、9月ごろからスキンケアを生活リズムに組み込むようになった。現在使っているコスメアイテムは、ポイントでカバーするコンシーラーと、滅多に使わない「インテグレート」のパウダーファンデ(ローソンで500円で購入)だという。

Bさんは部活に打ち込んでおり、普段はノーメイクで過ごすことが多い。メイクをするかどうかは、「自分にとって公式な場所かどうか」で分けているそうだ。例えば、誰かの誕生日祝いやデートの日など、特別な日にベースメイクのみしているという。

メイク男子といっても、必ずしもK-popなどが影響しているとは限らず、自分の肌の状態に危機感を感じてというケースもあるようだ。

彼はがっつりメイクをしているわけではないので、周りの友達にバレることはあまりないが、バレることにはまったく恐怖を感じないそうだ。メイクをすることに対して、周りからどう思われようと自分にとって「身だしなみの一環」として捉えているため、そこまで気にしておらず、むしろメイクは女子だけのものだとは思っていないらしい。

また、メイクに興味を抱いた際に、身近な女友達から「最近では男子もメイクする人が増えているよ」という肯定的な意見をもらったこともメイクに挑戦してみる後押しのひとつになったようだ。


インタビューに協力してくれたBさん(写真:Bさん提供)

美を求めるが故に生まれたメイク男子

都内私立大学で演劇サークルに所属しているCさんは、TPOに応じてメイクを使い分けている。

舞台のときはアイメイクは濃い色でばっちりきめて、シェーディングもきっちり行うフルメイク。デートやクラブに遊びにいったりするときは下地にファンデーションを重ね、ちょっとしたアイシャドウもほどこす。

一方、学校やバイトに行くときは「そもそもオシャレをする必要がないから」と、まったくメイクはしない。というのも彼自身、メイクは「自分をよりよく見せる手段」と捉えているため、自分を美しく見せたい相手や場所、メイクをする価値があるときにしかメイクをしないのだ。

メイクを始めたきっかけとしては、「肌荒れしたときにこの状態で外に出られない」と思いベースメイクをしたことだったという。乾燥やニキビからくる肌の赤みが気になって、ネットでグリーンのコントロールカバー下地なら赤みを消すことができるという記事を発見。

そこでメディアのグリーンのコントロールカラーを購入。そして、メイクを続けていくうちにすっぴんでは出せないツヤ感に気づき、メイクなしでは外に出られないようになったそうだ。

メイクは自分をより良く見せるもの

Cさんは、「メイクをするようになって自分の肌の状態や、顔のパーツの配置や形に興味を持つようになった。コンプレックスもあるけれど、よりよく見せようという意識が生まれるようになったのはいいことだと思う」と、メイクをしてよかったと語る。

実際、使っている化粧品は「shu uemura」のファンデーション、「ミシャ」のクッションファンデ、「ザセム」のコンシーラー、韓国コスメではCLIOや3CEなどと、女子に劣らずかなり詳しい。

また、Cさん自身が舞台に立っているということもあり、”人から見られている”という意識がほかの男子よりも強い傾向があることも考えられる。そのためかほかの人から視線を浴びることには慣れており、メイクをしていることに対する不安はまったく感じないらしい。むしろ、女友達とメイクに関する情報交換をすることも日常的だそうだ。最近だと「shu uemura」の限定のアイシャドウパレットがかわいいよねという話をしたという。

Cさんの大きな特徴としては、”美意識”がとても高いことだ。寝る前にはディフューザーにお気に入りのフレグランスを入れて、レコードを聴きながら本を読んで寝るのが日課。最先端のスニーカーも好きだが、古い音楽や映画も大好きという彼は「いいものはいい」と、自身が「すてき」と思ったものを積極的に取り入れる。

メイクの参考にしている人は、美肌が特徴的な”車谷セナ”や韓国アイドルのNCTのジェヒョン、SEVENTEENのジョンハン、Wanna Oneのパクジフンと、やはり高い美意識を感じさせる。


インタビューに協力してくれたCさんと、彼の使っている化粧品(写真:Cさん提供)

ここまで、普段からメイクをしている男子にインタビューを行ってきた。そこから感じたのは、まずメイクへの抵抗感はその人が生活している環境に大きく影響を受けているということだ。

韓国のアイドルが好きな人や、アパレルで働いていて普段から感度の高い環境で生活している男子は、メイクへの抵抗感が非常に少ないようだった。また、BさんやCさんのように女友達が多い場合、そのこともメイクへの関心を高めることにつながっていると感じた。

