元祖・横浜家系ラーメン「吉村家」のラーメンと白玉とライス(筆者撮影)

横浜家系ラーメン。1974年創業の「吉村家」(当時は新杉田駅近く)を源流とし、その弟子や孫弟子を中心に神奈川県を中心に広がっていった豚骨醤油ラーメンだ。

屋号に「○○家」という店名が多かったことからファンの間で「家系(いえけい)」と呼ばれる。クセになる味とともに、麺の硬さ、油の量、味の濃さをお客の好みで調整できるのも人気だ。


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近年、首都圏を中心に家系ラーメン店の増加が著しい。繁華街を歩いていて「○○家」と付いたラーメン店をよく見かける人は少なくないはずだ。正確な統計はないものの、今年の年頭にラーメン評論家の大崎裕史氏が行った店舗名調査では、興味深い結果が出た。

上位にはどんな文字が?

調査対象にした東京都のラーメン店(1万1107軒)で、屋号(店名)の最初の2文字が何であるかを調べたのだが、多く使われている順に並べたランキングの上位を見てみよう。

1位:中華 1019軒
2位:らー(ラー) 855軒
3位:中国 322軒
4位:麺屋(麺家、麺や) 275軒
5位:横浜 236軒
6位:日高 161軒
7位:つけ 151軒
8位:博多 145軒

ポイントは5位の「横浜」だ。これは東京に横浜のラーメン店が進出してきたということではない。「横浜家系ラーメン」のチェーン店だ。2000年過ぎごろから「横浜家系ラーメン」や「〇〇家」という店名を付けながらも、吉村家やその系列店の流れをくまない豚骨醤油ラーメンのお店が増加した流れがある。

ここ5年ほどで数社の大手外食系企業によって運営されているチェーン店、いわゆる「資本系」が一気に家系ラーメン店を各地にオープンさせた。赤い看板に大きな文字で「横浜家系ラーメン」と書いてある看板を街でよく目にする人も多いだろう。発祥である神奈川県にはまだ根強く横浜家系ラーメンの老舗がいくつか残っているが、都内やとくに地方に関してはそのほとんどが「資本系」によるFC(フランチャイズチェーン)店と言っていいだろう。

一方で、家系ラーメンのお店で修業し、そこにルーツがありながらも、店名に「○○家」を冠せずに独立する若いラーメン店主の動きもある。


「らーめん飛粋」の店舗外観(筆者撮影)

大田区・蒲田に2018年2月にオープンした「らーめん飛粋」。家系では「末廣家」(白楽)が好きだと語る店主の小泉裕太氏は26歳とまだまだ若い。学生時代、坊主頭に太った容姿でなかなかバイトの面接に受からず、唯一自分を拾ってくれたのが家系ラーメン店だった。

それから家系一筋で修業し、2018年修業先の閉店とともに独立したのだが、「らーめん飛粋」の店名からは家系の雰囲気は感じない。それだけではない。店構えもまるで料亭のようで、家系ラーメンの体育会系なイメージを捨て、少し高級に見せる工夫が見える。店の前ではメニューは確認できず、木でできた看板に店名が筆文字で書かれているのみだ。派手な看板やメニュー表示はハナから考えていなかったという。

「“家系=男”みたいなイメージで長い間語られてきましたが、今の時代には合わないと思うんです。それを覆したくて」と小泉氏は言う。


「らーめん飛粋」の特製らーめん(筆者撮影)

作り方も非常に丁寧で、豪快というよりは繊細な手さばきだ。親鶏だけで採った黄金の鶏油がかかった一杯は、濃厚だがどこか上品でおいしい。ラーメン業界の権威とも言われる「TRY大賞新人賞」の豚骨部門5位にも選ばれた。

「大手のFC展開で家系はお店が増えすぎました。工場ではなくお店でスープを炊いて作っている私たちとしては、そこと混同されたくないんです」(小泉氏)

FCとの差別化を図りたい

さいたま市大宮区にもう1軒、家系ラーメンをルーツとしながらもそう見えないラーメン店がある。「麺家 紫極」。「二代目武道家」(中野)出身の荒井剛氏が地元・さいたま市で2018年8月にオープンした。「麺家」は「麺屋」「麺や」とも同じように使われる屋号で、家系ではそうそう使わない。


「麺家 紫極」の店舗外観(筆者撮影)

埼玉県には家系ラーメン店は少なく、あっても資本系のFC店がほとんどだった。神奈川や東京のようにもともとおいしい家系ラーメン店が根付いていたわけではなかったので、お客さん的に家系ラーメンがうまいという認識がないまま資本系が進出していった。そのせいか失敗して閉店するケースも多かったそうだ。

資本系しか食べたことのない埼玉のお客さんの中には、家系が資本系のお店の味というイメージを持っている人も少なくないようだ。そこで荒井氏も小泉氏と同様の考えで、混同されないように、家系を連想させないような屋号としたワケだ。


「麺家 紫極」ののり・ほうれん草ラーメン(筆者撮影)

横浜家系ラーメンが資本系の波を受けていることについては、「時代の流れ」なのではないかと荒井氏は話す。「これはブームではなく増殖ですよね。家系に関しては、お客さんの食へのこだわりが見えなくなってきています。職人ももう必要ないのかもしれません」(荒井氏)

「吉村家」から始まった横浜家系ラーメン。かつては「家系」であることがブランドだった時期もある。今や資本系の屋号が目立つうえ、家系で修業しながらも独立の際には「家系」「〇〇家」を店名に冠した店を出さない若い店主が出てきた。「家系」のブランドがあまりに一般化し、希少性が落ちてしまっていることを示唆するようだ。