ピエール瀧

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ピエール瀧が麻薬取締法違反の疑いで逮捕されたことが、3月12日にNHKほかで報道された。薬物検査では陽性で、本人もコカインの使用を認めているという。

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寝耳に水だった。大河ドラマ『いだてん』に出演しているほか、公開を控えている出演映画も『麻雀放浪記2020』『居眠り磐音』など多数。2014年公開の『アナと雪の女王』でオラフの吹き替え担当するなど、子供にも親しまれていたし、TBSラジオ『たまむすび』では木曜日にレギュラー出演していた。

石野卓球と2人組で活動している電気グルーヴは今年で結成30周年。1月にアニバーサリーアルバム『30』をリリースし、記念のライブツアー『電気グルーヴ30周年“ウルトラのツアー”』の最中だった。また『ARABAKI ROCK FEST.19』『FUJI ROCK FESTIVAL'19』にも電気グルーヴの出演が発表されていた。

電気グルーヴおよびピエール瀧のオフィシャルサイトでは、本日3月13日に「ピエール瀧の逮捕について」と題する記事を公開。「現在、詳細な事実確認を行っておりますが、この事態を重く受け止め、多大なるご迷惑をおかけしております関係各位の皆様へ対応させていただく所存です。また、本人の処遇につきましては、捜査の進捗を見守りつつ厳正に対処してまいります」としている。

また、3月15日と16日に予定されていた電気グルーヴのライブが中止になることもあわせて発表された。

映画やドラマに欠かせない個性派俳優としての地位を築き、本業(なのかもはやわからないほど俳優として活躍していたが)のミュージシャンとしても節目の年を迎えていた。各所への影響は大きい。

■問われる慎重な報道のあり方。荻上チキらによる「薬物報道ガイドライン」を確認
メディアでの報道も加熱しているが、一方で薬物問題の報道内容についても議論を呼んでいる。違法薬物の使用が犯罪であり、看過されるべきでないのは前提だが、報道の対象者が治療が必要である薬物依存症の可能性もあるほか、薬物報道が薬物依存から復帰しようとする人たちの妨げになる可能性も考慮しなければならないからだ。薬物報道のあり方については、2017年に荻上チキらによってガイドラインが提案されている。

薬物報道のあり方については、2017年に荻上チキらによってガイドラインが提案されている。これはTBSラジオ『荻上チキ・Session-22』で放送された「薬物報道ガイドラインを作ろう!」という企画から生まれたもので、松本俊彦(国立精神・神経医療研究センター)、上岡陽江(ダルク女性ハウス代表)、田中紀子(ギャンブル依存症問題を考える会代表)との議論を経て作られた。下記のような内容だ。

薬物報道ガイドライン
▼望ましいこと
・薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者およびその家族や子供などが、報道から強い影響を受けることを意識すること
・依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること
・相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること
・友人・知人・家族がまず専門機関に相談することが重要であることを強調すること
・「犯罪からの更生」という文脈だけでなく、「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと
・薬物依存症に詳しい専門家の意見を取り上げること
・依存症の危険性、および回復という道を伝えるため、回復した当事者の発言を紹介すること
・依存症の背景には、貧困や虐待など、社会的な問題が根深く関わっていることを伝えること

▼避けるべきこと
・「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと
・薬物への興味を煽る結果になるような報道を行わないこと
・「人間やめますか」のように、依存症患者の人格を否定するような表現は用いないこと
・薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと
・逮捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないこと
・「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと
・ヘリを飛ばして車を追う、家族を追いまわす、回復途上にある当事者を隠し撮りするなどの過剰報道を行わないこと
・「薬物使用疑惑」をスクープとして取り扱わないこと
・家族の支えで回復するかのような、美談に仕立て上げないこと

(引用元:【音声配信・書き起こし】「薬物報道ガイドラインを作ろう!」荻上チキ×松本俊彦×上岡陽江×田中紀子▼2017年1月17日(火)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」平日22時〜)https://www.tbsradio.jp/108928)

メディア報道が陥りがちな例が挙げられているが、いずれも報道の当事者と、現在回復しようとしている依存症患者への影響を考慮した内容だ。たとえば、「『がっかりした『反省してほしい』といった街録・関係者談話などを使わないこと」は、依存性者がネガティブな言葉を自分に向けられているかのように感じ、家族と関係や治療に向き合うことを妨げるのを回避するため、といったように、それぞれに理由がある。

■BPOによる「薬物問題報道についての要望」。個人を断罪するだけでは済まない問題
「薬物報道ガイドライン」に先立つ2009年、放送倫理・番組向上機構(BPO)は「青少年への影響を考慮した薬物問題報道についての要望」を発表している。これは当時の過剰な各放送局の著名人薬物報道に対する苦言めいたもので、青少年を違法薬物から遠ざけるために要望された。とくに「多角的報道」の項目は示唆的だ。

<薬物をめぐっては規範意識の向上を含めて、極めて多角的な側面があります。大量の薬物を密輸・密売する犯罪組織が存在しその資金源の一部になっていること、薬物使用者ばかりではなく、その家族までもがいつの間にか犠牲になるような事態が生じていること、薬物使用者の治療と社会復帰への支援が必要なことなど、さまざまな社会問題を総合的に解決しない限り、薬物の根絶という課題は解決することはできません。各放送局には、薬物犯罪を犯した個人に焦点を当てるだけでなく、その背景や影響をふくめて多角的に報道し、薬物問題の解決に向けて取り組まれることを要望いたします。

(引用元:2009年11月2日 | BPO | 放送倫理・番組向上機構 | https://www.bpo.gr.jp/?p=5134)>

さらにこの要望では、「薬物犯罪の背景にある社会問題への怒りを欠いた報道は、青少年に無用な好奇心を抱かせるだけに終わることがある」と指摘している。今回の事件も例外ではない。「被害者なき犯罪」といわれがちな薬物犯罪だが、その認識では違法薬物問題は根本的に解決しないだろう。たとえばコカインの原料であるコカを生産せざるをえない貧困層と、それを流通させるネットワークが存在しており、違法薬物の購入者がその構造を維持する「需要」を生み出しているのは事実である。「被害者なき犯罪」などではないが、しかし著名人個人を断罪すればそれで解決する問題でもない。

■薬物依存から復帰して、子供たちのヒーローになったロバート・ダウニー・Jr.
先述した『荻上チキ・Session-22』では、タレントや俳優が薬物犯罪をおかした場合について「仕事を奪う傾向にある」と指摘。薬物犯罪から立ち直り、「マーベル・シネマティック・ユニバース」シリーズでアイアンマンを演じたロバート・ダウニー・Jr.を立ち直った例として挙げている。ロバート・ダウニー・Jr.は幼少期からドラッグ問題を抱え、1996年の初逮捕を皮切りに計6度逮捕。2003年からスクリーンに復帰し、2008年に『アイアンマン』で主演を務めた。

もちろんロバート・ダウニー・Jr.の実力があってこその話ではあるが、元薬物依存症者でも、立ち直ればヒーローを演じることができるという事実は、きっと多くの人々を元気づける。そういった復帰例を増やすためには、適切な認識と理解を促す報道が必要だろう。

ピエール瀧が薬物依存といえるほど薬物を常用していたのかは現時点ではさだかではないし、起訴前であり、有罪が確定したわけではないが、今後の動きを慎重に見守りたい。