新大阪駅の正面口。将来、リニア中央新幹線や北陸新幹線、阪急新線が乗り入れる計画があり、大規模再開発が期待されている(筆者撮影)

大阪市北部に位置する新大阪駅は、東海道・山陽新幹線、東海道本線、大阪メトロ地下鉄御堂筋線が集結する巨大な乗換駅だ。3社の乗降客数は1日40万人を超える。3月16日には、JRおおさか東線新大阪―放出間が開業し、大阪府中南部や奈良駅から直通電車が乗り入れてくる。

近年、東海道・山陽新幹線が好調で利用者は増加傾向にある。リニア中央新幹線や北陸新幹線の乗り入れも決まり、国土交通省は新大阪駅地下に巨大ターミナルを整備するプランを打ち出した。

新幹線ネットワークの結節点として注目されている新大阪駅とその周辺の現況と将来像について見ていこう。

「大阪第2の都心」として開発

新大阪駅の周辺は大阪屈指のビジネス街で、マンションやビジネスホテルも集まっている。

新幹線や特急で東京や名古屋、福岡、金沢、山陰と結ばれているし、大阪空港や関西空港へのアクセスもよい。地下鉄で梅田や難波など大阪中心部への行き来が便利な点も重宝される。東京に本社のある企業の大阪支店、あるいは関西企業の営業拠点としての立地が多いのが特徴的だ。

駅と新幹線ができたのは1964年のこと。大阪市は新大阪地区を「大阪第2の都心」と位置づけた。中心部とつなぐ地下鉄と都市計画道路を整備、市内最大の土地区画整理事業を推進し、巨大な駅前広場を完成させた。

だが、新大阪エリアは、1970年代以降伸び悩む。駅の北西にビジネス街が形成されたが、核となる都市機能の集積が不十分なこともあり、あまり特色のない単調な街並みになってしまった。阪急電鉄は新大阪駅乗り入れのため新幹線ホームの北側に駅用地を確保していたが計画を凍結してしまう。

1990年代以降、新大阪地区のオフィスに空室が目立つようになり、賃料は大幅に下がった。駅構内や駅前広場は開業当時の面影そのままだった。大阪市議会で「陸の玄関があまりにもみすぼらしい」と辛辣な指摘もあった。

新大阪駅の周辺が変わり始めたのは、2010年代になってからだ。

まず、JR西日本は2011年から新大阪発の九州新幹線直通「さくら」「みずほ」の運転をスタートさせ、山陽新幹線の2017年度の運輸収入は2009年度比で30%、新大阪駅の乗車人員は32%増えた。また、利用の低迷していた関空特急の乗車人員がこの10年間で倍増したことで、新大阪駅で乗り降りするインバウンド客は着実に増えてきた。

一方、JR東海は、阪急の新線用地を使って新幹線27番線ホームを増設するなどして運行本数を増やした。東海道新幹線の2017年度の輸送実績(人キロ)は2009年度比で28%増となった。

ビジネス、観光両面で活況

東海道・山陽新幹線と新大阪駅の利用者の増加、そしてビジネス、観光の好調がエリアの活況をもたらした。


未完成の阪急新大阪線用地に、JR東海が27番線ホームなどを整備。阪急は駅予定地に新大阪阪急ビルを建て、新線延伸用のスペースを駐車場にしている(筆者撮影)

阪急が2012年に竣工した新大阪阪急ビルは、地上17階建てでエリアでは10年ぶりの大型物件だった。新駅用に確保していたスペースの有効活用を目指したもので、2階は新設されたJR新大阪駅北口と直結し、1階にバスターミナルがオープンした。2017年以降、駅周辺でビジネスホテルの着工が相次いでいる。

JR東海とJR西日本、地下鉄は相次いで駅構内の大幅リニューアルに取り組み、駅ナカ店舗も充実した。

次のターニングポイントは2023年春だ。新大阪と西九条を結ぶJR東海道線支線が地下化され、大阪駅北側の大規模再開発地「うめきた」地区に北梅田駅(仮称)が完成し、関西空港や和歌山方面行きの特急が乗り入れる。おおさか東線の北梅田駅直通が報道されたこともある。