タイプ別に「メイク男子」を考察してみる

そして、メイク男子といってもさまざまなタイプが存在し、それぞれに少しずつ違いがあった。

1つ目は、「メイク濃い派」と「薄い派」である。メイク濃い派は、今回でいうAさんとCさんにあたる。彼らは、例えばK-POPアイドルの〇〇、というようにあこがれの対象を明確に持っている。メイクの情報については、韓流アイドルの写真を見て研究したり、”こんどうようぢ”や”車谷セナ”といったYouTuberの動画を参考にしたりと、自分から積極的に調べることが多い。また、使っているコスメも、韓国コスメからデパートコスメ、安価なプチプラコスメまで多岐にわたり、ブランドではなくYouTuberが使っているなど話題性のあるものが多いように感じた。

対して、メイク薄い派に当たるBさんは、自分をよく見せたいというところからメイクを初めており、お手本や憧れとなる人を持たない。メイクの情報も必要なときにネットで調べる程度で、自分から積極的に調べることはあまりないという。そのため、使っているコスメも、何かのついでに見つけたものが多く、あまりこだわらない。

また、メイク濃い派と薄い派は、メイクに対する捉え方にも違いがあった。メイク濃い派は、メイクを自己表現の一種と捉えており、自分をよく見せるのももちろんだが、自分自身の感性を表現するためのものと捉えているように感じた。しかし、メイク薄い派は、メイクを身だしなみの一環として捉えており、ワックスやヘアアイロンで髪型を整えたりする延長と捉えていた。

そして2つ目は、TPOによってメイク変える派と変えない派である。メイク変える派は、Bさん・Cさんに当たる。Bさんは誰に対して見せるかによってメイクを変え、Cさんは特別な日のみメイクをする。

このように見せたい自分を場によって変えるところは、女の子と似ていて興味深いと感じた。対して変えない派であるAさんは、学校でもバイトでもメイクをするが、いついかなる場でもあまりメイクは変えないという。見せたい自分が一貫しているからかもしれない。

このようにタイプは違えど、「メイク男子」に共通していることもある。それは、もともとの美意識の高さと、他人の目に左右されない生き方を重視するところだ。

美意識の高さはみな人一倍であった。容姿に気を遣い出したのも人より早く、例えば、Cさんは小さい頃に観た『ハウルの動く城』でハウルの美意識の高さに感銘を受けて以来、自分の容姿を意識し出したといい、メイク薄い派のBさんも小5のときからヘアワックスを使い始めたと言っていた。

そして、彼らはみな、他人からメイクをしていると思われることに対し恐怖心を抱いていなかった。

メイク男子である彼らは皆口をそろえて、「他人からどう思われているかより自分がいいと思ったことをすることのほうが価値がある」「他人にとらわれる自分より自分らしさを大切にして思ったことを貫いている人のほうがかっこいい」と述べ、自分はこれでいいと思っているから他人の目は気にならないと語っていた。

SNSが普及し、いつでもどこでも人から見られるようになった今、他人の目を気にしする若者も増えているが、「メイク男子」にはそんなことなど到底どうでもいいらしい。自分らしさを貫く、そんな生き方を尊重する「メイク男子」は今の時代においてはレアケースなのだろうか。

原田の総評:韓流の影響はかなり大きい

大学生たちのレポートはいかがでしたでしょうか。

筆者は先日、青森県むつ市で男子高校生15名に対しヒアリング調査を行いましたが、そこでも「韓流トレンド」が浸透し始めていました。若年女性や東京など大都市部の若年男性のみならず、地方の若年男性の間にまで浸透していることには、大変驚きました。そして、「若年男性における韓流トレンドの浸透」が中心となって、メイク男子の増加が起こっていると感じました。

国同士では日韓関係のぎくしゃくが続いていますが、若年層の間では男女を問わず、音楽、ドラマ、化粧品、メイク法、チーズホットクといったトレンドの食べ物などさまざまなジャンルにおいて、確実に「韓流」は浸透しつつあります。

この5年ほど、日本のさまざまなジャンルの企業が高齢化する国内市場にとらわれ、若者層に向けたサービス開発はなかなか進まなかった、と筆者は感じています。一方の韓国は、もともと人口が少なく国内マーケットだけではビジネスが成り立ちにくいという事情があり、比較的若年層の人口が多い近隣の中国や東南アジアの市場を見てマーケティングをしてきました。その差が起点となって、日本国内で「メイク男子」が増加しているのです。

今、世界全体を見渡すと、若年人口が増える「若者の世紀」になっています。日本企業ももっと国外を見て、若年層に対するマーケティングを行い、その知見を国内の若年層マーケティングにも活かしていくべきではないでしょうか。

また、これまでのように欧米、とくにアメリカのトレンドを追うことにとどまらず、韓国のトレンドをきちんとリサーチすることで、国内の若年層マーケティングをしなくてはいけない時代になっていることを理解しておくことが重要になっています。

今後、「メイク男子の増加現象」に続き、韓流トレンドによって日本の若者の間でどんな変化が起こるのか、注目されます。