犬!人形!映画!『犬ヶ島』には、やっぱり異常な愛情が詰めこまれていた!

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鬼才ウェス・アンダーソン監督。彼の最新作の制作過程を追った書籍、『The Wes Anderson Collection:メイキングブック 犬ヶ島』(以下『メイキングブック』)が先月刊行された。今回は、特別に出版社の許可が得られたので、その一部を抜粋して紹介していこう。

犬、人形、映画、そして日本文化。
この本を読んだら、それら全てに対する監督やスタッフたちの異常なまでの愛情の強さがひしひしと伝わってきた。

造形と映像の関係性を考える特集第2弾。記事の最後に書籍のプレゼント情報あり!

文/飯田直人(livedoorニュース)
デザイン/桜庭侑紀
画像提供/松竹株式会社 フィルムアート社

ウェス、まさか『枕草子』読んだ?

『犬ヶ島』(2018年)は『ファンタスティックMr.FOX』(2009年)以来、ウェス監督2作目となる長編ストップモーションアニメ。制作年数4年、総計1097体もの人形を用いて撮影された大作である。まだご覧になっていない方もいるかと思うので最初に、映画の予告編動画とあらすじを掲載しておこう。
<あらすじ>
近未来の日本。ドッグ病が大流行するメガ崎市では、人間への感染を恐れた小林市長が、すべての犬を“犬ヶ島”に追放する。ある時、12歳の少年がたった一人で小型飛行機に乗り込み、その島に向かった。愛犬で親友のスポッツを救うためにやって来た、市長の養子で孤児のアタリだ。島で出会った勇敢で心優しい5匹の犬たちを新たな相棒とし、スポッツの探索を始めたアタリは、メガ崎の未来を左右する大人たちの陰謀へと近づいていく──。
20世紀フォックス公式サイトより引用
「ウェスの日本愛は本物だ!」
この映画の設定を知ったとき、筆者は感動で震えた。なぜか? 一見奇抜な設定だが、犬を追放するための島というのは、日本では平安時代から実在したものだからだ。
実は、『枕草子』にも記述が残っている。清少納言は、宮中で高貴な猫を脅かした犬「翁丸」が、野犬を収容する「犬島」へ島流しにされそうになった話を書いていた(『枕草子』第6段を参照。翁丸は島流しこそ免れたが、その後、家来から原形がわからなくなるほどボコボコにされてしまった。かわいそうに)。日本好きを公言するウェスではあるが、まさか、『枕草子』なんて古典まで読み込んでいるのか?

また、伊勢神宮(三重県)では長らく犬は「ケガレ」として忌み嫌われてきた。かつては神宮の境内から遠ざけるべく、近辺の野犬を捕まえて川の対岸まで連行する「犬狩り」という行事が行われていたという。もしかして、ウェスが参照したのはこちらの関連資料だろうか?

いずれにしても、日本には犬を閉じ込めるための島があった。日本人でさえほとんど知らないそんな事実をよくウェスは調べあげたものだ!

『メイキングブック 犬ヶ島』で確認

筆者はそんなふうに感動したのだが、しかし、実際どうだったのかは知らない。『メイキングブック』には、ウェスと共同脚本の執筆者2人が企画の初期段階について語った鼎談(ていだん)が収録されているので、これを読んで企画の発端を確認してみよう。
鼎談を読むと、そこには『枕草子』の話も伊勢神宮の話題も、一切出てこなかった。早い話、“ウェス・アンダーソン『枕草子』読んだ説”は筆者の勝手な思い込みでしかなかったようだ…!(まあそんな気はしてた。)

それはさておき。
『犬ヶ島』の世界観は、監督たちが次回作のイメージについて話し合いをする過程で徐々に仕上がっていったのだそうだ。最初に決まっていたのは、「犬とゴミが出てくる物語」「日本の映画」「SF的な感じ」が作りたいという、本当に漠然とした3つの方向性だけ。『犬ヶ島』の設定は、言ってみれば、“なりゆき任せ”で出来上がっていったようである。