続いて、2031年春、なにわ筋線が北梅田―JR難波・南海新今宮間に開業する。関空特急がJR東海道線支線・なにわ筋線経由で新大阪駅と関空を40分台で結ぶことになる。

新大阪駅を拠点とする鉄道新線計画も注目されている。

まず、2016年8月、JR東海の柘植康英社長(当時)がリニア新幹線の大阪側終着駅の場所について「新大阪駅」と改めて明言した。

さらに、2017年3月には、与党と国交省が、北陸新幹線の京都・松井山手(駅)付近経由での新大阪駅延伸を決定する。同年4月、阪急は、北梅田―阪急十三間の鉄道新線構想を打ち出した。なにわ筋線と連絡するとともに、新大阪への延長も視野に入れている。

こうして、新大阪を拠点とする4つの鉄道新線プロジェクトが動き出した。ただ、現状、4年後に開業するJR東海道線支線以外の計画は特に何も決まっていない。各社の構想を調整し、どうやってネットワークをつなげていくのか。それが次の課題となる。

JR西日本は、2018年3月に公表した「JR西日本グループ中期経営計画2022」で「新大阪広域ハブ拠点化」を打ち出した。北陸新幹線とリニア新幹線延伸開業を踏まえて、新大阪エリアに集まる交通ネットワークの強化を目指した。

また、国交省は、同年5月、「地方創生回廊中央駅構想」を発表した。新大阪駅の地下に、リニア新幹線と北陸新幹線、そして山陽・九州新幹線のホームを整備するプランだ。2019年度予算で地下ホームの調査費を盛り込んで、設計や需要予測、建設費の試算を行う。

新幹線ホームは容量不足

JRと国の懸念材料として「新大阪駅新幹線ホームの容量不足」がある。

現在の新幹線ホームを管轄するのはJR東海だ。20〜27番線まで8線分あり、規模では同社の東京駅新幹線ホームを上回るが、地上空間にはリニア新幹線が乗り入れるための拡張スペースはない。

一方、JR西日本は、山陽新幹線の運用に苦慮してきた。


新幹線20番線ホームに停車する500系「こだま」。新大阪駅発着の山陽新幹線専用ホームだが、1面しかないのでJR西日本は運用に苦慮している(筆者撮影)

新大阪駅始発の山陽新幹線の多くは20番線から出発する。博多方面へ折り返し運転できる唯一のホームということもあるが、1時間に2本程度しか入線できないので、新大阪始発の「さくら」「みずほ」を増発する一方、「こだま」は大幅に減便された。九州新幹線、特に長崎方面から新大阪駅への乗り入れ希望もあるが現状では難しい。

新大阪の新しい新幹線ホームは、どのようなイメージなのか。国交省の資料では、現状の高架ホームとは別に、リニア新幹線と北陸新幹線の地下ホームを造り、さらに山陽新幹線からの接続線も連絡させて、鹿児島や長崎からも乗り入れると示された。一体的に施工することで、総事業費を抑えようという考えもある。

あわせて、大阪市は、新大阪駅エリアが都市再生緊急整備地域の候補となったことを受けて、今年1月に関係者会議を開催した。新大阪駅から十三駅、淡路駅も含めた広いエリアでスケールの大きいまちづくりに取り組むという。会議には、JR西日本や阪急、大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)の役員も出席した。

新大阪駅の周辺には未利用の市有地や民有地が広がっており、その有効活用が長年の検討課題となっていた。まちづくりと鉄道事業を一体的に推進することで用地を生み出し、国に容積率を緩和してもらうことで民間投資を呼び込みことが期待されている。

近未来SFのような地下ホーム構想。夢のある話だと思うが、気になる点が2つある。

新幹線新ホームはどこに?