しかし、“なりゆき任せ”は決して悪いものじゃない。というのも、監督が決め切っていない部分が多ければそれだけ、大勢いる制作スタッフたちの工夫が発揮される余地が大きくなるからだ。
Copyright ©2018 Lauren Wilford
“ISLE OF DOGS” ©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
(以下全て同様)
読み進めていくと、『犬ヶ島』の世界観が監督の強烈な個性だけでなく、多くのスタッフたちとの共同作業によって次第に形作られていった様子がよくわかる。特に印象的なのは、造形スタッフたちの異常なまでのこだわりの強さだ。パペット(人形)や美術セットを制作する際、はたから見れば「そこまでやる?!」と言いたくなるほど彼らは凝った仕事をしていたのである。

『メイキングブック』では、そうした映画制作における“影の主役”たちにスポットライトが当てられている。以下ではそこからいくつかの写真と文章を抜粋し、他ではなかなか知ることのできない、彼らの活躍ぶりに目を向けてみよう。

『メイキングブック』には監督やスタッフへのインタビューが豊富な写真とともに掲載。現場の雰囲気が良くわかる。

パペット部のこだわり

▲パペット部チーフのアンディー・ジェントと愛犬チャーリー

『犬ヶ島』制作チームのパペット部には、何匹かの常連犬が出入りしていたという。このことについて、パペット部チーフのアンディーは次のように語っている。

「すごくいいんだよ、本物の犬が仕事場にいるっていうのは。犬といると幸せな気分になれるし、ストレスも減るしね。それに、こういった仕事の場合、犬がそばにいるとすごく参考になる。例えば、犬は悲しげな表情や考えにふけっている表情をするし、いたずらっぽい顔になったり警戒をあらわにしたりする。(中略)パペットにも、犬のこんな能力を与えないといけない」

犬とパペットに対する愛の深さが伝わってくるコメントだ。アンディーは『ファンタスティックMr.FOX』のパペット制作にも参加していたウェス組のベテランだが、今回の映画は犬が主役でさぞうれしかったことだろう。インタビューの中では他にも、「誰だって、犬に“犬語”で話しかけたりするだろう。だが、パペットの犬は話せるんだ。ちゃんとした会話ができるんだ」などの発言もしていた。これは…もしかしたら仕事をし過ぎて疲れていたのかもしれない。
ぬいぐるみのように見えるパペットたちの中には、「アーマチュア」と呼ばれる骨格が組み込まれている。これがあるおかげでパペットは激しいアクションをこなし、全身で豊かな感情表現を行うことができるのだそうだ。
撮影中に生じるさまざまな要求に応えるべく、アーマチュアの設計図には追加事項や修正点などがびっしりと書き込まれていった。

ヒトのパペットも同様に、アーマチュアを用いて作られている。眉毛や耳、頬などの細部もアーマチュアを動かすことで様々な表情を演出できるそうだが、『犬ヶ島』はセリフが多く、表現するべき顔の表情も多かったので、制作の途中からパペットに付け替え可能な無数のマスクを用意するようになったそうだ。
しかも、ソバカスのあるキャラクターであればその位置がズレすぎないようにするなど、細心の注意を払いながら…。なんという手間だろう!
さらに、撮影する場面・セットに合わせて、同じキャラクターのパペットを3つのサイズ(場合によってはそれ以上)で制作したそうだ。
パペット本体だけでなく、彼らがまとう衣装も同様に大変な手間が掛けられている。

▲衣装デザイナーのマギー・ヘイデン

パペットの衣装デザインは、普通の服のデザインとは少々勝手が違う。肉眼で見たときにすてきに見える素材でも、小さなパペットに着させてアップで撮影するので、映画の画面で見たら思っていたよりも織り目が粗すぎたなど、そういうスケール感の違いによるミスがしばしば起こるらしい。それを防ぐコツとして、衣装デザイナーのマギーは常に拡大鏡で生地の織り目を確認し、衣装用の生地としての良し悪しを判断するのだという。「そうすればクローズアップになったとき、どんな風に見えるかわかるから」。
また、生地は探してくるだけでなく、自分たちでプリントなどの加工を施す場合も多く、それだけに独自の工夫もいろいろとあるという。「例えばシルクにブラシをかけると、スクリーンで大映しにしたとき、ウールっぽく見えたりするの。いつもこんなことばかり考えているのよ(笑)」など、作業の細部をうれしげに語るマギーのワーカホリックぶりも印象的だ。