1つ目は、新幹線新ホームの整備される場所だ。


地下鉄御堂筋線は国道423号(新御堂筋)と同時に新大阪駅まで整備された。40年前の計画では北陸新幹線は道路下に地下線として整備する構想だった(筆者撮影)

大阪市が1979年に作成した報告書によると、北陸新幹線は新御堂筋(国道423号)の地下に敷設し、駅ホームは南側への延長も考慮するとされていた。ただ、ルートが亀岡市経由から京田辺市経由に変更されたので、40年前のプランは参考にならない。

現在の新幹線や各線との乗換のしやすさは最低条件である。駅周辺での用地買収が困難なことを考えると、既存の鉄道空間を活用することになろう。

注目したいのが、JR西日本宮原操車場(網干総合車両所宮原支所)。新幹線と地下鉄ホームのすぐ西側にある14.6haの車両基地だ。

歴史のある設備で、今も大阪駅や新大阪駅を発着する電車の折り返し設備や留置線として使われている。ただ、近年、基地としての機能は大幅に縮小され、広大な敷地で待機している電車は数えるほどだ。

似たようなシチュエーションなのが、2020年に暫定開業するJR東日本の高輪ゲートウェイ駅だ。品川駅に隣接する車両基地が大幅に縮小され、跡地の一部9.5haで品川開発プロジェクトが進められている。

宮原操車場も1990年代から再開発用地と期待されており、今年1月にも新聞報道があった。周辺で取材すると「リニアの新駅は宮原の車庫の地下にできるらしいで」と語る気の早い不動産関係者もいた。


新大阪駅の新幹線ホーム西側にある宮原操車場。広大な敷地に停車する電車や客車は少なく、新幹線巨大地下ホームの候補としては適地かもしれない(筆者撮影)

2つ目は、リニア新幹線の新大阪駅開業が2045年、北陸新幹線が2046年……と25年以上先とされていることだ。あまりにも遠い未来であるため、リアルな話だと実感しにくい。

関西各府県や財界は、国に対して2030年代の新大阪開業を要請している。

1つの目標年次は2037年だ。JR東海は財政投融資を活用した3兆円の長期借入を行い、リニア新幹線の大阪開業を「最大8年は前倒しする」方針を示した。北陸新幹線も敦賀開業直後の2023年度に着工すれば2037年に開業できるとの観測もある。

大阪市は、新大阪エリアのまちづくりに関して、リニア・北陸新幹線の「2037年開業」を前提としたスケジュールを示した。JR西日本は中期計画で「新大阪広域ハブ拠点化」の目標時期を2030年代としている。

リニアの計画は予定通り進むか

ただ、リニア新幹線は本当に2027年に名古屋まで開業するのか。用地買収の遅延、静岡県との対立など懸念材料が多い。工費は品川―名古屋で5兆4300億円、新大阪までだと9兆円とされるが、予算オーバーすれば新大阪駅延伸の時期にも響いてくる。

北陸新幹線敦賀―新大阪間の調査は3月で完了し、月末に大まかなルートと駅が公表されるが、開業時期を早めるための財源がないのが難題だ。工事中の整備新幹線3区間の開業時期を早めるために、40年以上先の線路使用料など5400億円分の財源を前倒しで予算化したからだ。2031年までは本格着工ができない。

さらに、金沢―敦賀間の予算超過も問題になっている。当初事業費の1兆1600億円から2割増の1兆4100億円に膨らんだ。残る敦賀―大阪間の事業費は2兆1000億円と試算されたが精査は必要だろう。

与党は大阪延長のための安定財源を2019年内に見つけると説明している。財務省は、10年以上、国費から新幹線に投入する金額を年700億円台で据え置きしてきたが、本当に今の整備スキームを見直すことができるのか。今後、JR西日本が線路使用料の増額という形で費用負担に応じるかどうかも1つの焦点だろう。

新大阪駅の巨大地下ホーム構想や再開発構想は、政治的な動きと切り離して考えることはできない。今年は統一地方選や参院選、大阪府知事選・市長選があるうえに、大阪都構想の住民投票、衆院選の噂も出ている。今後、どんなアイデアが出てくるのか注目していきたい。