身近な素材で作る “特殊効果”

こんな記述もある。

「ウェスは、ありのままの、ざらっとした手触りのあるものを作ろうとしている。つまり、すべての素材をありのまま表現しようとしているのだ」

この最もわかりやすい例は、ケンカの場面である。取っ組み合いのケンカを白い煙で表現するのは、昔から漫画などでもおなじみの手法だが、『犬ヶ島』ではこれが「綿」を用いて再現されていた。下の写真を見てほしい。たしかに、どう見てもこれはモコモコの手芸用の綿そのものである。
筆者は図工の時間が懐かしくなってしまった。誰しも、白い綿を雲や煙に見立てて工作した経験があるだろう。世界トップレベルの映画監督が、まるで小学生みたいな遊びをしている。ウェスのアニメーション表現が新鮮に感じられる理由は、そういうギャップがあるからなのかもしれない。
美術セットについてのページを読んでいくと、他の場面でもかなり素朴な素材が使用されていたことがわかる。たとえば上の写真の満開の桜。さて皆さん、このピンクの花の部分が何でできているかわかるだろうか?
答えは「ミキサーで細かく砕いたスポンジ」。そういえば食器洗い用スポンジって、こういう色のものがよくあるよなあ。

続いての問題は、きらめく大海原。この海の材料は…。
上の写真では少しわかりにくいが、この海は、食品用のラップの表面に、性行為用のローション(!)を塗りたくることで表現されている。ラップの下にはローラーが設置され、それが回転することで海面が波打つ仕組みになっているそうだ。

どこまでもアナログな表現にこだわった『犬ヶ島』。どの部分が何でできているのか、素材に注目ながら見ると、鑑賞がまた一段と楽しくなりそうだ。

グラフィックはほぼすべて手描き

『犬ヶ島』のアナログさへのこだわりは本当に尋常じゃない。どうやら、映画内のグラフィックデザインは大部分が手描きで行われたらしい。iPad一つでなんでもできてしまう時代に、なぜそこまでするのだろう? さらなるアナログ志向の極め付けは、作中に登場する「写真」を、木版画で制作していたということだ。木版画って!
『メイキングブック』の中に特にそういう言及はなかったが、日本=浮世絵=木版という思考回路なのだろうか。グラフィックデザインを担当したドルン絵里加によると、最初から「ウェスは、作中に登場する写真はすべて木版画にしようと決めていた」そうだ。

最終的に木版の数は30枚以上になったという。ある日舞台裏を見学しにきた人が「デジタルで作業した方がいいんじゃない?」と言ったらしいが、これは誰だって手間を掛けすぎだと思うだろう。しかし、ドルンはこのやり方に満足しているようで、「この作品の本当の魅力は、スタッフたちの技術にあると思っています」と、自信ありげに語っていた。
ちなみに『犬ヶ島』は未来の日本が舞台ではあるが、ドルンたちがデザインの参考にしたのは昔の日本の資料だという。特に大きな影響を受けたのは、1950〜60年代の印刷物やパッケージデザイン、日本映画の室内装飾や背景などだそうだ。
以上、『メイキングブック』の中から造形・デザインに関して印象的な部分を抜き出してきた。ここで取り上げたような点に注目して鑑賞すると、『犬ヶ島』という作品が一層愛おしく思えることだろう。
『The Wes Anderson Collection: メイキングブック 犬ヶ島』
ローレン・ウィルフォード、ライアン・スティーヴンソン=著 金原瑞人=訳
発行:松竹株式会社
発売:株式会社フィルムアート社
定価:4,800円+税  
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